第128話 砂の城(2)

「私も里佳子も大勢の前でどうしようもない恥を晒してしまったのよ……私達の人生は終わったも同然だわ……」
「……」
「今回は免れたけれど、いずれ私達も加藤さんの家族のように街中を素っ裸で走らされることになるわ。そうなるとこのニュータウンではもう顔を上げて歩くことなんか出来なくなる」
「貴美ちゃん……私が、お母さんが何とかするから……」
「何とかするって、どうするのよっ!」
テーブルの両足にすっかり身体を固定された貴美子が声を荒げる。
「お母さんったら、いかがわしいソープランドで、何十人もの客に体を売ったらしいじゃない。それだけの恥を晒したお母さんなら何も怖いものはないだろうけど、私や里佳子はどうすればいいのっ!」
貴美子は興奮して涙声になる。二人のやり取りをおろおろして見守っていた里佳子も、貴美子に釣られたようにシクシク泣き出す。
「あんなに頑張って勉強して入った大学なのに……街中をストリーキングさせられたりしたら、もう辞めるしかないわ。里佳子だって、どんな顔をして学校へ行けばいいのっ、今夜の私達の見世物には、東中の教師だって来ていたのよっ」
「それに明日になれば――もう日は変わっているけれど――またA工高で死ぬほど恥ずかしい目にあわされる。あれがどれほど辛いことかお母さんには分からないでしょうっ」
貴美子はそこまで一気に言い放つと、わっと泣き出す。裕子は顔を伏せ、ひたすら「ごめんなさい、許して……」と繰り返すばかりである。
貴美子と裕子のやり取りをさも楽しげに見守っていた香織はパン、パンと手を叩いて「さあ、母娘喧嘩はそこまでよ」と楽しげな声を上げ、座り込んですすり泣いている裕子に近寄る。
「娘にこっぴどく叱られて、自分がどれほどお馬鹿さんで駄目な母親だったか改めて自覚出来たんじゃない、どう? 裕子」
香織は握り締めた拳で裕子の頭をグリグリと押さえ付ける。裕子はシクシクとすすり泣きながらそんな屈辱を必死でこらえている。
「さ、言ってご覧なさい。私は母親失格です、って」
「……」
「言うのよ!」
香織は拳を持ち上げ、裕子の頭の上にゴン、と振り落とす。
「い、痛いっ!」
「言うのよっ、言わないかっ!」
香織は急に目を吊り上げ、裕子の頭をゴン、ゴンと叩き続ける。香織の突然の激高に美樹たちは唖然としているが、テーブルの上に身を横たえた貴美子は氷のように冷たい視線を向けているだけである。
「い、言いますっ、言いますわっ」
意地も張りもなくした裕子は香織に命じられるまま「私は母親失格です」と小声で口にする。
「もう一度言うのよっ」
「私は母親失格ですっ」
「もう一度っ!」
「私は、母親、失格ですっ!」
裕子は自棄になったようにそう言うと、「うっ、うっ……」と肩を震わせて慟哭する。
「そうよ、これからはなんでも素直になりなさい。私達がみっちり女として、母親としての心構えを再教育して上げるわ」
香織が勝ち誇ったようにそう言うと裕子の慟哭が一層高まる。里佳子がつられたように泣き声を高め、テーブルの上に固定され、敦子や順子によって素肌の上にチーズや生ハムを並べられている貴美子もさも口惜しげにすすり泣いている。
文子と良江がワインの栓を抜き、ゲストのグラスに注いで行く。
「あんたの娘二人も、あんたの教育が行き届かなかった分、たっぷり躾直して上げる」
香織は甘ったるい声でそう言うと裕子の肩を抱く。
「よろしくお願いします、って言うのよ」
「……よろしくお願いします」
裕子はまるで意志を失ったように掠れた声で服従の言葉を告げる。
「それじゃあ、みんな、乾杯よ」
香織が手に持ったグラスを高く上げると、美樹、文子、良江、敦子、順子の5人はそれに倣う。
「小椋家の崩壊に乾杯!」
「乾杯!」
香織の声に5人が唱和すると、裕子たちのすすり泣きが一層高まる。
「それぞれ素っ裸の女奴隷として再出発した小椋家の女達に乾杯!」
「乾杯!」
耐えられなくなった里佳子が顔を覆って泣き崩れる。貴美子も自らのあまりの悲惨な運命を思い知らされたかのように泣いている。6人の女はワインを飲み干すと空いたグラスに再び酒を注ぐ。
「あんたたちにも飲ませて上げるわ」
香織が赤ワインを口に含んで裕子を抱き寄せ、唇を求めると身も世もなく裕子は催眠術にかかったように目を閉じ、自分を奴隷に堕とした女に唇をゆだねる。
「うっ、ううっ……」
裕子の口の端から真っ赤なワインが垂れ落ち、首筋から胸元へと伝って行く。白い肌の上に血のように伝うワインが作り出す模様の凄艶な美しさをしばしうっとり眺めていた女達は、やがて香織の真似をするように、美しい生贄達にワインを口移しで飲ませて行く。
「ぐっ、うう……」
「い、いや……うっ……」
敦子と順子が交互に貴美子の唇を求め、テーブルに仰向けで固定されたままの美貌の女子大生の喉の奥へと赤ワインを注ぎ込んで行く。美樹は同様に、口当たりの良いスパークリングワインを里佳子に飲ませている。
中学3年の里佳子は生まれてこの方、酒を飲んだことがない。また大学一年の貴美子も同学年の友人がアルコールを口にする中、裕子の躾が厳しかったことと本人のまじめさもあり、20歳になるまでは酒は口にしないと心に決めていた。
したがって姉妹はいずれも飲酒初体験である。初めてのアルコールを2回、3回と飲まされていくうちにもともと体質的にそれほど強くないこともあって、姉妹の白磁の肌はたちまちピンクに染まり、ハア、ハアと荒い息が聞こえ出す。
裕子は香織の他、文子、良江が三人掛かりで飲まされている。「もう許して」という哀願も無視され、裕子はいまだ経験したことのない酒量を無理矢理体験させられている。
4本のワインがすっかり空けられた時には、3人の美女は完全に急性アルコール中毒の症状を示していた。
「お、おられら……もういられる……」
「も、もうのめまれん……」
「きもりわるい……ゆるりれ……」
裕子は床の上で横座りになり、貴美子は相変わらずテーブルの上に固定され、また里佳子はソファの上で美樹に抱かれて、真っ赤な顔で喘いでいる。
「この3人、何を言っているの?」
「貴美子は『もう飲めません』って言っているんじゃないかしら」
「里佳子は『気持ち悪い、許して』かな」
「裕子なんて全然分からないわよ」
6人の悪女たちは小椋家の女奴隷たちの最悪の状況を肴に、洋酒棚から取り出して来た高級ブランデーを飲みながらゲラゲラ笑い合っている。

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