「はあ」
もちろん来るが、それはほとんどが熊沢組などと同様、森田組と同業のポルノを扱っている弱小の暴力団ばかりである。
「そう言えば美沙江はどうしたのかしら。そろそろ母娘を引き合わせて、一緒に調教を受けさせたいのだけど」
順子はますます苛々した様子でそんなことを口にする。
「珠江の調教だってまだまだあれで完成とは言えないわ。あと二晩くらい徹夜したっていいから何とか思うようなものに仕上げないと」
「あと二晩って、大塚先生はゆうべから徹夜で絹代夫人を調教したんでっか?」
「決まっているでしょう」
順子は噛み付くような声を上げる。
「ぼうっとしていないで珈琲でも持って来てよ。頭をすっきりさせて調教を続けたいのよ」
「あ、あの……」
友子は言いにくそうに口ごもる。
「何よ?」
「社長と親分がどうしても絹代夫人に引き合わせたい人間がいるからぜひ連れて来いって……美紀夫人や久美子も同席することになっているんです」
「私の調教をどうしても邪魔しようって言うの?」
「邪魔やなんてそんな……そうそう、そう言えば京子や小夜子、それに静子夫人にも立ち会わせるって言ってました」
「静子夫人にもですって?」
順子の眉がピクンと上がる。
「静子夫人は妊娠して以来千代さんがずっと手元から離さなかったそうだけど、あの千代さんが許可したってことかしら」
順子は何事か思案するような顔付きになる。
「そういうことらしいです」
友子は曖昧な返事をする。
「そう、それならしょうがないわね。千代さんが静子夫人まで立ち会わせるのなら、絹代を出さない訳にはいかないわ」
順子がようやく了解の意思を示したので、友子はほっとする。
順子がごねるようだったら静子と千代の名前を出せと銀子から言われて来たのだが、なるほど、その効果は絶大である。田代や森田の指示では納得しなかった順子が頷いたのである。
それは千代が今や静子に代わる遠山財閥夫人として、森田組の重要なスポンサーになっているせいもあるが、静子に対する妄執とも言うべき感情が、順子の珠江や美沙江、そして絹代夫人に対するそれに酷似しているせいでもある。
実際、今回はまだ静子夫人や京子の立ち会いはないのだが、絹代夫人を順子の部屋から連れ出すことが出来ればそれで上々、嘘も方便だと銀子から友子は言い含められて来たのである。
順子は友子に手伝わせて絹代夫人の縄をいったん解き、改めて後ろ手に縛り上げる。疲労の極にある絹代夫人はもはや抵抗の気力もなく、二人の女のされるがままになっている。
「みんなの前に出るのだからシャワーくらい浴びさせて上げたいけど、時間がないわ。お化粧だけでも直しましょう」
友子は部屋に置かれた鏡台から化粧道具を取り出すと、絹代に手早く化粧をする。
軽く白粉をはたき、眉を整え、控えめなアイラインと頬紅、そして薄桃色の口紅を施された絹代夫人は見違えるような美貌になる。
「さあ、行くわよ。奥様」
絹代夫人の整った容貌にしばし見とれていた友子は、がっちりと縛り上げた夫人の形の良いヒップをパシッと平手打ちする。千原家で女中として使っていた女から裸の尻を叩かれる屈辱に、絹代は無言のまま辛そうに眉をしかめる。
「大塚先生はどうされますか? 一緒に行きますか」
「いや、さすがに疲れたから一眠りするわ」
友子の誘いに順子は首を振る。
本当に疲れたのは一晩中淫らな責めを施された絹代だろうが、先程まであと二晩は徹夜しても平気だと豪語していた順子の豹変ぶりに友子は苦笑する。
しかし、ここで順子について来られては、静子夫人がいないことに不審を抱くかも知れない。順子は千原流の三人の女を手にすることが出来た喜びのあまり、それ以外のことに対する関心が著しく落ちていることから、あえて着いてくるとは言わないだろうという銀子の読みが見事に当たったことになる。
友子は絹代の縄尻を取り、二階の順子の部屋を出ると廊下を階段の方へ向かう。絹代の可憐ささえ感じさせる丸い尻が目の前で揺れるのを眺めているうちに、友子はおかしくて吹き出しそうになる。
「奥様、お身体の調子はいかがですか? 風邪なんかひいてらっしゃいませんか」
絹代は友子の問いを聞き流すかのように、無言のまま俯き加減で歩んでいる。
「ねえ、奥様ったら、聞いているの?」
友子は絹代の縄尻をぐいと引き、バランスを失った絹代の身体を抱きとめるようにしながら片手を素早く双臀の狭間に滑り込ませ、秘められた菊花をまさぐる。
「な、何をするのっ。友子さんっ」
「なんや、ちゃんと口が聞けるやないか」
友子は絹代の可憐な菊花を嬲りながら、もう一方の手を秘奥をまさぐる。絹代の襞の奥がしっとりと潤っていることに気づいた友子は「なんや、奥様、すっかり濡らしているやないか」と頓狂な声を上げる。
「大塚先生に助平なお花の稽古をつけられてオメコをすっかり濡らすやなんて、奥様も大した色好みやないか」
「ちっ、違いますっ」
「母娘そろっていわゆるむっつり助平っていうやつやな。親がこれやから、美沙江も処女喪失早々に派手に気をやるような淫乱娘に育つのも無理はないわ」
絹代の秘密を嗅ぎ付けたような気になった友子の嗜虐心は一気に刺激され、絹代を言葉で嬲り始める。
「な、何ですってっ!」
美沙江の名前を聞いた絹代の顔色がさっと変わる。
「美沙江に一体何をしたのっ。今どこにいるのっ。す、すぐに会わせてっ」
「慌てなくても明後日のショーの時には会わせてあげるわよ。そこで奥様は余興に、美沙江と並んでここんところのお毛々を剃られることになっているのよ。美沙江のお婿さんの時造さんにね」
「美沙江はどこなのっ。美沙江に会わせてっ」
絹代はこの屋敷に囮として潜入し、さらにその正体がばれて奴隷の地位に落とされた今に至るまで、美沙江とは会えていない。二人の衝撃を慮んばかった珠江が身を挺して二人の対面を阻んだせいもあるが、美沙江については岩崎大五郎の弟で岩崎組の大幹部でもある時造がすっかり気に入り、ほぼ独占しているせいもある。
しかしそろそろ美沙江も、ショーで演じる卵割りや珠江との同性愛の演技のおさらいをしなければならない。そうなると当然絹代と顔を合わせることもあるだろう。その時に互いがその変わり果てた姿を目にしてどれほど衝撃を受けるのか、想像しただけで友子はゾクゾクするような快感が込み上がってくるのだ。
しかし今の絹代は、順子から受けた執拗な調教による疲れが嘘のように激しく悶え、泣きわめいている。火がついたように興奮する絹代を友子がさすがに持て余していると「友子、そこで何をしているのよ」と声がする。
164.敗北の兄妹(4)

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