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106.悩乱する久美子(1)

 突然、吉沢の部屋の扉がドン、ドンと叩かれる。
「誰だい、こんな時に」
吉沢が扉を開くと、葉桜団の義子とマリが顔を出す。
「なんだ、お前たちか。何か用か?」
「そんな言い方はないやろ、吉沢さん。差し入れをもって来て上げたんやないか」
義子が手に持った一升瓶を吉沢に差し出すと、マリもスルメや落花生などのつまみを渡す。
「まあ入んな」
吉沢はニヤリと笑って二人のズベ公を部屋の中に招き入れる。
部屋の中に入った義子とマリは、中央のベッドの上で素っ裸の久美子が苦しげに呻いているのを見て、歓声をあげて走り寄る。
「わあ、随分派手な格好にされたやないの」
「マンコもツルツルで可愛い女の子にされて良かったわね」
義子とマリは久美子の傍らに立つ竹田と堀川を押しのけるようにしながら、そんな風に代わる代わる久美子を揶揄する。久美子は歯を食い縛りながら辛子責めの辛さにひたすら耐えているばかりである。
「折角だからそこの辛子責めにされているお嬢さんを酒の肴に、一服するとするか。お前たちも呑みな」
川田が竹田と堀川に声をかけると、二人のチンピラは「へい」と頭を下げ、棚から人数分のコップを出して並べる。
脂汗を流しながら呻吟する素っ裸の久美子の前で、六人の男女による酒盛りが開始される。このような無残な女の姿を酒の肴にしようとする川田たちの残酷さに、久美子は耐え難いほどの嫌悪感を覚えるのだった。
「なんだかさっきから呑んでばかりだな」
胡座をかいた川田がマリの酌を受けながら苦笑する。
「それにしてもお前たち、ショーの準備で忙しいってえのに、こんなところで油を売っていていいのか」
「それはお互い様じゃない」
マリが笑いながら答える。
「うちら、大塚先生に言われて、珠江を菊の間に連れて行ったところなんや」
義子がスルメをかじりながら口を挟む。
「珠江を? 珠江は昨夜から熊沢親分の接待だったんだろう。親分たち三人の男に代わる代わる抱かれて、疲れ切っているんじゃねえのか?」
「大塚先生がどうしてもって言うもんだから、鬼源さんが一時間だけなら、って許可を出したのよ」
「そやから、一時間たったらうちら、珠江を地下牢に連れて帰らんとあかんのや」
「ふん、それまでの暇つぶしって訳か。しかし、大塚先生の我が儘にも困ったもんだ」
今度は吉沢が苦笑する。
「静子夫人が妊娠している今は、週末の岩崎親分を迎えたショーでは珠江を中心に据えなきゃあ格好がつかねえ。ここで主役の珠江に身体を壊されちゃあ困るんだ」
「吉やんも随分、それらしいことを言うようになったじゃねえか。以前は美津子を自分の女にさせろとわめいたり、京子をずっと独占したりしていたもんだが」
川田が笑いながら吉沢のコップに酒を注ぐ。
「そういう訳じゃねえが――何と言っても親分は美人の人妻に目がないからな」
「美人の人妻なら二人も入荷したじゃないの」
マリが笑いながら言うと川田は「そう言やあそうだな」と首をひねる。
「友子と直江は大塚先生のところにべったりやし、悦子も使えんようになったし、うちらばっかり忙しいのはかなわんわ」
「スポンサーの意向には逆らえないわ。世の中、金を持っている人間の勝ちよ」
そんな風に愚痴る義子とマリに、川田が「そんなことを言ってもこうやって酒を飲む暇はあるじゃねえか。休みなしに責められているお嬢さんの身にもなってみろ」とまぜっ返す。
「久美子はそれだけのことをしたんだから、罰を受けるのはしょうがないわよ」
マリの目に冷酷そうな光が浮かぶ。
「とは言っても辛子責めとは、これまたきつい責めにかけられたもんや」
義子が久美子の足元に置かれた鉢の中にたっぷり盛られた辛子を目にすると、ケラケラ笑う。
「あんたたち、男もまだ知らないお嬢さんのあそこに辛子を塗り込むなんてひどいじゃないの」
マリが辛子の入った鉢を取り上げると、竹田と堀川を軽く肘で突く。
「辛子責めだけじゃないぜ。これからこのお穣さんは尻の穴の糸通しに姫の輪責めと、立て続けに拷問にかけられるんだ」
コップ酒を一口飲んだ川田が口を挟む。
「ひゃー、それはきついわ」
義子は大袈裟に驚く。
「でもそれはマリの言うた通り、お嬢さんの自業自得というもんや。女だてらにスパイの真似事をして、あたいたちを陥れようとするからこんな目にあうんや」
「そうよ、たっぷりお仕置きされてようく反省するといいのよ」
義子とマリは久美子が騙されたことがよほど腹立たしいのか、憎々しげにそう言い放つ。
「そう言やあ、久美子を拷問にかけるっていうと、堀川が可哀想だからやめてくれっていうんだ」
川田がそう言うと堀川は慌てて「べ、別にやめてくれって言った訳じゃ……」と首を振る。
「へえ、堀川さん。急に仏心を出すなんてどうしたのよ?」
「ひょっとして久美子に惚れたか?」
マリと義子にからかわれた堀川はどぎまぎしながらコップ酒を煽る。
「あらあら、急に赤くなったやないか。図星か?」
「ど、どうしてそんな……赤くなったのは酒のせいだ」
堀川はそう答えると、自らのコップに手酌で酒を注ぎ入れ、ぐいと飲み干す。そんな堀川の狼狽振りを見ながら義子とマリは顔を見合わせて肩をすくめる。
「おい、堀川、お前、あまり酒に強くないんだからそんなに急に飲んじゃ駄目じぇねえか」
さらにコップに酒を注ごうとする堀川に竹田が声をかける。
「うるせえ。酒くらい好きに飲ませろ」
堀川がいきなり大声を出したので竹田は鼻白んだ顔付きになる。堀川が兄貴分である竹田にそんな口を利いたので、川田と吉沢は顔を見合わせる。義子とマリはそんな成り行きをさも楽しそうに眺めている。
「それにしても随分辛そうじゃないの、このお嬢さん」
「あそこに辛子を塗られるとこんなに堪えるもんかいな」
マリと義子はそんな汗ばんだ久美子の肌のあちこちを軽く抓りながら、そんな風に揶揄する。
「あ、あなたたちっ。こんなことをずっと続けられるとでも思っているのっ。私の兄や警察を甘く見ない方がいいわよっ。これ以上罪を重ねる前に、ここに捕らわれている女の人達を解放しなさいっ」
それまで苦しげに呻くばかりであった久美子がかっと目を開き、そう言いながら義子とマリを睨みつけたので、二人のズベ公は呆れたように顔を見合わせる。

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