すっかり身体をとろけさせた京子と小夜子は、いったん葉桜団の銀子、朱美、義子、そしてマリによって点検を受ける。そして二人の美女はその秘奥が十分潤っていることを確認されると、葉桜団特製の鈴縄で二人の美女の股間を締め上げられていく。
「うっ、ううっ」
「ああ――」
銀子とマリは京子の、朱美と義子は小夜子の下半身を淫靡な鈴縄でキリキリと締め上げる。京子と小夜子は敏感な箇所を刺激され、傷ついた獣のようなうめき声を上げる。
「マリ、それじゃあケツの穴から鈴が覗いているよ」
銀子がまるで桃の実を割るように京子の双臀を立ち割ると、銀の鈴が京子の菊の蕾に食い込んだままはみ出しているのを見て苦笑する。
「いけね」
マリは頭をかくと京子の尻を腹立たしげにパシンと平手打ちする。
「ちゃんと呑み込んでいなければ呑み込んでいないといわないかっ!」
「ご、ごめんなさい」
不良娘に怒鳴られて小声で詫びる京子を見て、探偵事務所助手で勝ち気な京子をよくぞここまで追い込んだと、銀子は不思議な気持ちになるのだ。
「こっちはしっかり呑み込んでいるわ」
朱美は小夜子の菊花がその中心部に銀の鈴を食い込ませているのを確認すると、満足げに笑う。
「さ、始めるのよ」
朱美は京子の逞しいばかりに張り出した尻と、小夜子の白桃のように形のよい尻をパシンと叩く。
ライトが煌々とあてられ、井上たち森田組撮影班のカメラが廻り出す。京子がまっすぐカメラを見つめ、ぎこちない微笑さえ浮かべながら話し出す。
「わ、わたくし、野島京子と申します。六本木のある探偵事務所で探偵助手をしておりましたが、恋人である所長に命じられて、誘拐されたとある富豪の人妻を追って不良少女グループH団とポルノ映画製作をしているM組へ潜入捜査をしたんです。だけどそこで捕まってしまって、ポルノスターとして生まれ変わることになりましたの……」
「あんなに詳しく素性を喋らせていいの? やばくないかしら?」
朱美がこの場の監督となっている川田に、心配そうに尋ねた。
「なあに、かまわねえさ。この映画は一般には流れないことになっている。こうやって女奴隷の素性をしゃべらせることでリアリティが出て、喜ぶ客が多いんだ」
「リアリティって何よ?」
声が大きくなった朱美に、井上が静かにしろ、本番中だといらだった声を上げる。
「売るのはあたいたちなんだからね。お縄になる時もあたいたちが真っ先になるのよ」
朱美がそれでも声をひそめて言い募る。
「そんなこと、そろそろ森田組のチンピラたちにやらせりゃいいだろ」
「そういう訳にはいかないわよ」
そんなことを言い合っている川田と朱美をよそに、舞台上では小夜子の口上が始まっている。
「わたくしの名前は村瀬小夜子と申します。四谷の大きな宝石店の長女として生まれ、青葉学院を昨年卒業いたしました。ところが弟の文夫と共にM組に誘拐され、京子さんと同じく、実演ポルノスターとして生きていくこととなりました……」
京子と小夜子が交互に奇妙な自己紹介を続けていくのを、びっしり部屋を埋めたやくざとズベ公たちがニヤニヤ笑いながら見守っている。田代屋敷の二階の奥座敷は二人の美女が発する色気でむせ返るようである。
銀子は京子と小夜子の演技を見ながら、先程の鬼源の言葉を思い出している。
確かに鬼源が言う通り、京子と小夜子の必死さは静子夫人への思いによって支えられていると感じざるを得ない。
他ならぬ銀子自身が静子夫人に対しこれまで経験したことのないような気持ちを抱き、我を忘れて口説いたことがある。その時は京子とのコンビが成立していた夫人によって拒絶されたのだったが。
その静子夫人は今、屋敷の一室でつかの間の休息を与えられている。そして静子夫人のもとには種付けが成功したことに狂喜している千代が毎日通い詰め、ベビー服を見せながら夫人と話し込んでいるというのだ。
