これまではどちらかというと京子が攻め、小夜子が受けで進んで来たレズビアンプレイの攻守が完全に逆転したことに銀子や朱美だけでなく鬼源までもが目を瞠る。小夜子が時に攻め手をもひるませるような大胆さを見せることがあるのはこれまでも目にして来たことだが、嗜虐者たちは改めて小夜子の潜在力を実感するのだった。
素っ裸のままで床柱に縛り付けられた美津子と文夫は、痴態を演じる姉たちに悲哀の混じった複雑な視線を向けている。当初は敬愛する姉が淫らな牝へと墜とされた哀しみに俯き、すすり泣いていた美津子と文夫だったが、強制された同性の行為に次第に我を忘れてのめり込んで行く京子と小夜子の姿に、なんとも形容のし難い感情を抱くようになったのだ。
早くに両親を失った美津子にとって、5歳離れた姉の京子は時に母親、または父親の役割を演じて来た頼りになる庇護者であった。絶大な信頼とともに、思春期の少女にありがちな親に対する反抗心にも似た微かな反撥をずっと京子に対して抱いて来た美津子だったが、妹の学費のために危ない仕事についている京子のことを思えば、後者については決して表に出すまいという抑制心も備わっていた。
しかし、姉妹揃ってこの田代屋敷に捕らえられて以来、美津子は姉を慕う心や気遣いと共に、かつて経験したこともないほどの抑えようのないエゴに悩まされるようになった。
これまで畏敬の対象であった姉は、時に倒錯の性愛と被虐の快感に溺れる生身の女であるという現実。また純愛の対象だった文夫に対して、悪鬼たちに強いられる形ではあったものの処女を捧げ、ともに調教されながら性愛の日々を送ったという経験。
さらに恋人の文夫と別れさせられたあげく、目の前で桂子に寝取られた時に感じた燃えるような嫉妬。そして再三にわたる逃亡の失敗による絶望の中でたどり着いた諦念。それらのすさまじい経験が純情な少女に過ぎなかった美津子を短期間で、ある意味したたかな大人の女に成長させていたのだ。
姉の京子と恋人――いや、美津子の中ではもはや夫と言ってもよい文夫の姉である小夜子。いわば美津子にとっての二人の姉がレズビアンの行為を強制され、それに没頭している。それは確かに痛ましさを感じさせることではあった。
しかしながら美津子にとって京子と小夜子は今や文夫を巡る恋敵であるとも言える。現に小夜子は文夫とポルノショーのコンビを組まされており、姉と弟の血の繋がりなどというものに拘泥するとは思えない悪鬼たちによっていつ肉の関係を持たされるか分からない。
さらに京子も先程桂子に示唆されたように、新たに文夫とコンビを組まされる可能性は十分ある。
美津子にとって仮想敵とも言える京子と小夜子が相打ちになる形でコンビを組まされ、それがショーの出し物として嵌まるのは決して悪いことではないのだ。
美津子はそんな、自分の中に生じた悪魔の心に戸惑い、同時に必死で正当化を図る。それは美津子の中で親代わりの役割を果たして来た京子への理由のない反抗心と一体になっていくのだ。
(お姉さんが悪いのよ)
美津子は胸の中で呪文のように唱える。
(そう、お姉さんの判断ミスのせいで私はこの田代屋敷に誘拐されることになったのよ)
(お姉さんは山崎さんという恋人がありながら――愛もないのにあんな風に乱れることができる。私は文夫さん以外では我を忘れることはない)
(お姉さんは生まれながらの淫婦なのよ)
そんな心の声に煽られた美津子は、いつしか自分が桂子のようにショーの責め手となって京子をなぶり抜く姿を想像している。
「お姉様には……罰が必要なのよ」
思わず口に出して呟いた美津子ははっと我に返る。慌てて周囲を見回すが観客たちは京子と小夜子の同性愛ショーにすっかり夢中になっているのか、美津子の呟きには気づいた様子はない。
美津子は横目で文夫の方を窺う。文夫もまた二人の姉達のショーに魅入られたかのように視線を向けており、美津子の声は聞こえなかったようである。美津子はほっと胸をなでおろすと同時に、何か裏切られたような気分になる。
