久美子と美紀がそれぞれいつ果てるとも知れぬ地獄の中で喘いでいる頃、絹代は千原流華道の宿敵とも言うべき湖月流華道の家元、大塚順子とかつて千原家の女中であった友子と直江によって二階の菊の間に連れ込まれていた。
菊の間は森田組の有力なスポンサーの一人であり、東京に居ることが増えた大塚順子のためにあてがわれている。部屋には華道に使用する花器や花が無造作に並べられている一方、酒棚やつまみの入った小型の冷蔵庫まで備え付けられており、田代屋敷に滞在する葉桜団以外の女たちの溜り場にもなっている。
そんな雑然とした八畳の和室の中央に敷かれた布団の上に、絹代は縄がけされた素っ裸の身体を横たえ、青竹に縛り付けられた伸びやかな両肢は宙に向かって扇形に開かされている。
絹代の無残なまでに卑猥な姿を見ながら、三人の女は楽しげにコップ酒を酌み交わしている。
「随分派手な格好にされはったわね。奥様」
「女の恥ずかしいところが全部丸出しや。これじゃあ目の持って行き場に困るわ」
友子と直江はかつての主である絹代の滑らかな太腿を時折ぴしゃぴしゃと叩きながら、さも愉快そうに揶揄の言葉をかけている。絹代は静かに眼を閉じ、人形になったような気持ちで女たちのからかいに耐えているのだ。
「ねえ、家元夫人、素っ裸でお尻の穴まで丸出しにした気分はいかがかしら」
順子が冷酷そうな笑みを浮かべながら、絹代ににじり寄る。
「大勢の前でウンチまで流し出した感想をお聞きしたいのよ。ねえ、黙ってちゃわからないわ」
死んだように黙っている絹代に苛立った順子は、人差し指をコップ酒に浸すといきなり絹代の菊蕾に差し入れる。
「あ、ああっ! な、何をなさるのですかっ」
絹代が悲鳴を上げて優美な腰を揺さぶったので、三人の女たちはゲラゲラ笑い出す。
「ご主人様が話しかけているのに無視するからそんな目にあうんや」
あざ笑うようにそう口にした友子に、絹代は憤然とした視線を向ける。
「ご、ご主人様って誰のことですか」
「もちろん大塚先生のことに決まっているじゃない」
直江がさも楽しげに答える。
「あ、あなたたち、千原家の女中の身でありながら主を裏切るなんて、恥を、恥を知りなさいっ」
「恥を知るのは奥さんのほうや。なんや、ケツの穴まで丸出しにしている癖に」
友子がさも腹立たしげに絹代の形の良い尻をぴしゃりと平手打ちする。絹代の雪のように白い尻に薄赤い手形がつく。
「せっかくの見事なお尻に手形なんかつけちゃ駄目じゃない」
順子が笑いながら友子を止める。
「奥様、そんな格好でいつまでも主人面をしない方がいいんじゃないかしら」
順子はそう言うと、友子がつけた手形の痕を撫でさする。
「それと、あまり友子と直江を怒らせないほうが良いわよ。これからの調教が辛くなるだけだから」
「調教って──この上、私に何をするつもりですかっ」
絹代は不安げな視線を順子に向ける。
「何をって、さっきお話したでしょう。奥様にはこれから、湖月流の人間花器になるための調教を受けてもらうのよ」
順子は淫靡な笑みを浮かべながらそう言うと、絹代の太腿をぽん、ぽんと叩く。
「奥様の身体の、穴という穴に花を生けて飾るのよ。膣の筋肉や肛門の括約筋をフルに使って、たくさんの花をしっかり支えてもらわなければならないから、大変な訓練が必要なの」
「何ですって……」
絹代の顔が恐怖に青ざめる。
「人間花器は前衛華道である湖月流の神髄とも言うべきものよ。これまでアングラ女優やストリッパーを使って何度か試してみたんだけれど、よほど上等なお道具の持ち主じゃないと無理みたいで、全然うまくいかなかったの」
順子は妖しい光を瞳に湛えながら話し出す。
「それに、そもそも美しい花を生けるのに、花器になる女の顔が不細工だったり、身体の線が崩れていたりしたのでは艶消しだわ。人間花器になるためにはそれにふさわしい気品を感じさせる美女でないと困るのよ」
「人間花器」という言葉が冗談や脅しではなくて、順子が本当にそんなおぞましいことをしようと考えているのだと知って、絹代はブルッと裸身を震わせる。
「関西の広域暴力団、岩崎組の親分が週末にこの田代屋敷にやってくる予定なの。岩崎親分を歓待するためにここにいる奴隷はたちは準備に忙しいのよ。色々なショーが予定されているのだけれど、その時私はぜひ岩崎親分や組の幹部の方々を歓待するために、人間花器を使った生け花を披露したいの」
順子はネチネチとした口調で絹代に語りかける。
「その時に、花器にされて床の間に飾られるのは誰だと思う? 奥様」
「ぞ、存じませんわ。そんなこと」
絹代は恐怖に震えながら答える。
「教えて上げましょうか、千原流華道の後援会長、折原珠江夫人と家元令嬢の千原美沙江、そして家元夫人の奥様の三人よ」
「な、何ですって」
絹代の目が恐怖と衝撃に大きく見開かれる。
「珠江夫人には花器になることを了解してもらっているわ。そのための調教もすでに始めているのよ」
順子はさも楽しげに話し続ける。
「珠江夫人に加えて、家元夫人と令嬢の三人がそろえば、素晴らしく豪華な花器になるわ。その上、伝統と格式ある千原流華道が前衛華道である湖月流に敗北したという、これ以上ない証拠になるでしょう」
「珠江夫人はもう前と後ろの穴に見事な花を咲かせられるようになっているわ。後は奥様とお嬢様の調教を急がなければ、何しろあと三日しか時間がないし、その上、美沙江お嬢様は他の女奴隷たちと一緒にショーにも出演しなければならないから忙しいのよ」
「お、大塚さん、あなた、美沙江にもそんな恐ろしいことをするつもりなのですかっ」
「もちろんよ。いまさら何を言っているの」
絹代が形の良い眉を吊り上げて抗議するのを、順子は平然と受け流す。
「珠江夫人はもちろん、美沙江も人間花器にするには抜群の素材なのよ。成熟した人妻といまだ少女の名残を残す令嬢というのは好対象だわ。二人に比べると奥様は年齢の点でかなりハンデがあるけれど、先程ホームバーで見せていただいた限りでは身体もまだまだ瑞々しいし、感受性も豊かだわ。それにあそこやお尻の穴の形も崩れていないから、人間花器として十分使えるわ」
順子がそんな風に大真面目に絹代の身体を批評し出したので、友子と直江はゲラゲラ笑い出す。
「あんたたち、何がおかしいの。人間花器を使った生け花はいわば湖月流華道の奥義なのよ。馬鹿にした態度を取ると許さないわよ」
「す、すみません」
順子が目を三角にして怒り出したので、友子と直江は慌てて詫びを入れる。絹代もまた人が変わったように激高している順子に脅えたような視線を向けていたが、やがておずおずと口を開く。
「お、大塚さん」
「何よ、奥様」
「どうしても美沙江をその……人間花器というものにするつもりなのですか」
104.悲しい再会(1)

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