静子夫人に魅了されたものたち、京子、小夜子、銀子、千代、そして弁護士の伊沢――あの岩崎までもが静子夫人には一夜にしてほれ込み、自分のものにしたいと言い出したという。田代、森田、川田や鬼源にしても多かれ少なかれ静子夫人に対しては格別の感情を持っていると言える。
(そう言えばもう一人、静子夫人にまいった人間がいるわね)
銀子は一人離れた位置にたち、ぼんやりと冷めた視線を舞台に向けている悦子に目をやる。
自分はいったい何ということをしてしまったのか――悦子は激しい自己嫌悪に苛まれている。ズベ公と呼ばれる葉桜団だが、もともとは戦争で親を失った少女たちが身を寄せ合う仲間たちだった。終戦後の混乱期に、頼る親もいない少女たちは生きるためには何でもやらなければならなかった。かっぱらいや万引き、カツアゲなどは金も力もない彼女たちが生きていくための手段であり、それが悪いこととも思っていなかったのだ。
銀子のアイデアで始めたエロ写真の販売が意外に良い商売になることが分かった後は、少女たちの生活もある意味で落ち着き、遊ぶ余裕も生まれて来た。そんな頃、遠山財閥の一人娘である桂子が葉桜団に迷い込んで来たのである。
単に若い継母とうまくいかないというだけのことを、とんでもない我が身の不幸のように話す桂子のことを、悦子を含む葉桜団の少女たちは白けた目で見ていし、彼女が語る「不幸」と、悦子たちが味わって来た辛苦はそもそも比較にならない。桂子は映画で見るような不良の生き方に憧れただけの、ただの我が儘で世間知らずのお嬢様に過ぎないのだ。
しかし、桂子が少女たちにとっていい金づるであることは確かであり、それまで葉桜団のリーダーであった銀子は、何事にも自分が中心でないと気が済まない桂子を形ばかりの団長の地位に据え、やたらとおだて上げたのである。
調子に乗った桂子が葉桜団の仲間であるエリ子が付き合っていた男といい仲になった時、銀子の態度は豹変した。もともと身寄りのない少女たちが身体を寄せ合うように生きる葉桜団では仲間を裏切ること――特に仲間の男を寝取ることは最大のご法度だったのだ。
桂子は一気に団長の地位から滑り落ちただけでなく、銀子や朱美から激しいリンチを受け、さらに桂子の父親である遠山から身代金を得るための人質の身分になったのである。
桂子の不始末を遠山に知られないように解決しようとした静子夫人が桂子に続いて葉桜団の虜になったことをきっかけに事態は単なる不良少女グループの揉め事から森田組や田代、そして今や関西最大の暴力団である岩崎組まで巻き込む大事件となった。
こうなると悦子はもちろん銀子や朱美ですら流れを止めることが出来ない。事が露見すれば関わったもの全員が獄に繋がれるのである。
危険が大きいほど得られる対価も大きい。葉桜団のメンバーはこれまでとは比較にならないほどの多額の小遣いを手にするようになった。しかし、金銭的に満たされてくれば来るほど悦子は自分自身がすっかり冷めて来ており、また同時に心の中に激しい後悔が湧き起こって来るのを感じていた。
悦子にとって静子夫人は初めて見る種類の人間であった。どんな時にも自己犠牲と女としての慎み、そして人間としての誇りと矜持を忘れない。それでいて常に周囲を圧倒するような美貌を振り撒き、男だけでなく同性さえも魅了する艶麗さを醸し出す。田代屋敷の他の男女同様、悦子もまた静子夫人に魅せられ、恋をしてしまったのである。
しかし屋敷の他の人間がその恋情を、夫人に対して自らの淫らで嗜虐的な欲求をぶつけることで解消しているのに対し、悦子は自分の想いの持っていき場を見い出せないでいた。
41.姉と姉(5)

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