「美っちゃん、ごめんっ」
文夫は美津子に詫びながら猛然と腰を突き上げる。そんな文夫の人が変わったような激しい動きに翻弄されながら、美津子は心の中に苦い嫉妬が湧き上ってくるのを感じている。
(文夫さん……小夜子さんの姿を見て興奮しているんだわ)
文夫がいきなり自らの男らしさを証明するかのように美津子を攻め始めたのは、姉の小夜子に挑発されたからだと美津子は確信に似た思いを抱くのだ。
文夫が小夜子に対して近親相姦の妖しい欲望を抱いているのか、美津子には分からない。しかし、美津子は小夜子を本能的に危険な相手と認識し、大事な男を何としても自分のところにつなぎ止めなければならないとばかりに、文夫に対していじらしいまでの協調を示し始めるのだった。
「ねえっ、文夫さん、もっと、もっと激しく美津子を愛してっ」
文夫の勢いに負けないように激しく腰部を前後に振り立て始めた美津子は、切なそうにそう言うと形の良い唇を文夫の口に強く押し付けていくのだった。
この地獄屋敷の中では、恋人の文夫の存在は美津子のたった一つの生き甲斐だといえる。一時は生木を引き裂くように別れさせられ、文夫は桂子と組まされたが、静子夫人の妊娠に伴う人事異動の結果、再び美津子とのコンビが復活したのだ。
とはいえ文夫は田代屋敷では唯一の男奴隷であり、美津子の姉の京子とも実演ショーのコンビを組まされているし、実の姉である小夜子ともポルノショーに出演させられている。
女奴隷の数に対して男奴隷が圧倒的に少ないため、そういった事態も発生するということについては美津子は既に頭の中では諦めてはいたが、やはり心の底では嫉妬心を抑えることができなかったのだ。
(ああ、いっそ、京子姉さんや小夜子さんの恋人も誘拐されてしまえば良いのに!)
そうなれば恋人同士で奴隷に落とされた悲しみも、そして諦めの中で得られたささやかな悦びも京子や小夜子と共有することができるのに。美津子は文夫の逞しいもので突き上げられる中、痺れるような快美感を知覚しながらそんなことまで夢想するのだった。
「ほら、小夜子も美津子も頑張ってるで。一人でぼんやりしてたらあかんやないか」
義子はそう言いながら手に持った青竹で京子の太腿を軽く叩く。京子は無言で頷くと、グラマラスな裸身をゆっくりとくねらせ始める。
「ああ……ジョ、ジョニー」
京子はわざとそんな悩ましい声を上げると、ジョニーの黒光りした肌にチュッ、チュッと音を立てて接吻を始める。
「お願い――もっと、もっと京子を愛してっ」
京子はほざくようにそう言うと大ぶりの乳房をジョニーの胸板にぶつける。
「オーケー」
ジョニーはニヤリと笑うとゆっくりと腰を前後させ始める。単純な前後運動ではなく、時に弧を描くようなジョニーの巧みな動きに、京子は再び心ならずも燃え上がり始める。
(ああっ、な、なんて上手なのっ)
鬼源から最初、黒人と組まされると聞いた時には恐怖と嫌悪しか感じなかった京子だった。そのことを承諾したのも、美津子や美沙江などのいまだ少女の域を脱していないいたいけな娘たちを守るためという義務感からそうしたに過ぎなかったのである。
実際にヤニ臭い息と黒光りした肌、そして醜悪な容貌をしたジョニーと顔合わせをした時も、これまで春太郎や夏次郎といった、人間というよりも化け物に近いシスターボーイたちに凌辱し尽くされた自分ならどんなことにも耐えられるはずだと、京子は自らの心に言い聞かせたのである。
しかし京子はその嫌悪の対象でしかなかったジョニーに抱かれて一時間もしないうちに、その絶妙な性の技の虜になってしまったのである。
山崎という恋人はいたものの、性的には未開発の状態でこの田代屋敷に囚われることになった京子は、川田や森田、吉沢、そして二人のシスターボーイたちに抱かれ、心ならずも女の悦びを知ることとなった。
