215.奴隷のお披露目(15)

 汚辱の自己紹介を終えた新入り奴隷たち四名は、改めて舞台上に横一列に並ぶ。美紀夫人の熟れ切った肢体、絹代夫人の淑やかさを湛えた裸身、久美子の若鮎のような肉体、そしてダミヤの神々しいまでの白磁の裸体――それぞれ個性に満ちた四つの裸像を目にした観客の興奮はいやがうえにも高まっていく。
直江と友子、竹田と堀川は次の幕の準備のために舞台を下り、舞台上には四人の女奴隷以外は進行役のマリと義子が残るのみである。
「さて、ここに並んだ森田組のニューフェイス四名。残念ながらいずれも入荷して間がありませんので、皆さまにお見せする芸がほとんどございません」
司会者気取りの義子がマイクを持ってやくざたちに語りかける。
「とはいっても、ただ突っ立ったままというのもそれこそ芸がないというもの。何でも宝塚の音楽学校では、初舞台ではラインダンスを踊るのがしきたりと申しますが、わが森田組もそれにならい、新人たちによるダンスをお目にかけたいと思います」
義子がそう口上を述べると岩崎が「素っ裸でラインダンスを踊るってのか。そいつは面白えや」と身を乗り出す。
「そう言えば親分のお住まいは神戸でしたね。宝塚はお好きでっか」
「おう、大好きだ。月に一度は観に行くぜ」
「こいつは見かけによらない……」
義子はそう言いかけて慌てて口をつぐむ。
「いや、ここは森田組は森田組らしい、ラインダンスよりもはるかに色っぽい踊りを披露させていただこうと思います。葉桜団直伝、名付けて鈴縄踊りでございます」
「鈴縄踊りだって? どういうことだ」
岩崎が眉を上げると、義子が「この四人の別嬪さんたちはご覧のようにお股に縄をかけられていますが、実はこの縄には仕掛けがありまして」
そう言いながら義子はポケットの中から赤白段だらの縄を取り出す。
「これがこの四人にかけられたのと同じものです。この股縄は葉桜団特製のもので鈴縄と呼ばれてまして、その理由がこの金の鈴と銀の鈴です」
義子は鈴縄の途中に取り付けられた大小二つの鈴を指さす。
「四人の別嬪さんはこっちの大きい金の鈴を前の穴に、小さい銀の鈴を後ろの穴に埋め込まれておりまして、さらにその鈴が飛び出さないようにしっかりと縄がかけられています」
義子の説明を聞いても何人かのやくざは釈然としない顔付きをしている。
「要するに、この鈴縄をかけられたまま腰を振って踊ると、前後の穴を殿方のアレで塞がれたままお尻を振っているような気分が味わえるって寸法なんです」
マリがそう言うと、首を捻っていたやくざたちは「ああ、そうか」とか「なるほどな」と言って手を打つ。
「それじゃあ早速始めさせていただきます。踊り子の皆さん、張り切ってどうぞ!」
義子の口上が終わると同時に、座敷に大音量の音楽が響き出す。
しかしながら舞台上の四人の女奴隷たちは一様に躊躇いの表情を浮かべたまま、身体を静止させている。
「み、美紀様……わたしたち、どうしたら……」
絹代が気弱な表情を隣りの美紀に向ける。哀れな四人の奴隷たちが強いられているのは、マリが説明したとおり疑似セックスとも言うべき淫猥極まりない自慰行為なのである。
「どうしたらって……や、やるしかないんじゃないかしら……」
そう言いながらも美紀もまた自ら踊り始める勇気が出ない。何度もリハーサルで躍らされたとは言っても、言語を絶する淫らな踊りを、二十人以上の観客の前で披露するとなったら足が竦み、身体が強ばってしまうのをどうすることも出来ないのだ。
「どうした、何をぼんやり突っ立っているんだ」
「早く始めないかっ」
観客のやくざたちは舞台上の裸女たちにいっせいに野次を飛ばし始める。
