163.敗北の兄妹(3)

 大塚順子は手に取った赤い薔薇の花の茎に真剣そのものといった表情で鋏を入れると、ふっくらと膨らみを見せている絹代夫人の恥丘に丁寧に差し込んで行く。
「うっ……」
絹代夫人の眉が微かにひそめられる。薔薇の茎は夫人の肉を傷つけないように刺を丁寧に削ぎ落とされているものの、その異物感はそうそう慣れることができるものではない。
夫人がその部分に力を込めると赤い薔薇はぐっと上を向き、見事な花姿を示す。大塚順子は満足そうに微笑むと絹代夫人に「いいわよ、そのままずっと薔薇の姿を保っているのよ」と声をかける。
「うう……」
絹代夫人は素っ裸のまま後ろ手に縛り上げられ、M字開脚で尻の下に枕を差し入れられた露骨な姿で、人間花器のうち「一輪挿し」の調教を受けているのだ。
「この薔薇の花の形、花の向きが大事なのよ。少しでもずらしたら私の芸術が台無しになるわ。わかっているのね?」
「わ、わかっておりますわ……」
絹代夫人は下腹部にぐっと力を入れながらか細い声で答える。
昨日から丸一日、大塚順子から徹夜で「人間花器」の調教を受けている夫人は疲労の極にあり、頭は朦朧として来ている。特に淫靡な調教を延々と施されている夫人の下腹部はすっかり痺れ、感覚も失われつつある。
責める側の順子も驚くほどの体力と集中力を発揮し、絹代に対する調教に没頭している。そんな姿からは、順子が自ら切り開いた湖月流華道に対して真摯であることが伺える。
いや、それはむしろ順子がその内面に有していた嗜虐性や同性愛嗜好が、前衛華道の形で昇華されたものかもしれない。その証拠に、絹代夫人が汚辱の極限ともいえる凄まじい調教に悶えれば悶えるほど、順子の瞳は妖しい輝きをより増して行くのだ。
絹代に対する調教に面白そうに付き合っていた岩崎大五郎の二人の妾、和枝と葉子もさすがに順子の執拗な責めについて行くことが出来ず、途中で部屋に引き上げている。
先端に丸いゴム球のようなものを取り付けた造花によるものから開始された人間花器の調教は、今は早くも実際の花を使ったものに移行している。
順子は夫人がすでに42歳という年齢であることから、調教は相当難航するものと予想しており、夫人がてこずる様子を思い切り嘲笑してやろうと考えていた。
しかしいざ調教が開始されると絹代夫人のその部分は意外なほどの収縮力と柔軟性を発揮し、順子を驚かせるのだった。
(珠江と美沙江も覚えが早かったけれど、絹代もかなりのものだわ)
順子は、生けられた一輪の薔薇が微動だにせず、その姿を保っているのを見て、絹代の筋肉の素晴らしさに舌を巻く。
(いい女って、ここんところの出来も良いものなのかしら)
順子は皮肉っぽい目付きで絹代のその部分をしげしげと眺める。
絹代の陰裂はぴたりと口を閉じ、薔薇の細い茎をしっかりと食い締めている。先程まで余計な力が入っていたためか、小刻みに生じていた肉の震えも今はすっかり治まり、絹代の秘肉はまるで貝のように自然に締まっている。
順子はこれまで、肉体を売る街の女や小遣い稼ぎが目的の不良少女を人間花器の材料として試したことがあったが、珠江夫人が美沙江、そしてこの絹代夫人のように習熟の早い女に出会ったことはなかった。
ちなみに順子は、今絹代が見せている「一輪挿し」についても、かつて自分自身で試したこともあったが、五秒ともたないままに花を落としている。
それなので順子は絹代夫人の花器の素晴らしさを見て、自らが主催する湖月流華道の材料としてこの上ないものを手に入れたという悦びと同時に、暗い女の嫉妬を知覚するのだった。
順子は薄桃色をした絹代の乳首に手を伸ばし、指先で摘まむと軽く引っ張る。
「うっ……」
絹代は顔をしかめ、花器に差された薔薇の花がピクリと動く。
順子は口元に微笑を浮かべ、絹代の乳首をくい、くいと引っ張る。その度に赤い薔薇の花はピク、ピクと動く。それは絹代の身体の中に秘められた淫情が薔薇の花を伝って現れているようで、順子は皮肉っぽい滑稽さを感じるのだった。
「花器がそんなに動いちゃ駄目じゃない」
順子が意地悪く囁くと、絹代は切なげなため息を吐きながら「だ、だって……オッパイをそんな風にされると……」と甘えたような声を上げる。
そんな絹代の変貌ぶりに、ついに千原流華道の家元夫人もこちらの思う壷にはまって来たと、順子はほくそ笑むのだった。
「もっとしっかり肉に力を入れなさい。花をぴたりと止めるのよ」
「わ、わかりました……」
絹代は素直に頷くと順子に言われるまま、秘肉に力を入れる。絹代の花壷はキューッと収縮し、やや下がり気味だった薔薇の花弁はぐっと持ち上がる。
その瞬間、絹代の秘裂からすっと一筋、花蜜が流れ落ちる。それは見るものにまるで花器に差された瑞々しい薔薇の花から蜜が流れ出したような印象を与え、順子はその凄絶なまでに淫靡な美しさに目を見張る。
順子はその花蜜を指先ですくい取ると、絹代の唇に塗り付ける。
「あなたの花が流した蜜よ。嘗めなさい」
順子に命じられた絹代は恥ずかしげに舌を出し、唇に塗られた花蜜を嘗めとる。
「どう、美味しい?」
順子の問いに絹代はこくりと頷く。そんな絹代の仕草の四十路とは信じられない可憐さに、思わず順子は陶然となった順子は絹代の両頬を掌で挟むようにすると口づけをする。
絹代はそっと目を閉じ、順子の口吻をためらわずに受けている。その名の通り濡れた絹のような絹代の唇の感触に順子はますます嗜虐心をかき立てられ、ふっくらした乳房を揉み上げ始める。
「うっ……うっ……」
花器に差された薔薇の花が大きく揺れ始め、ついにぽとりと落ちる。順子が空いた手で絹代の秘奥をまさぐると、そこはすでに熱い欲望の印をたぎらせている。絹代の被虐の性感の深さに夢中になった順子が本格的な責めを開始しようとした時、扉が叩かれる。
「大塚先生、大塚先生」
呼びかけるのは友子の声である。順子は燃え上がった気持ちに水をかけられたような不快な気持ちになって立ち上がる。
「何よ、煩いわね」
順子が扉を開けるとそこには千原家で女中を務めていた友子が立っている。その愚鈍そうな表情を目にした順子は、友子を雇っていた絹代の寛容さに感心するような気分になる。
「どうしたのよ」
「田代社長と森田親分から、絹代夫人を連れて来るように言われたんです」
「絹代を?」
順子はますます不快そうな表情になる。
「そんなことをされちゃあ困るわ。絹代は私に預けられたはずよ。明後日の発表会までにしっかりと人間花器の訓練を積まないとならないのよ」
「発表会って何ですか?」
友子が怪訝そうな顔で尋ねる。順子は友子の鈍さに苛々しながら答える。
「決まっているでしょう。明後日にこの屋敷がたくさんのお客様を迎える時に、珠江と美沙江、それに絹代の三人を人間花器として並べて、湖月流華道の神髄を披露するのよ。もうあまり時間がないんだからお稽古が大変なのよ」
「お客様って、岩崎親分やそのお身内のことでっか?」
「その他にもたくさんいらっしゃるのでしょう?」

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