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123.窮地に立つ久美子(3)

「あの山崎って探偵がいる限り枕を高くして寝られない。今のところ相手の方が勝手にドジを踏んでくれているんでこっちの首は繋がっているが、これだけ奴隷も増え、これからは岩崎組とも提携して幅広く商売をやろうって時に、心配の芽は早く積んでおくに越したことはない」
「いったんは諦めたかと思ったんだが、自分の女だった京子だけじゃなく、妹の久美子までこっちの手におちたとあっちゃあ、奴もこれからは必死になるだろう。探偵の見栄を捨ててなりふり構わず、サツと手を組んで来たら始末に終えねえ。こちらから先手を打って岩崎組から兵隊を借りて、明日の未明に奴の事務所に奇襲をかける手筈になっている」
「そんなに早くですか?」
「善は急げ、っていうじゃねえか」
「善ってこともねえと思いますが……山崎の事務所は青山でしょう? いくら朝早くったって、人の目もあるだろうし、ちょっと乱暴過ぎやしませんかい?」
「乱暴なもんか。最初はいっそ後腐れのねえように、バラしちまおうかと思っていたんだ」
ポルノ稼業がすっかり身についているとは言うものの森田もやはりやくざの端くれなのか、そんな科白を吐く時はなかなか凄みが出る。
「そこまでやっちゃあ犯罪だろう」
田代が苦笑する。
「へえ、だから誘拐だけにしたんでさあ」
「誘拐だって犯罪だと思いますがねえ」
川田が首を捻る。
「しかし、山崎を捕まえて来てポルノ役者に仕立てようなんて、うまくいきますかね」
「女奴隷が増える一方で、男役者が足らなくて困っていたところだ。こちらにとっちゃあ敵と言って良い山崎を捕まえて、妹の久美子の処女を無理やり破らせたり、恋人だった京子とからませてやれるんだから痛快じゃねえか」
森田はそう言うと楽しげに笑う。
「もし、失敗したらどうするんですか」
「その時は岩崎組の若いのが一人、臭い飯を食うことになるな」
「それじゃあ、岩崎組に大きな借りを作ることになるじゃないですか」
「親分は既に了承してくれているんだ。それに、他に方法はないだろう」
「久美子が山崎をおびき出すことを納得してくれりゃあ、そこまでの荒業はしなくて済むんですが」
川田はそう言うと何か思案するような表情になる。
「それだけは嫌だってんで、こっちの言うことをきかないと川田も言ってたじゃねえか」
「それはそうですが、もうちょっと何とか方法はねえのかなと思って。要は今日中に久美子が山崎の誘拐を助けることを納得すりゃあいいんでしょう?」
川田の問いかけに森田は頷く。川田は鬼源と顔を寄せ合って何事か相談していたが、やがて「ちょっと時間をくれませんか」と言うと室内電話をかける。
「どうする気だ、川田」
「まあちょっと待ってくだせえ」
川田はそう言うと煙草を銜え、火を点ける。しばらくするとホームバーの扉が開き、義子とマリが顔を覗かせる。
「なんや、社長と親分もいはったんかいな」
「連れて来たか、義子」
「ご要望どおり連れて来たで。はい、久美子嬢のご入来」
義子とマリが手にした縄につながれて、ホームバーに現れたのは久美子だった。
「ほらほら、さっさと入りな」
義子とマリはまるで罪人を引き立てるように久美子を室内に引き入れると、手首を縛った縄をホームバーの柱に取り付けられた金具に括りつける。
久美子は芋茎の股縄と豆絞りの猿轡のみを許された素っ裸を田代や森田たちの前に晒され、恥ずかしげに俯いている。
さらに芋茎の縄をかけられた股間が痒みで疼くのか、腰部をしきりにもじもじさせているのが何とも哀れっぽく、滑稽でもある。
「ほな、私らは忙しいからこれで行くで」
久美子を柱に繋ぎ終えた義子とマリは部屋を出て行こうとする。
「ちょっと待ちな。お前たち二人はしばらくここで、久美子を仕置きにかけるのを手伝ってくれ」
「えーっ、あたいたち今、京子や小夜子たちの調教の真っ最中なんだけど」
川田の言葉にマリは露骨に顔をしかめる。
「奴隷の数は4人、葉桜団は新入りの友子と直江を珠江たちの調教に取られて。悦子もおらんようになったから銀子姐さんと朱美姐さん、それにあたいたち2人の4人しかおらん。ただでさえ手が足らんのや」
義子も口を尖らせて抗議する。
「お前たち、久美子に恨みがあるんだろう。自分たちの手で仕置きにかけたくねえのか」
「そりゃあかけたいけど……」
鬼源の言葉に義子とマリは顔を見合わせる。
「義子はショーの進行役もやることになっているから、二階を離れる訳にはいかんと思うけど」
「進行役の稽古は明日のリハーサルの時にやればいい。それに義子はいつもアドリブだろう」
「そう言われればそうやけど」
義子は笑いながら頭をかく。
「それに、進行役には静子と桂子を充てることにしたんだ。義子はその助手をやれば良いんだ」
「静子と桂子を?」
「不服か?」
「いや、面白いアイデアやと思うで」
義子は一瞬驚いた顔付きになるが、やがて感心したように頷く。
「そやけど、今々調教の手が足らんのは事実やで。奴隷が4人に責め手が2人では、4人同時にケツをひっぱたくことも出来んやないか」
義子がそう言うと、男たちはいっせいに笑い出す。
「奴隷が多くなった弊害だな」
田代はさも楽しそうに笑い続ける。
「人が足りないなら堀川と竹田を二階の調教に回せ」
「あの二人か……」
義子とマリは顔を見合わせる。
「どうかしたのか?」
「あの二人は最近色気づいて来て、調教に私情が入るのが困ったものだと言っているの。竹田は前から美津子に惚の字だし、堀川はそこの久美子に一目惚れしたみたいよ」
「そうなのか?」
「おまけに二人そろって、小夜子にも気があるみたいやしね」
義子とマリはそう言うと同時に頷く。
「まあそれは確かにいただけねえが、あの年頃の男ならある程度しょうがねえだろう」
森田が渋い表情で言う。
「そんな甘いこと言っていいの、親分。そのせいで一時、美津子と京子はこの屋敷を逃亡するところだったのよ」
「いや、そりゃあ確かにそうだが……」
さきほど珍しくやくざらしい強硬論を口にしていた森田が、葉桜団のマリや義子の口撃にたじたじになっているのを見た川田と鬼源は同時に苦笑を浮かべる。

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