「何をしているんやっ。早いところ始めんと、また岩崎親分の御機嫌が悪くなるやないかっ」
「愚図愚図しているとあんたたちの娘にとばっちりがいくわよっ」
義子とマリが苛立った声を上げ、美紀と絹代の尻を青竹で打つ。二人の美夫人が同時に「ひっ」と悲鳴を上げ、円熟した双臀を捩らせた時、夫人たちの隣りに立つ久美子が意を決したように踊り始める。
「あ、ああっ……」
途端に久美子の身体は電流が走ったような衝撃に見舞われる。身体の奥から込み上げる妖しい快感を歯を食いしばって堪えた久美子は、懸命に腰部をグラインドさせる。
「ほう、始まったじゃないか」
岩崎は舞台に向かってぐっと身を乗り出すようにする。
「ほらほら、久美子はもう始めたわよ。あんたたち、久美子一人に踊らせてるなんて、恥ずかしくないのっ」
小夜子や美沙江と同世代の久美子が、他の奴隷たちを擁護するかのように淫らな地獄に先陣を切って身を投じたのを見た美紀と絹代は顔を見合わせて頷き合うと、同時に身体をうねらせ始める。
「ほう、ご婦人たち二人も始めたぜ」
町子たちの隣に座っている岡田と石田もぐっと身を乗り出し、奴隷たちの淫靡な踊りに夢中になって見入っている。
「ほらほら、他の三人はもう踊り始めたわよっ。何を一人で格好を付けているのよっ」
「日本人を馬鹿にしていると承知せんでっ」
マリと義子に交互に尻をぶたれ、ダミヤは屈辱の涙を浮かべながら、三人の奴隷たちの後を追うように豊満な尻をグラインドさせ始める。
「こいつは迫力満点だ」
岡田はそう言って何度も頷くと、涎を垂らさんばかりの顔を舞台上の四人の踊りに向けている。町子もまた四人の「鈴縄踊り」と呼ばれる奇妙なダンスに目を奪われながらも、月影荘に幽閉している雪路に初めて股縄をかけたときのことを思い出している。
舞台上の四人の女たち同様に、女の急所に大小二つの玉を埋め込まれ、淫情に呻きながら身をくねらせていた雪路――その哀切的な姿が四人のそれに重なり、町子は身体の裡から不思議な感覚が込み上げてくるのを知覚するのだった。
「ほらほら、腰の振りが足らないよっ」
マリが手に持った青竹で久美子の逞しいばかりに張り出した尻を思い切りひっぱたくと、義子もまた絹代に向かい、「そっちの奥さんも何を気取っているんや。いつまでも家元夫人のつもりでおったらしょうちせえへんでっ」と罵声を浴びせてその柳腰を打つ。
久美子と絹代は屈辱に咽びながら、強制されるまま腰の動きを速める。
次にマリは美紀夫人に向かい、「もっと肢を広げて大胆にケツを振りなっ。娘の方がずっと上手だよっ」と言いながら夫人の豊満な尻をひっぱたく。義子もダミヤに向かって「お前ももっと大きく尻を振んやっ。日本人を馬鹿にしているんかっ」と叱咤しながら青竹をその巨大な尻に振り下ろす。
四人の女たちは自棄になったように大きく両肢を広げ、尻を前後左右にグラインドさせる。四つの裸身に浮かんだ汗がスポットライトに照らされてキラキラ光る。派手な音楽に乗って淫らに踊り狂う美女たちの姿に、観客席の熱狂はいやが上にも高まっていく。
(確かにこれは疑似性交だわ)
二つの玉を飲み込んだ雪路が、檻の中でさも恥しげに腰をくねらせている時は、雪路にただ自慰行為を強要しているだけのつもりだったが、目の前の四人の美女が舞台上に仁王立ちになって腰を激しく揺り動かしている姿は、まさに見えない男との交合を思わせ、迫力満点であった。
「あ、ああっ」
「も、もうっ」
舞台の左側に立つ美紀と絹代がほぼ同時に、絶息するような呻き声を上げて腰の動きを止める。

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