(文夫さんったら、姉さんたちの方ばかり見て……)
美津子は醜い自分の心の動きを文夫に悟られていたらそれはそれで困ったことになったのだが、まったく気づかないというのにも何か不満だった。
特に文夫は美津子と付き合っているころから、姉の小夜子には憧憬に近い感情を抱いており、素直で裏表のない文夫はそのことをしばしば美津子に対して口にして来た。その憧憬は田代屋敷の中で姉弟並んで変質的な行為を強いられているうちに恋情めいたものに変化してもおかしくない。
姉の京子に対してとは違い、美津子は小夜子に恨みを向けるべき筋合いはない。そもそも小夜子は美津子が文夫に対してかけた救いを求める電話がきっかけとなって田代屋敷に拉致誘拐されたのである。小夜子の誘拐の一因は美津子自身が作り出したものであるといえるのだ。
だからといって美津子は、文夫が小夜子にとられるのを黙って見過ごしにする訳には行かない。最も有効なのは小夜子がそもそも文夫の憧憬に値しない女であるということをあからさまにすることだと美津子は考える。その意味では先程文夫が、小夜子の浣腸や排泄の処理をさせられたのは悪いことではない。あれで文夫のもつ小夜子に対する幻影は打ち砕かれたのではないか。
(いえ、あれでは足らないわ)
美津子はかつて、この田代屋敷に誘拐されたばかりのころ、京子とともに血も凍るような屈辱の浣腸の洗礼を受けた時のことを思い出す。森田組の若者の一人はあの時美津子が排泄したものをじっと大事にしまい込んでいたではないか。
それを知った時、美津子は気が遠くなるようなおぞましさを感じたものだが、今の美津子にはあの時の竹田というチンピラの気持ちも多少分かるような気がする。愛はその対象の汚いものまで浄化する働きがあるのだ。その証拠に美津子も葉桜団の悦子から「三々九度の盃」との名目で美津子の尿と文夫の尿を混ぜ合わせたものを飲まされたことがある。そんなとんでもないものを口にした時、美津子には嫌悪感とは別に、これで文夫と身も心も一体になれるという幸福感が走らなかったか。
(それなら一体、どうすれば良いのか)
美津子は再び京子と小夜子が絡み合っている赤い布団に目を向ける。小夜子に一方的に攻め立てられ、数度の軽い絶頂を極めさせられ、その度に観客のやくざやズベ公たちの野次やからかいの声を浴びた京子だったが、ようやく体勢を立て直し反撃に転じている。
京子が攻めているのは小夜子のふっくらした菊門である。津村義雄によってある程度開発された小夜子の菊花だったが、その道のプロである春太郎と夏次郎執拗な調教を受けた京子とはやはり経験値において差があった。京子はシスターボーイたちから受けた肛門愛撫の技巧を小夜子に対して発揮すると、小夜子の身体はたちまちカッと燃え上がる。
「あ、ああっ! きょ、京子お姉様、そ、そこは許してっ」
「駄目よ、小夜子。私にばかり恥をかかせて、許せないわ。お仕置きして上げる」
京子はそうほざくように言うと、すぼめた舌先を思い切って小夜子の菊蕾にぐいと押し込む。浣腸を受けて柔軟性を発揮するようになっていた小夜子のそれは京子の舌先を深々と受け入れる。小夜子は排泄器官を舌先で愛撫される妖しい感触にヒイ、ヒイと泣きながら白い裸身を緋色の布団の上で激しく悶えさせるのだ。
互いにすっかり燃え上がった京子と小夜子は、改めて正常位の姿勢をとる。レズビアン用の双頭の張り型を持ち出した義子とマリが京子と小夜子の下半身側に回ると、二人の美女は素直に肢を開き、その巨大な筒先を体内に受け入れていく。
「ああ……」
「う、ううっ」
双頭の淫具によってしっかりと繋がりあった京子と小夜子は、甘いうめき声を上げながらゆっくりと裸身をうねらせる。先程前、激しい肉の攻防を繰り広げていた京子と小夜子だったが、今はあえて互いの官能を同調させるように慎重に、かつ激しく刺激し合う。
53.姉と姉(17)

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