「うっ……」
男二人掛かりの力に抗しかねて山崎は全裸のまま立たされる。あらわになった山崎の股間の逸物が半立ちになっているのを見た川田と吉沢は声を上げて笑い出す。
「なんだ、その様は」
「恋人が黒人にハメられているのを見てチンポコおっ立てるなんて、てめえは変態か」
川田と吉沢は口々にそう罵りながら、山崎の体のあちこちを小突き回す。
「やっ、やめろっ」
山崎は抵抗しようとするが、全身を堅く縛り上げられた身ではそれもままならない。
「チンチンまで丸出しにしてざまあないぜ」
「それでも名探偵のつもりかい」
義子とマリ、そして撮影班の井上他の森田組のやくざやチンピラたちも、嵩にかかって山崎に揶揄の言葉を浴びせる。
「なかなか立派なものをもっているじゃねえか。ええ、探偵さんよ」
川田はそう言うと半ば屹立した山崎の肉棒をいきなりぐいと握り締める。
「ううっ」
苦しげな声を上げる山崎に、川田は冷酷な視線を向けながら、その肉塊をゴシゴシとしごき始める。
仇敵とも言うべき森田組のやくざや、葉桜団のズベ公たちのいたぶりを受けている兄の惨めな姿を見かねた久美子が制止しようとした時、一瞬早く京子が悲鳴のような声を上げる。
「やめてっ! や、山崎さんに何をするのっ」
先程まで子供のような泣き声を上げていた京子が、まるで息を吹き返したかのように柳眉を逆立て、気丈にやくざたちを睨みつけたのを見た川田や吉沢は一瞬呆然とする。
黒人のポルノ役者のジョニーと、ボブ・ブラウンは畳の上に胡座を組んで煙草を吸い、思わぬ成り行きを楽しむかのように笑い合い、時々意味の分からない軽口を飛ばし合っている。
「あ、あなたたちっ、その人が誰だか分かっているのっ。こんな馬鹿なことをして、今度こそ絶対に後悔するわよっ」
懸命に気力を振り絞りながらそんな言葉を吐く京子の様子に冷静な表情を向けている鬼源は、どうしたものかと首を捻っている撮影班の井上に「かまわねえから撮り続けろ」と声をかける。
「いいんですかい?」
「ああ、ひょっとしたら狙っても撮れねえ名場面が撮れるかもしれねえぜ」
井上は頷いて撮影機のフィルムを回し続ける。川田がつかつかと一歩進み出ると、京子の肩を抱くようにしながら「久々に京子姐さんの勇ましいところを見せてもらったぜ」とニヤニヤと笑みを浮かべる。
「おうよ、素っ裸で仁王立ちになって啖呵を切るところなんざ、なかなか絵になるじゃねえか」
吉沢も川田と逆の側に立ち、京子の肩に手をかけながらそんな言葉を言い放つ。
「けどよ、さっきまで黒人と立ちマンを決めながらいく、いくなんて可愛い声で囀っていた京子が、昔の男の前だからって今さらそんな風に格好をつけたって似合わねえぜ」
川田がそう言いながら京子の乳房を軽く揉み上げ始めたので、京子は不快そうな表情になる。
「おうよ、ここに来た時は処女だったのが川やんに女にされて、俺とは夫婦の契りも交わして、すっかり女らしくなった京子じゃねえか。もっと愛想の良い顔をしたらどうなんでえ」
吉沢はそう言うと京子の肩にかけた手をゆっくりと下ろし、京子の逞しいばかりに張り出したヒップを撫で回す。京子は唇をぐっと噛んで、二人の卑劣な男の玩弄に絶えていたが、やがて川田と吉沢が京子の尻たぼを両側から押し開き、双臀の狭間に秘められた菊蕾を無骨な指先でまさぐり始めたのでカッと頭に血が上る。
「何をするのよ。馬鹿っ!」
京子の右足が分銅のように跳ね上がり、川田の顎に命中する。川田は「ぐえっ」と蛙が潰れたよう声を上げて畳の上に引っ繰り返る。
続いて京子の左足が円弧を描いて吉沢の後頭部を直撃する。吉沢もまたもんどり打って畳に沈み込む。後ろ手に縛られていた京子はバランスを失い、いったん畳みに倒れ込むが素早く身を立て直す。
両手の自由を奪われた京子の見事なまでの空手技を目にしたジョニーとブラウンは手を打って歓声をあげる。
「こりゃあ確かに名場面だぜ」
井上はカメラを覗きながら思わずそう口にする。
「野郎っ!」
チンピラたちが飛び出そうとしたが、鬼源が「待て」と制止する。
山崎を挟むようにして座り込んでいた義子とマリが立ち上がり、血相を変えて京子に詰め寄る。
「いったいどういう料簡をしてるんや、京子」
「二度と空手なんか使わない可愛い女の子になるって、何度も誓ったのは嘘だったのかい」
「う、嘘を言った訳じゃないわっ」
起き上がった京子は必死の形相で義子とマリを交互に睨みつける。
「私は、ここで一生奴隷として過ごす運命を受け入れたのよっ。そ、それなのにどうしてこれ以上、私の大事な人を地獄に落とそうと言うのっ」
京子は感情の高ぶりのあまり涙声になる。
「美津子に文夫さん、小夜子さん、小夜子さんのお母様。その上に山崎さんや妹の久美子さんまで……あっ、あなたたちは一体どこまでやれば気が済むのっ」
「そんなことはあたいたちの知ったことじゃないよ」
マリは京子の悲痛な叫びを鼻でせせら笑う。
「そもそも文夫に小夜子はそこにいる美津子が電話をかけて呼び寄せたんやろが」
義子がそう言って美津子を指さす。文夫と裸身を寄せ合っていた美津子は顔色を変え、びくりと肩を震わせる。
「久美子や美紀夫人はあたいたちを騙して自分からここに侵入して来たんや。山崎もいつまでも執念深くあたいたちを追い回すからこんなことになるんや。どいつもこいつも自業自得やないか」
「そうだよ。元々これはあたいたち葉桜団の中での内輪揉めさ。桂子が仲間の男に手を出したことがきっかけで起きたことじゃないか。それがこんなに話が大きくなったのは、ここにいる山崎がドジを踏んだせいだろうが」
マリはそう言うと山崎の背中を思い切り蹴り飛ばす。
「くっ……」
京子の表情が苦しげに歪む。確かに一連の誘拐の発端となったのは、葉桜団内部での私刑騒動であり、それを山崎が甘く見たことが静子夫人の誘拐を招き、婦人の身柄に興味を覚えた森田組とそのバックにいる田代が乗り出して来たことが事件を大きくしたのだと言えなくもない。
だからといってこんな非道を認める訳にはいかない。京子は気力を振り絞って口を開く。
「お願いですっ。せめて山崎さんと久美子さん、それに村瀬の奥様は解放して上げてっ。そ、その代わり、私は何をされてもかまわないわっ!」
「京子はもう何をされても文句は言えない女奴隷さ。そんなことは条件にはならないよ」
「そや、それに今さら山崎を解放する訳にはいかんな。こいつを外に出したら性懲りもなくあたいたちに楯突くに決まってるわ」
マリと義子はそう言うと山崎の背中を交互に蹴り飛ばす。
191.肉の狂宴(4)

コメント