『被虐の鉄火花』は、現在まででおよそ文庫本で10冊分。この手の小説では異例の長さとなりました。
物語の方はだいぶ前から大詰めと言ってますが、それにもかかわらず、いっこうに終わる気配がありません。
いや、終わろうと思えば終われるのです。その機会もこれまでいくらでもありましたし、今でも、救援が現れて蘭子以下全員解放という展開は十分可能です。
葉子なんて新キャラを出してだらだら続けるよりは、小説としてはその方がずっとバランスが良いでしょう。
なら、どうしてそうしないかですが、それは『被虐の鉄火花』については作者自身がいわゆる小説を書いているつもりはさらさらないからでしょう。
SM小説だからといって、その手の描写以外まったく不要という訳にはいきません。舞台設定、登場人物の性格、関係などについての十分な描写がないと、読者はそもそもが荒唐無稽な物語の世界に入っていけません。SM小説は嗜虐者と被虐者、また被虐者どうしの関係性に興奮するものでもあるからです。
『被虐の鉄火花』もそういった、濡れ場以外の描写にはそれなりに力を注いできました。それでようやく関東の架空の城下町が、倒錯者たちのパラダイスの様相を示してきたのです。
『鉄火花』を完結させ、新しい物語を始めるとなると、このパラダイス構築の地道な作業を一からやり直すことになります。それは非常に体力および精神力を必要とする作業です。白川自身の年齢を考えると、新しい作品が『鉄火花』以上のものになるかどうか、自信はありません。であれば、このまま続けるのが吉という考えもあろうかと思います。
若葉屋もようやく開店。蘭子や葉子の受難の日々は当分続くことと思います。今後の展開は作者自身にも測りかねるところがありますが、どうかもうしばらくお付き合い願えればと思います。
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