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薄暗い古本屋

久々に「白川夜話」再録。1999年3月30日掲載分です。

薄暗い古本屋

高校生の頃、学校のある駅の一つ手前を降りて、線路沿いに歩いたところに、薄暗い古本屋がありました。
名前はもう忘れてしまいましたが、愛想の悪い親父が店の奥に坐っており、親父のすぐ隣の平台に、2、3カ月遅れのSM雑誌や奇たん倶楽部等が平積みにされていました。その横の棚には芳賀書店発行の、黒箱入り「花と蛇」や、久保書店のSM叢書などがが並べてありました。
中学生時代からSM趣味の道に足を踏み込んでいた私にとって、そこはまるで楽園のような場所でした。

未成年である私が、SM関係の出版物を手に入れるには、普通の本屋からでは限界がありました。どぎつい表紙のSM雑誌はとても買えません。桃園書房発行の、団鬼六の小説を買うのが精一杯でした。

話は少し脱線しますが、桃園書房の団鬼六シリーズは、タイトルを見ただけでは、内容が想像しにくくなっています。「新妻地獄」、「黒薔薇夫人」、「番長流れ者」、「夕顔夫人」、「緋ぢりめん博徒」などは、単なる中間小説のような装丁になっています。シリーズにも「異色現代小説」とう惹句が付されていましたし。気の小さなマニアが書店で買いやすいような配慮でしょうか。キオスクでフランス書院文庫が買える現在から見れば、隔世の感があります。

さて、桃園書房の新書で団鬼六ファンになっていた私にとって、探求すべき一大テーマが「花と蛇」でした。これの芳賀書店版を初めて見つけたのがこの古本屋でした。
奇クのバックナンバーも随分買いました。当時一冊200円くらいだったでしょうか。今は数千円するのではないかと思います。
最初の収穫は「地獄花(続夕顔夫人)」が掲載されたS&Mフロンティアでした。由利子ファンの私にとって、桃園書房の夕顔夫人(上下巻)のラストは、いささかフラストレーションのたまるものでした。
しかし、「地獄花」においては、弦月流家元、島原家の夢路と由利子の美人姉妹は、姉妹同時浣腸、同時排泄、肛門拡張調教、姉妹レズなどのハードな責めを受けており、私のフラストレーションを一気に解消する内容となっていました。
その他、絵物語花と蛇や、沖渉二作画の穴蔵令嬢がのったSMキング、奇たん倶楽部の花と蛇総集編、やはり桃園書房の新書版には掲載されなかった「肉体の賭け」ラスト4回、これらに出会ったのはすべて薄暗い古本屋でした。
私のような未成年が仮に普通の本屋でこういった本を買えば、白い眼で見られるか、場合によっては売ってくれなかったかも知れません。しかし、そのこ無愛想な親父は何も言わずにこれらの本を売ってくれました。

現在、古本屋はこぎれいな「新古本」を扱う明るい店が中心であり、昔ながらの古本屋でも、奇たん倶楽部をおいているようなところは、やたらに高くて手が出ません。
それに、SMそのものが随分明るいイメージのものになってしまい、かつてのような薄暗い古本屋での、怪しい未知のものに対するドキドキした出会いなどは望めません。

このHPは昔の薄暗い古本屋のイメージで作りました。訪れてくれる人が、かつて私が体験したような「今日はどんな怪しいものがはいっているか」、というようなときめきが少しでも得られるなら、望外の幸せです。


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