夫人に対する悦子の感情は、セクシャルなものというよりはむしろ母親を慕うようなものに近かった。早くに母を失った悦子は、10歳も年が離れていない夫人に対してその、亡き母の面影を見たのである。そんな思いが高まれば高まるほど、悦子は夫人が淫らな責めに呻吟することを見ていることが出来なくなったのである。
静子の夫である遠山隆義が危篤であることを知った時、悦子は思い余って夫人に屋敷からの脱走を奨めたがあっけなく露見した。
悦子の思いを他所に、静子夫人は千代の意向により無残にも人工授精を施された。このままこの地獄屋敷の中で子供を生むようなことがあれば、夫人は自ら再び日の当たる場所へ出ようとは決して思わないだろう。なぜなら静子夫人の性格上、子供が悪鬼たちの人質に取られている限り、それを見捨てることはあり得ないからだ。
静子夫人の人工授精は、悦子の夫人に対する恋が破れた瞬間でもあった。これで悦子は静子夫人を田代屋敷から救い出し、自分だけのものにすることが出来なくなっただけでなく、静子夫人の母性はもっぱら実の子に向けられることが確実になったためである。
そんな悦子の憂悶を他所に、舞台の上では京子と小夜子に対する調教が続けられている。
「きょ、京子は以前は女だてらに生意気にも空手の修行をして、二段の腕前を身につけました。で、ですが今はH団のお姉さまやM組のお兄さまの厳しいご指導のもと、日々お色気の修行に励んでおります。おかげでおっぱいだって膨らんで、お尻も大きくなりましたわ。京子の昔の得意技は空手チョップでの瓦割りなんて無粋なもの、で、でも今の一番の得意技は女の前と後ろのお道具を使った……卵割りなの」
「前と後ろのお道具ってなんのことだい? 京子姐さん」
サクラの役をかねる川田が、声をかける。
「い、嫌ン。エッチね。そ、そんなこと、女にいわせるもんじゃないわ」
京子は鈴縄を食い込ませた腰をくねらせるようにする。そこからは23歳の成熟した女の色気が匂い立つようで、とても空手2段のお転婆娘とは信じられない。
「どうしても聞きたいな。いってくれよ」
「そ、そんな、ひどいわ――」
京子はすねるように尻をもじもじさせる。そんな破廉恥な演技を続けている京子は、鈴縄を掛けられた媚肉がしっとりと潤んでくるのを感じ、同時に被虐性の快美感に頭がピンクのもやに包まれていくような気分になっている。
「――き、京子のオマンコとお尻の穴よ」
「なんだって、聞こえないな」
「うん、意地悪ね」
なよなよとくねらせる京子の女体に鈴縄はますます深く食い込み、京子はまるで官能の翼に乗って宙を飛ぶような感覚に陥っていく。
「京子のオマンコと、お尻の、穴」
やくざと不良少女たちは京子がそんな風に卑語をはっきりと口にするのを聞いてどっと哄笑する。そんな嘲笑が倒錯的な性感を刺激し、京子はますます激しく、淫らに裸身をくねらせるのだ。
そんな姉の様子に、美津子は冷めた視線を注いでいる。両親を早くに亡くした美津子にとって、京子は姉であるとともに唯一の庇護者であった。また美津子が名門といわれる夕霧女子校に通うことが出来たのも京子が探偵助手の危険な仕事で多くの収入を得たおかげである。
そんな美津子の守護神とも言える京子が、今や淫魔に取り付かれたように卑語を口にし、はしたない姿を晒している。充実した学生生活も、将来の夢も、そして恋人の文夫さえ奪われた美津子は絶望とやり場のない怒りが、理不尽にも堕ちた偶像である京子に向かうことを止めることが出来なかった。
「小夜子のだ、大好きなものはバイオリンとピアノ――。特にピアノでは音楽コンクールで1位に入賞しました。で、でも今は静子お姉さまやH団の朱美お姉さまのご指導のおかげで、女のお道具で美しい――せ、せせらぎの音を奏でるのが、もっと好きになってしまったのです――」
「そんなことを言われてもお上品すぎて分からないわ。もっと分かりやすくいってよ」
今度は朱美が野次を飛ばす。
「そ、それは、こ、こんな風に――」
小夜子も鈴縄を食い込ませた腰部を切なげにくねくねと揺らす。
「小夜子はオ、オマンコとお尻の穴に大きな鈴と小さな鈴をくわえて、オナニーするのが大好きなのっ。ねえっ、皆様。小夜子のエッチなせせらぎの音が聞こえる?」
「聞こえないな。もっと大きな音を出せよ」
「うん。い、意地悪ね。こ、これでどう?」
小夜子は鼻を鳴らしながら、ますます大きく腰部をくねらす。ピシャ、ピシャとぬかるみを歩くような音が小夜子のその部分からはっきりと聞こえてくるのを耳にしたやくざとズベ公たちはいっせいに笑い声を上げ、手を叩いて囃し立てるのだった。
「よし、口上はそれくらいでいいだろう」
鬼源が声をかけると竹田と堀川に目配せする。すっかり鬼源の弟子気取りになっている二人のチンピラは京子と小夜子を固定している滑車を操作すると、二人の裸身を向かい合わせの姿勢にする。
「互いの目と目をじっと見つめながら、オナニーを始めるんだ。しっかり呼吸を合わせて同時に上り詰めるまで何度でもやらせるからな」
「そ、そんな――ひどいわ」
鬼源の残酷な要求に小夜子がシクシクとすすり泣き始める。途端に堀川が手にした青竹で小夜子の形の良い尻をひっぱたく。
「ああっ!」
同時に竹田が京子の逞しいばかりに張り出したヒップを打つ。「ううっ!」という苦悶の呻きが京子の喉から漏れる。
「愚図愚図するんじゃねえ!」
鬼源の怒声が座敷に響き渡る。
「お前たちはもうレズの夫婦になることを誓ったんだからな。一方が逆らったりためらったりすると、二人が連帯責任で仕置きを受けることになるんだ。わかったな」
「わ、わかりました」
小夜子は涙で濡れた顔を上げる。
「ご、ごめんなさい、京子さん。小夜子、もう逆らいませんわ」
「小夜子さん、つらい時は二人一緒です。が、がんばりましょう、負けないで」
「負けないで、はよかったね」
銀子がそう言って朱美と笑い合う。
「さっさと始めな」
京子と小夜子の尻に再び青竹の鞭が炸裂する。それを合図にしたかのように、京子と小夜子は涙に濡れた瞳を向け合い、淫らな踊りを開始するのだった。
田代屋敷の中では最も広い部屋である合計二十畳の二階の奥座敷は、むっとするような熱気、そして女の汗と果汁が入り交じった甘く濃厚な匂いで満ちていた。
鬼源、川田、銀子他の葉桜団の女たち、竹田他の森田組のチンピラたち、津村清次とその仲間、井上他の森田組の映画撮影班、そしていつの間にか現れた田代、森田、津村義雄といった二十人以上の人数が見守る中、京子と小夜子は互いに手を取り合うように、背徳的な快楽の坂を駆け上がっていく。
「悪党共の勢揃いと言ったところか」
田代は舞台の上の京子と小夜子の艶技を眺めながら楽しそうに笑う。
「今この場にいないのは千代夫人と吉沢、春太郎と夏次郎、葉子、和枝の両夫人、そして大塚先生といったところか」
「千代夫人は相変わらず静子のところでさあ」
森田が苦笑する。
コメント