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146.懊悩の限界(8)

(やはり、何としても今の京子を山崎に見せつけてやらなくちゃ)
そんなことを考えると朱美は、身体の芯がぞくぞくするような嗜虐的な快感を知覚する。恋人である京子が、自らの敵ともいえる人間によって淫らに開発されていたことを知った時の山崎の驚愕ぶりをぜひこの目で見てみたい。そんな欲求が朱美の心を山崎の拉致へといっそう固めさせるのだった。
「ねえ、ねえ……見て、文夫さん、京子の身体を見て……」
そんな思惑も知らず、京子は必死で自分の心を殺して、文夫を誘惑すべく妖しく身体をくねらせる。
京子の妖しいばかりに艶っぽい姿を最初はおずおずと眺めていた文夫だったが、やがて引き込まれるようにその迫力のある裸身を凝視するようになる。
それに連れて垂れ下がっていた文夫の肉塊は徐々に充血の度合いを増してくるのだ。
「おや、お坊ちゃんのオチンチンがだんだん硬くなって来たじゃないか」
文夫のその部分が徐々に熱気を帯びて来たのを目覚く認めた朱美は、甲高いからかいの声をあげる。
「ほんと、男のここって節操がないね。母親や姉、それに恋人が見ている前だってのに見境なく硬くなるんだから」
朱美がそう言って、屹立しかけている文夫の肉棒を指先で弾くと義子とマリがゲラゲラ笑い出す。
「そりゃあ仕方がないさ。あんな色っぽい身体を見せつけてられちゃあ、男ならそうならない方がおかしいってもんだ」
津村が笑いをこらえながらそう言うと、義子が
「そやけど幻滅やわ。こんな純情そうな文夫が恋人の姉に欲情するなんて。これやから男なんて信じられんのや」
と、わざとらしくうんざりした声を上げ、朱美やマリを笑わせる。
津村やズベ公たちのからかいを浴びている文夫は、羞恥と屈辱に赤く染め顔をうなだれる。
文夫にとって何よりも情けないのは自らの意志を裏切って欲情の高ぶりを示す自分自身だった。もともと美津子とのプラトニックな愛一筋だったはずの自分が、この屋敷に捕らわれてからというもの、美津子と無理やり情交を結ばされることによって女の肉の素晴らしさを知らされた。
それだけならまだしも、恋人である美津子と引き裂かれ、桂子の新たなコンビになることを強要された。必死で抗う文夫の心を挫いたのは姉の小夜子の変貌振りだった。小夜子はこの田代屋敷に拉致されてから様々な調教を受けて女として開花したこと、恋人であった内村を裏切り、かつて父の会社で横領を働いた津村の妻になったことを文夫の前で宣言した。そればかりでなく、これからは姉弟仲良くショーのスターの道を歩いて行こうと文夫に呼びかけたのである。
そして自らが堕落したことを示すかのように、股間を鈴縄で縛り上げられた卑猥な姿で文夫の前で淫らな自涜行為に耽り、獣のような声を上げながら破廉恥な絶頂へと達した美しい姉。その姿を目にした瞬間、文夫は自分の心の芯があっけなく崩されたのを感じたのだ。それは本能に流されることを拒む理性や自制心というものだったかもしれない。
それ以来文夫は桂子とのコンビも受け入れるようになった。いや、文夫はむしろ小夜子とはひとつしか違わない年上で、遠山財閥の令嬢という姉と良く似た生い立ちであり、また奔放で積極的な桂子に変貌した姉の姿を投影していたのかもしれない。
横たわった文夫の上に跨がり情熱的に裸身を悶えさせる桂子と繋がっていると、文夫はまるで小夜子と愛し合っているような錯覚に陥り、ますますその爛れた情欲の世界に溺れていくのだった。
現在文夫は桂子とのコンビは解消させられ、姉の小夜子とポルノショーのコンビを組まされている。田代屋敷の悪鬼たちはまだ小夜子と文夫に直接男女の行為を強制してはいないが、そうなるのも文夫には時間の問題と思えた。
