(セキュリティをかけているのか。でもどうして?)
私は試しにユーザーIDに「kimiko」、パスワードは妻の誕生日を入れてみました。
エラーです。
(……)
パスワードを私の誕生日に変えても駄目、2人の息子の誕生日を試しましたが駄目です。段々意地になってきた私は、今日はカバンの中に入れ忘れたのか、テーブルの隅に紀美子が使っているピンク色の手帳があったのを見つけ、カレンダーをチェックしました。
妻は家族はもちろん、私の両親と自分の両親の誕生日にも必ず贈り物を欠かしません。その管理のためかカレンダーにはケーキの形をした小さなシールが貼られていました。その日付を私は順に入力していきました。
いくつめかの数字でセキュリティは解除され、見慣れたウィンドウズの画面が現れました。
(今の数字は……)
正しいパスワードは「0715」という数字でした。
(7月15日……)
それは私の両親の誕生日でも紀美子の両親の誕生日でもありません。私は手帳に貼ってあるケーキの形をしたシールの数が、9つであることに気づきました。
誕生日の数は4人家族の我が家と互いの両親のものを合計しても8つしかありません。妻には祝うべき誕生日がもう一日あるというのでしょうか。
デスクトップは極めてあっさりしており、マイコンピュータやマイドキュメント、インターネットエクスプローラー、アウトルックルックエクスプレス、そしてワードとエクセル以外には「新しいフォルダ」というものしか見当たりません。
私はまずアウトルックエクスプレスを起動してみましたが、受信メールはほとんどがショッピングサイトや旅行サイト、懸賞サイトなどからのメールばかりです。友達との連絡は携帯で行っているのでしょうか。プライベートなやり取りはまったくといっていいほどありませんでした。
次に私はマイコンピュータを開きCドライブのプロパティをチェックしてみました。
(あれ?……)
80GBあるハードディスクの2分の1以上が既に使用されていました。OSや基本的なプログラム、そしてメールのやり取りやワード、エクセル文書の作成だけではこれほど使うはずがありません。
(動画ファイルでも落としているのかな……)
私は試しに50MB以上のファイルを検索してみました。
たちまち10個以上のファイルが検出されました。いずれのアイコンも動画であることを示しています。それぞれのサイズは600MBから、大きいものは2ギガバイト以上もあります。どのファイル名も「20040715」とか「20041204」といった、年月日を示すと思われるあっさりしたものです。
(いったい何の動画だ)
嫌な予感を押さえながら、私は試しに「20041204」というファイルをダブルクリックしました。
メディアプレイヤーが立ち上がり、動画が開始されます。いきなり飛び込んできた映像に、私は頭を殴られたような衝撃を受けました。
それはキッチンで佇んでいる妻の姿でした。恥ずかしそうにカメラから目を逸らしている妻はエプロン姿ですが、両肩が露わになっており、エプロンの脇からも素肌が覗いています。
「後ろを向け」
ノートPCのスピーカーからいきなり男の声がしました。かなり大きな音に私は慌て、妻がくるりと後ろを向いた瞬間にメディアプレイヤーを閉じました。
プレイヤーを閉じる瞬間に飛び込んできたのは妻の裸の尻でした。そうです、妻はいわゆる「裸エプロン」の姿で、見知らぬ男が構えるカメラの前に立っていたのです。
私はドクッ、ドクッという音まで聞こえてきそうな鼓動を必死で押さえながら、デスクトップにある「新しいフォルダ」を開きました。
そこにはメールソフトのアイコンと、「写真」「ビデオ」というサブフォルダがありました。「写真」というサブフォルダをクリックしてみると、やはりそこには日付の付されたフォルダが10個ほどもあります。私はやはり一番新しい「20041224」というフォルダをクリックしました。
そこにはJPEGの画像ファイルが約100枚ありました。それぞれが2MBほどもありますから、500万画素クラスのデジカメでの画像でしょう。
私は自然に手が震えてくるのを押さえ、一枚の画像を開きました。
悪い予感──いや、当然の予想が的中しました。
それは素っ裸の妻が男の上にまたがり、しっかりと繋がっている写真でした。妻はもはや絶頂に達する寸前なのか目をとろんと潤ませ、恍惚の極致といった表情をしています。私は耐え切れなくなり、画像を閉じました。
もはや妻の裏切りは疑う余地もありません。
(証拠を保全しなくては)
そう考えた私は自室から余っている外付けハードディスクを持ってくると、妻のPCに接続しました。
USB接続のため、あっという間に認識は終わります。私は「新しいフォルダ」の中の「写真」、「ビデオ」、そしてメールソフトの内容をすべて外付けハードディスクにバックアップしました。
容量が大きかったため、バックアップにはかなりの時間がかかります。苛々しながら待っている間にようやくバックアップは完了します。
私は妻のPCを終了させるとハードディスクを外しました。その頃には私のPCもウィルスの駆除に成功しており回復していたので、妻のPCのデータをバックアップしたハードディスクを自分のPCに接続しました。
私は「ビデオ」というフォルダを開き、震える手で先ほどの「20041204」というサブフォルダの中のビデオファイルをクリックします。
先ほどの映像が再び開始されました。
エプロン一枚を身につけた妻が立っているのはキッチンの中ですが、その部屋に私は見覚えはありませんでした。男の家に連れ込まれているのでしょうか。
それにしてもデスクトップのPCの、大型の液晶画面で見て改めて驚いたのは画像の鮮明さです。プロ用の機材を使っているのでしょうか。妻の裸身がまるでそこに存在しているかのように見えます。ひょっとして浮気ではなくて、妻はAVにでも出演しているんではと一瞬考えたほどです。
「後ろを向け」
男の声がして、妻がくるりと後ろを向きます。妻の裸の背中から尻がすっかり露わになります。
「そのままケツを振ってみろ」
「恥ずかしい……」
「いいから振るんだ」
言われるままに妻は尻をゆっくりと振り始めます。
「ああ……どうしてこんなことをさせるんですか」
「裸エプロンは男のロマンだからな。亭主の前ではその格好をしたことはないのか」
「そんな……ありませんわ」
「そうか。そうすると紀美子は、亭主にも見せたことがない姿を、俺に見せていると言うことだな」
「……」
「どうなんだ、言ってみろ」
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