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59.新たな生贄(2)

「わかったよ。あんた、美沙江の母親だね」
絹代だけでなく久美子と美紀も、ショックを受けたように銀子を見る。
「驚くところを見ると図星のようだね。義子とマリから写真を見せられた時からどこかで見たような顔だと思っていたんだよ。美沙江の母親だったらそう思って当たり前だね」
「ち、違います。美沙江なんて人、知りませんわ」
絹代は慌てて首を振る。
「下手な芝居をしたって無駄だよ。さっきとっさに出た悲鳴に確かに京都訛りがあったよ」
「うっ……」
絹代は思わず言葉を詰まらせる。
「まあ、いずれにしても美沙江の母親なら友子と直江に面通しさせればわかることさ。かわいい娘にもすぐに再会させてあげるよ。そっちの小夜子の母親も同じだよ」
美紀と絹代の顔に動揺が広がる。思ったよりも早めに正体がばれてしまったのは痛手だが、母親として誘拐されている小夜子、文夫、そして美沙江の様子を一刻も早く知りたいという思いもある。
どうせばれてしまったのなら早く子供たちのところに連れていって欲しい、そう美紀が口にしようとした時、久美子が「待って!」と声をあげる。
「おあいにくさまね、その2人はあなたたちが思っているような人達じゃないわ」
銀子と朱美、川田、吉沢は怪訝そうな表情を久美子に向ける。
「何を言い出すんだ。俺は確かにこのご夫人に見覚えがあるぜ」
川田が美紀の豊満な尻をいきなり手で撫でると、美紀は「ひいっ!」と小さな悲鳴を上げる。
「考えてもご覧なさいよ。村瀬宝石店社長や千原流華道家元の奥様がこんな危ないことをするはずがないじゃないでしょう」
「ふん、それじゃあいったい誰だっていうんだ」
「その二人は――当局の囮捜査官よ」
「何だって?」
吉沢が急におろおろし始め、川田に「おい、おい、川やん、大丈夫か?」と声をかける。
時間稼ぎのための久美子の苦し紛れの出鱈目だが、吉沢が早くも動揺し、川田が不審そうに首を傾げているのを見て久美子はもう一押しだと気を引き締める。
「間もなくここには警察が駆けつけるわ。これ以上罪を重ねず、神妙にした方が身のためよ」
ここに至って川田も自信なげに目を泳がせ始める。銀子はそんな男たちの様子を苦々しげに見ていたが、やがて久美子に視線を移す。
「馬鹿馬鹿しい。そんなことを私達が信じるとでも思っているの? そもそも囮捜査官がどうして小夜子や美沙江の母親に似ている必要があるのよ?」
「それはあなたたちが勝手にそう思っているだけでしょう。奇麗な女の人の顔っていうのはどことなく共通点があるものよ。それと、その2人は夏子さんは39歳、冬子さんは36歳と言っていたけれど、本当は二人とも30を過ぎたばかりよ。年齢的にも小夜子さんや美沙江さんの母親だなんてありえないわ」
美紀と絹代は、久美子の意図を完全には掴みかねているものの、この場は久美子に任せようと息を呑むようにして成り行きを見守っている。
久美子の芝居は時間稼ぎの意味もあるが、出来れば今は美紀と絹代には、拉致されている小夜子や美沙江たちには会って欲しくないという思いがある。
歌舞伎町のスナックで義子とマリに見せられた静子夫人をモデルにした秘密写真や、京子と美津子の写真があしらわれた猥褻なブルーフィルムのチラシ――小夜子と文夫、そして美沙江も同様の目に遭っていないという保証はないのだ。
この屋敷がそんな恐ろしい場所だということを美紀も絹代もまだ知らない。わが子がおぞましい秘密写真や映画のモデルにされるような悲惨な姿を美紀や絹代が目撃したら、大袈裟でなく心臓が止まるほどのショックを受けるだろう。
「――そう言えば確かに40過ぎには見えないわね」
朱美が久美子の迫力に釣られたようにそう言うと、銀子が「朱美まで何を言っているのよ」と腹立たしげに叱咤する。
地下室の中が一種の膠着状態になった時、扉が開き、キャッ、キャッという義子とマリの声が聞こえてくる。
「もたもたしないで早く歩きな」
「もっと可愛くお尻を振るんだよ」
そんな二人の声に久美子は思わず振り返り、そこで目にした光景に驚愕する。
素っ裸にされた悦子が赤い首輪を装着され、首輪から伸びた鎖を義子に引かれ、またマリにピシャピシャと尻を叩かれながら歩かされているのだ。
「悦子さん――」
義子は息を呑む久美子の表情を楽しげに見ながら、鎖をぐいと引き上げる。首輪の鎖をいきなり引かれた悦子は思わず膝立ちになるが、すぐにバランスを失って床に崩れ落ち、苦しげに咳き込む。
「犬になりたてだからチンチンが巧くできないみたいね」
後ろから悦子の尻を叩いてせきたてていたマリがケラケラと楽しそうに笑う。
「な、何をしているのっ」
思わずそう口走る久美子を、ニヤニヤと笑みを浮かべながら見つめていた義子は「何をしているのって、見てのとおりや。裏切りものの犬にお仕置きをしてやっているのや」と答える。
「昔からの仲間を売ろうとするなんてとんでもない奴だよ」
マリが腹立たしげに悦子の尻を思い切り蹴飛ばす。弾みで顎を打った悦子は「ぐうっ」と苦痛の呻き声を上げる。
「その二人の隣に立たせるんだ」
銀子の命令に義子とマリが悦子を引き起こすと、竹田たちチンピラが裸の悦子を美紀と絹代同様、両手吊りの姿勢で立たせる。
「悦子、お前一度静子夫人を逃がそうとしただろう。あの時は昔からの付き合いもあり不問にしてあげたけど、今回久美子に手を貸したことは許すことは出来ないよ」
悦子は一瞬ふてくされたような顔を銀子に向けるが、すぐに悔しげに顔を伏せる。
「土手焼きの仕置きにかけてやるよ。覚悟しな」
銀子がそう宣告すると、悦子は恐怖にこわばらせた顔をあげる。竹田、堀川、石山の三人が悦子の両肢に取り付き、思い切り開かせる。
「やめてっ! やめてようっ!」
悦子は必死で身体をばたつかせるが、男三人の力にはかなわず、両肢を扇のように開かされていく。
「朱美」
銀子が朱美の方に視線を投げると朱美は頷き、ポケットからライターを出して火を点ける。
朱美が火を点けたライターを悦子の股間にくぐらせるようにすると、そこに至ってようやくズベ公たちが何をしようとしているのか理解した久美子は「や、やめてっ!」と悲鳴をあげる。
「出しゃばるんじゃないよ。これは私達仲間の掟に背いた罰なんだよ」
銀子は久美子に向かって決めつけるように言う。
朱美のもったライターの火は悦子の股間をすっ、すっと撫でる。歯を食いしばり、懸命に悲鳴をこらえていた悦子だったが、ついにライターの火が陰毛をチリチリ焼くほど近づけられるに至って「ああっ、あ、熱いっ!」と絶叫する。
「こいつは見物だ」
川田と吉沢、そして三人のチンピラは女同士の凄惨なリンチをさも楽しげに眺めている。悦子から少し離れたところで下着姿のまま両手吊りになっている美紀と絹代は、あまりに惨たらしい私刑に顔を引きつらせ、言葉を失っている。

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