それだけは避けなければならないと文夫は思うのだったが、一方で悪鬼たちにそれを迫られた時には、文夫はさほど抵抗なく受け入れることが出来るような予感がする。
そこまで落ちてしまえば自分は人間ではなく、獣になったと言って良い。しかしながらそんな風に見境がなくなった自分の姿を愛する母に目撃されるのは文夫にとって身が切られるほど辛いことなのだ。
「ねえ……文夫さん……見て……京子の裸を見て……」
京子はそんな文夫の心の葛藤をよそに、悩ましく腰をうねらせて挑発を続ける。
確かに京子の裸身は素晴らしい。いつか桂子と二人で、静子夫人の裸身を見せつけられたことがあるが、その静子夫人の日本人離れした肉体と甲乙つけがたいほどである。静子夫人の身体は姉の小夜子のそれとまるで姉妹のように共通するものがあったが、空手に鍛え上げられた京子の裸はそれとは違う独特の迫力があった。
そんな京子の蠱惑的な裸身の魅力に思わず引き込まれた文夫だったが、ズベ公たちの野卑なからかいを浴びて突然自意識がよみがえったのである。
それとともに文夫の下半身の熱気は冷め始め、半ばまで屹立した肉棒はぴたりと動きを停止する。
「何しているんや、文夫。もっとビンビンに立たせなあかんやないか」
「そんなことじゃポルノショーのスターは勤まらないわよ」
コップ酒をあおっている義子とマリが顔を赤く染めながらそんな野次を飛ばす。
京子もまた哀願するような目を文夫に向け、「ねえ、ねえ……」と淫らに腰を振るのだが、そんな行為もまた、京子の自己犠牲から発しているものだと感じた文夫は痛ましさばかりが先に立ち、先程まで知覚していたはずの欲情が嘘のように消えて行くのだ。
(駄目だ……このままじゃ、なんとかしないと……)
文夫は必死でその部分に力を入れようとするが、消え始めた炎を再び燃え立たせるまでには至らない。おまけに文夫は背中に母親の美紀の悲痛な視線まで感じて、ますますうまくいかなくなる。
「ああ……ふ、文夫さん、だ、駄目……」
文夫の肉棒が力無く垂れ下がっていくのを見て、京子が悲痛なうめき声を漏らす。マリが「あーあ」と声を上げて肩をすくめる。
「なんや、若い癖して急性インポかいな」
義子が舌打ちをしながら文夫につかつかと近寄ると、いきなり文夫の頬を平手打ちする。
「そんなことでショーのスターが勤まると思てるんか。岩崎親分の前でこんな粗相をしたら指を詰めるくらいやすまへんで。ここんところを切り落とされても文句は言えんとこや」
義子のそんな科白を聞いたマリがケラケラと声を上げて笑い出す。怒声を浴びせる義子に朱美が「そんなにきついことを言うんじゃないよ、義子」と宥めるような声をかける。
「甘やかすなんて朱美姐さんらしくないで。このままやったら明後日のショーに間に合えへんかもしれん。そんなことになったらうちらの責任問題や」
「そうは言っても焦ったらうまく行くものもうまく行かないよ。男の身体ってのは意外にデリケートなものなんだ」
朱美はそう言いながら日本酒のコップを置いて立ち上がると、座敷の隅で身体を寄せ合うようにうずくまっている美紀と小夜子の母娘に近寄る。
「いいかい、二人ともよく聞くんだ。このままじゃ明後日のショーで役に立たなくなって、それこそ義子が言う通り、文夫は男の大事なものを切り落とされてしまうかもしれないよ」
朱美の残酷な言葉を聞いた美紀と小夜子の顔色がさっと青ざめる。
「そ、そんな恐ろしいことはさせないで……」
狼狽してそう口走る美紀に、朱美が畳み掛けるように言う。
「そうさせたくなけりゃあ、二人で文夫のあそこが元気になるように応援してやるんだ」

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