「もちろん、仇を討った暁には十分なお礼を差し上げます」
「お礼って言ったって、あんたたち二人とも身ぐるみはがされた素っ裸じゃないか。どうやってお礼をするつもりなんだい」
「そ、それは……」
お小夜は言葉を詰まらせる。
「国元に使いを出して、お金を届けてもらいますから」
「そんな悠長なことはしていられないね」
お銀はぴしゃりと言い放つ。
「仇を討ちたきゃ葉桜屋で津村がやってくるまでの一週間、女郎として働くのさ。お嬢ちゃんのような別嬪なら、売れっ子になることは間違いないね」
お銀がそう言うと朱美もまた追い打ちをかけるように「お坊ちゃんの方も陰間として客を取ってもらうよ。お坊ちゃんのような綺麗なお稚児さんなら下手な女郎よりもずっと稼げるよ」と言う。
「な、なんということを」
お小夜は驚愕に目を見開く。
「それが嫌なら二人ともこの場で斬り殺すまでさ。さ、どうするんだね」
そこでいったん幕がおり、息を凝らすようにして舞台に見入っていた観客たちはほっと息をつく。
観客席の中央に陣取っている岩崎も、すっかり上機嫌になったようで隣に座る時造に何ごとか話しかけている。
「なかなか面白いじゃないか」
岡田が感心したように町子に語りかける。
「そうね。時代劇仕立てってのは考えたものね。長い台詞もすらすら言えてたし、よほど練習したんでしょうね」
「実演ショーってのは単調になりがちだからな。工夫するのは良いことだ。俺たちも見習わなきゃな」
岡田がそう言うと関口が「確かに面白いが、前置きがあまり長いと観客がじれちまうぞ」と首を傾げる。
岡田がそう言ったとき、再び進行役のマリと義子がマイクを持ってステージに現れる。
「みなさま、お楽しみいただいておりますでしょうか」
マリがにっこり微笑むと、興奮した観客たちはどっと歓声を上げる。
「さて、ここで次の幕の用意が出来るまで、最近森田組に入荷しました新人奴隷4名のお披露目をさせていただきたく思います」
マリがそう言うと義子が後を続ける。
「4名は年齢も経歴はさまざまですが、その美貌と肉体の素晴らしさは、これまでの奴隷たちとなんら遜色はなく、森田組が自信を持ってご推薦出来るものです」
義子はそこまで言うと舞台脇に向かって「それでは、新人奴隷の皆さん、張り切ってどうぞ!」と呼びかける。
義子の声と同時にステージに大音量の音楽が鳴り響く。
観客たちの注目の中、スポットライトに照らされながら舞台脇からキラキラしたローブを身にまとった四名の女たちが現れる。
女たちはまるで仮装パーティに出るようなマスクをしており、その顔ははっきりとは分からないが、それぞれのマスクから覗く整った顔立ちからはかなりの美貌と思われる。
中でも最後の女は輝くばかりの金髪と透き通るような肌から、明らかに日本人ではないことが窺え、森田組が抱える奴隷達のバラエティの豊かさに観客たちは度肝を抜かれる。
女は森田組のチンピラと思われる少年二人(竹田と堀川)と、先ほど大塚順子とともに千原流の女達に人間花器というおぞましい調教を施していた直江と友子という少女二人にによって剥き出しになった白い尻を交互に叩かれながら、ステージの中央に追い立てられる。
「そこで前を向きな」
若い調教師たちが手に持った青竹で女の豊満な尻をピシッと叩くと、四人の女がローブをひらめかせながらいっせいに身体を正面に向ける。年齢も特徴も様々だが、いずれ劣らぬ艶やかな裸身が露わになり、居並ぶ観客たちはため息のような声を上げる。
町子もまた女たちの艶麗な肉体に思わず目を奪われる。
一番左に立つ女はいかにも人妻らしい肉感的な身体をしており、その迫力は右端の白人女に勝るとも劣らない。先ほど登場した静子夫人に印象は似ているが、その成熟味においては静子夫人を上回ると思われる。
二人目の女は左端の女よりは線が細いが、染みひとつない雪白の肌が輝くような美しさである。町子は体つきと髪型から、その女が先ほど大塚順子の部屋で目にした千原流家元夫人、千原絹代ではないかと想像する。
三人目の、千原絹代らしい女と白人女に挟まれているのは、最初の二人よりはかなり年が若いと思われる、小麦色の健康的な肌と引き締まった肉体が印象的な娘である。
町子はその若い娘が、四人の中ではただ一人股間の翳りを剃り上げられており、さらにその無毛の割れ目を赤白段だらの紐が締め上げていることに気づく。
驚いた町子が他の女たちを見ると、左側の二人の女も右端の白人女も同様に、その烏の濡れ羽のような漆黒の翳りと金色に輝く翳りを割って、同様に赤白段だらの紐によって股間を締め上げられている。
(全員、縦縄をかけられているんだわ……)
町子も、三郎と直江たちとともに「女悦丸」という奇妙な大小二つの銀の玉を、月影荘に幽閉している雪路の前門と後門に無理矢理押し込み、そのまま縦縄をかけて責め上げたたことがある。
その時は一時間も経たないうちに雪路の身体はすっかり熱くなり、その羞恥の部分は溢れるほどの泉を湧き上がらせたのだった。部屋の中で一人、お琴を弾くことしか知らなかった淑やかな雪路をたちまち淫情いの底に叩き込む縦縄の威力に町子は驚いたものである。
その後は、毎晩の就寝前や客を取る前の一定の時間、縦縄をかけられることが雪路の日課となった。最初は涙を流して拒絶した雪路だったが、調教が繰り返されるうちに町子が縄を差し出すと恥ずかしげに頬を染め、自らそっと肢を開いて受け入れの姿勢を示すまでになったのだ。
今は妹の雅子も雪路と同様、青々と剃り上げた女の割れ目に淫らな縄を食い込ませ、汚辱と裏腹の快感に呻きながら、地下の檻の中で姉とともに悩ましく腰を蠢かせるようになっている。
(女に対する責めっていうのはどこでも同じようなことをやるのね)
町子が妙に感心した気持ちになっていると、四人の女奴隷たちが舞台の上にずらりと並んだのを確認した義子とマリが顔を見合わせて頷き合う。
「それでは四人勢揃いしたところで、順にご紹介いたします」
マリと義子はそう言うと左端の女に近づく。スポットライトが二人を追うように動き、左端の女が光を浴びて浮かび上がる。
「まずは一人目の女奴隷です」
マリが左端の女のローブに、そして義子が女のマスクに手をかけて同時に剥ぎ取る。女の全身と素顔が露わになり、その整った美貌を目にした観客はため息に似た声を上げる。
(この女の人……)
町子はその美熟女の顔立ちが、先程舞台に登場した美貌の姉弟に酷似していることに気づく。
(まさか……そんなことって)
女は一瞬スポットライトが眩しいように顔を背けるが、義子にパシッと尻を叩かれ、前を向く。
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