しかしながらジョニーとのセックスは、田代屋敷の男たちとのそれすら児戯に等しいのではないかと京子に思わせるほど、まったく次元の違うものだった。
女を思うままに翻弄する荒々しさの中にも、意外なほど繊細な愛撫を織り混ぜるジョニーの卓越した技巧――ジョニーに抱かれるたびに京子は、セックスとはこれ程奥深いものだったと痛感するのだった。
田代屋敷の男たちとの行為の間にはまったく愛はなく――シスターボーイの二人は京子に対して偏執的な愛情を抱いていたようだったが――これまで京子が愛情と安らぎを感じることができたのは静子夫人との倒錯の同性愛行為のみだった。しかしながら京子はジョニーの力強い愛撫に、なぜか愛情めいたものさえ感じるのだ。
実際にはジョニーは、いかにそれが目を見張るほどの美貌の持ち主とはいっても、実演ショーの相手に愛情を抱くような甘さは持ち合わせてはいない。従ってそれは落ちるところまで落とされた京子のいわば自己防衛の本能から生じた錯覚だったかも知れない。
ただ、今の京子はジョニーに対する疑似的な恋愛感情に浸ることによってギリギリのところで自我の崩壊を防いでいるとも言えた。
「ああ……好きよ、好きよ、ジョニー」
京子はジョニーの律動に合せて裸身を媚めかしくのたうたせている。
「愛しているわ……ジョニー」
瞳をとろんと潤ませ、そんな言葉を吐き続ける京子に、マリがニヤニヤしながら近寄る。
「そんなにジョニーのことを愛しちゃったの、京子」
「は、はい……」
京子は波のように断続的に押し寄せる快感で夢現つになりながらこくりと頷く。
「それじゃあ京子はもう、山崎のことは何とも思っていないのね?」
(山崎……?)
京子は官能に痺れてぼやけていく思考の中で、マリの言葉を反芻する。
「何を惚けた顔をしているの。京子の恋人の山崎探偵のことを聞いているのよ」
「あ、ああ……」
「ああ、じゃないわよ。もう、すっかり色惚けになっちゃって。しっかりしなさいよ」
マリはそう言うと、京子の逞しいばかりに実ったヒップをピシャリと平手打ちする。
「どうなの? 恋人の山崎のことはもう何とも思っていないのね」
「や、山崎さんのことは……」
京子はそこまで口にした途端、ジョニーにぐいと突き上げられて「ああっ」と切なげな声を上げる。
「山崎さんのことは、どうなの?」
「も、もう何とも思っていませんわ」
京子がそうはっきり口にしたので、マリと義子は顔を見合わせ、堪え切れないようにクスクス笑い出す。
「聞いたかい、探偵さん。京子はてめえのことはもう何とも思っていないとよ」
川田は、襖の透き間から恋人の痴態を見せつけられている山崎の頭をぐっと押さえながら、さも楽しそうにそう言う。
山崎は眼前に繰り広げられている光景に激しい衝撃を受けていた。誘拐犯から送られてくる写真や声の録音テープ、そして調査の過程で手に入れた秘密写真のフィルムなどから、静子夫人や京子、そして美津子や村瀬姉弟他の人質がどんな目にあっているのか山崎はおおよそ想像はしていた。
しかしながら襖の向こうの大広間の中で展開されているまさに色地獄ともいうべき光景は、そんな山崎の想像をはるかに超えていたのだ。
特に山崎は、自らの助手であり恋人でもあった京子の凄まじいまでの転落ぶりに打ちのめされていた。勝ち気で気丈な性格の一方で、性に対しては奥手で意外なほど臆病であった京子が、醜悪な黒人のポルノスターと絡み合いながら、身体の裡から込み上げてくる快感をさも切なげに訴えているのだ。
189.肉の狂宴(2)

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