61.新たな生贄(4)

「やめてっ! ひ、火を近づけるのはやめてっ! ああっ、怖いっ! 怖いわっ!」
美紀は狂気したように裸身を悶えさせ、炎を避けようとする。そんな美紀の狂乱振りを川田、吉沢、そしてチンピラたちがさも楽しげに眺めている。
「だらしがないねえ。土手焼きと言ってもまだ真似事しかしていないよ」
「こんなにみっともなく狼狽えるのが、とても当局の囮捜査官とは思えないね」
朱美と銀子は苦笑しながらそんなことを言い合っていたが、やがて銀子が美紀に近づき、顎に手をかけて顔を引き起こす。
「さあ、そろそろ白状しなよ。あんたの正体は誰なんだい?」
「……」
久美子が自分たちの正体を伏せようとしたことには、何か意味があるのだろう。美紀は最後の気力を振り絞って首を振る。
「そうかい、マンコが黒焦げになってもかまわないというんだね」
銀子はニヤリと笑って身をかがめ、両手の指を使って美紀の秘奥をいきなりくつろげる。鮮紅色の美紀の肉襞があらわになる。
「いいね、朱美」
「了解」
銀子の合図に朱美は頷くと、ライターの炎を美紀の最も敏感な箇所にいきなり近づける。美紀は人生で初めて経験すると言って良い恐怖と激痛に、断末魔の獣のような悲鳴を上げる。
「おおっ! な、何てことをっ!」
美紀の尿道口からいきなり銀色の水流が迸る。どっとばかりに湧き起るやくざやズベ公たちの哄笑。
それにも構わず朱美は美紀の秘奥を炙り続ける。美紀はついに「い、言いますっ! 何でも言いますからそこを焼くのはもうやめてっ!」と絶叫する。
朱美がさっとライターを引く。肩を上下させながら嗚咽している美紀に、銀子がにじり寄る。
「さ、正直に言いな。あんたの本当の名前は何なんだい」
「村瀬……村瀬美紀と申します」
美紀はシクシクと嗚咽しながら銀子の問いに答えていく。
「年は幾つだい? 亭主の名前は?」
「年齢は45歳……夫の名は村瀬善吉です」
「小夜子と文夫の母親って訳だね?」
「はい……」
美紀が頷くと、銀子と朱美は顔を見合わせて笑い合う。
「そうすると隣りの冬子って名乗っていた女は、美沙江の母親だね」
銀子の質問に、美紀は気弱げに顔を上げ、涙に濡れた瞳を向ける。
「あんたが答えなきゃ、今度は冬子を土手焼きにするまでのことだよ。こっちはそれでも一向に構わないがね」
銀子の言葉に美紀はあきらめたように顔を伏せて「その通りです……」と答える。
「名前と年齢は?」
「……千原絹代さんといって、たしか42歳ですわ」
「そうかい」
銀子は満足そうに笑う。
「久美子、あんたがつまらない小細工をするから、こちらの奥様が受けなくてもいい責めを受けることになったんだ。よく反省することだね」
久美子は眉を吊り上げ、銀子を睨みつけている。そんな久美子の反抗的な顔付きを銀子は鼻で笑いながら眺めている。
(待ってらっしゃい。兄さんが駆けつけて来たらあんたたち、一網打尽にしてやるわ。その時に吠え面かくんじゃないわよ)
「それで、この久美子って名乗る勇ましいお姐さんの正体は誰なの?」
「それは……」
美紀はちらりと久美子を見る。久美子は「かまいません」と言うように、美紀に頷きかける。
「その人は山崎久美子さんといって、六本木の山崎探偵の妹さんですわ」
「へえ、あの山崎に妹がいたのかい」
朱美が改めて久美子の顔をのぞき込む。
「年は幾つだい?」
「そこまでは……ただ、まだ女子大の学生さんだと聞いていますわ」
「山崎の野郎、探偵業は素人の妹の手まで借りなきゃいけなくなったのかい。随分落ちぶれたもんだね」
銀子と朱美はそう言って笑い合う。
「しかし山崎の妹にしては随分ハクい娘じゃないか。ちょっとお転婆なのが玉に傷だが。十分商品になりそうだよ、ねえ、川田さん」
「そうだな……」
川田がニヤニヤ笑いながら素っ裸のまま吊られている美紀、猿轡をかけられて恨みっぽい目をしている久美子、そしてすでに気を失っているのか、両手を吊られたままぐったりとしている絹代を順に見回す。
「美紀と絹代は四十を過ぎているとは言えこれだけの美人だ。それに、小夜子や美沙江の母親っていうことで、奴隷として十分商品価値がある」
「久美子の方は確かに相当のじゃじゃ馬だが、そう言ったじゃじゃ馬鳴らしがお好みの客も多いから問題ないだろう」
要するに三人とも女奴隷としての資格は十分という訳だ、と川田と吉沢は笑い合うのだった。

久美子、美紀、そして絹代の三人はパンティ一枚のみを許された裸で、地下室倉庫の隅にある檻の中に投げ込まれていた。失神からようやく覚めた絹代は顔を青ざめさせたままシクシクとすすり泣いており、それを慰めるように美紀が絹代の背中をさすっている。
「久美子さん、私たちいったいどうなるんですの?」
「大丈夫ですわ。心配なさらないでください」
久美子は二人を勇気づけるように頷く。
「悦子さんが協力してくださったお陰で兄に電話をすることができました。まもなく兄が、必ず助けに来てくれます」
「で、でも、この場所が分かるかしら。途中ぐるぐる色々な道を迂回して、それにすっかり暗かったし、正直言って私も、ここがどこなのかさっぱり分かりませんわ」
「私がここにたどり着く方法を兄に伝えました」
「本当ですか? でも、どうやって」
「義子とマリがここまで乗って来たタクシーのナンバーを伝えたのです。兄が警察にいる知り合いに連絡して、そのナンバーから今夜の運転手を捜し当てるはずです。タクシーの運転手は遅くとも明日の朝には車庫に戻ります。その時には必ず連絡が取れますから、遅くとも明日の午前中には助けがくるはずです。それまでの辛抱ですわ」
「そうなんですか?」
美紀の表情がぱっと明るくなる。絹代もそこでようやく愁眉を開いたような表情になるが、すぐに顔を曇らせる。
「絹代さん、どうしたんですか?」
「今頃美沙江や珠江様がどんな目にあっているかと思うと、心配で……」
絹代はそう言うと、再び肩を震わせ始める。
「絹代様、私も小夜子や文夫、それに遠山の奥様のことは心配です。でも、こうやって山崎さんや久美子さんのお陰で、計画が成功寸前のところまで来ているじゃありませんか。我慢して救出を待ちましょう」

Follow me!

コメント

PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました