二人の美夫人の絶頂が近いと見たマリと義子は、顔を見合わせてニヤリと笑い、舞台脇に控える井上に向かって合図する。音楽がいったん止み、観客席からため息のような声が漏れる。
「こらこら、勝手に踊りをやめたらあかんやないか」
義子が美紀夫人の顎に手をかけてそう言うと、夫人はさも恥ずかしげに顔を逸らし「だ、だって……これ以上続けると……」と苦しげに言う。
「気をやってしまうっていうんかいな」
義子の問いに美紀夫人はさも恥ずかしげにこくりと頷く。その瞬間、夫人の豊満な身体から匂い立つような色気が生じるようで、観客席の男たちは陶然とした顔つきになる。
「家元夫人の方はどうなの」
マリが絹代夫人の肩に手をかけて尋ねると、夫人もしなやかな裸身を切なげに捩らせながら消え入るような声で「私も同じですわ」と答える。
いかにも清楚な雰囲気の絹代夫人がそんな媚態めいた仕草を示したので、観客たちは涎を垂らさんばかりの表情になる。中でも岩崎の隣に座る時造は、絹代が自分のお気に入りの美沙江の母親だと言うこともあって、先ほどから夫人の艶麗な姿に釘付けになっている。
「気をやっても構わん。ここまで来たらお客さんたちはそれが観たいはずや」
義子にそう決めつけられた美紀夫人は「そ、そんな……」と顔を引きつらせる。
「私達にそこまで恥をかかせるおつもりですの」
「女奴隷だったら人前で気をやることくらい当たり前のことよ。お嬢さんもお坊ちゃんもこの屋敷に来てから、大勢の目の前で数え切れないくらい気をやったのよ」
マリはそう言うと夫人の豊かな乳房を持ち上げるようにする。
「そや、こんなんはどうかな。四人の中で気をやるのが一番早かった女に、お客様から希望者を募って、ショーの最後にたっぷりと浣腸の御馳走をして上げるってのは」
義子がそう提案すると、観客席の男たちは急にざわめき出す。
「一番早かった女? 一番遅かった女の間違いじゃないの?」
マリが怪訝そうな声を上げると義子が「それでええんや」と言いながらニヤリと笑う。
すると、音楽が止むとともに身体の動きを止めて、ハアハアと荒い息を吐いていた久美子が急に意を決したように顔を上げ、淫らな踊りを再開する。
その隣りのダミヤも、挑発するような視線を前に向け、腰を激しく前後に揺り動かし出す。観客席から喝采が浴びせられ、スポットライトが再び二人の裸像を照らし、音楽が鳴り響く。
そんな二人の姿を目にした町子は感心したように頷く。
「なるほどね、これも自己犠牲の精神って訳ね」
「自己犠牲だと?」
岡田が尋ねると町子は「ああやって、自分が早く気をやることで、他の奴隷が罰を受けるのを防ごうとしているのよ。ほら、月影荘でも雪路と雅子がお互いかばいあって、自分から先に調教を受けようとするじゃない」と答える。
「雪路と雅子は姉妹だからじゃないか。あそこに並んでいる四人は赤の他人だぞ」
「赤の他人でも、心が綺麗な人間には自己犠牲の精神があるのよ」
「そうかな。案外、自分が早く気をやりたいだけじゃねえのか」」
岡田が皮肉っぽい笑みを浮かべると、町子は「男はこれだから嫌だわ」と顔をしかめる。
その時、久美子とダミヤに続いて美紀夫人と絹代夫人も腰部を前後に振り始める。
「ほら、ご覧なさいよ。私の言ったとおりでしょう。四人とも自己犠牲の精神が備わっているのよ」
「ふん、案外これも全部台本通りじゃねえのか」
岡田はそう言うと「まあ、仮に演出だとしても大した見物だがな」と続ける。
「お、奥様、わ、私に先にいかせてくださいっ」
久美子が絹代と美紀に悲痛な視線を向ける。
「私が責めを受けますから、奥様たちはこんなことはもうやめてっ」
久美子は二人の美夫人にそう言うと、次にダミヤの方を見て「ダミヤさん、お願い、あなたもやめてっ」と声を上げる。
久美子の制止の声を聞いたダミヤは無言で首を振り、さらに身体の動きを速くする。「お、おおっ」というダミヤの獣のような声が、音楽に混じって部屋の中に響き始める。
「おっ、こりゃ意外に金髪女が一番乗りかな」
岩崎組の幹部やくざの一人がそう言うと、別の幹部やくざが「いや、俺はあの若いお嬢さんだと思うぜ」と声を上げる。
「俺は左端のグラマーな人妻だと思うな」
「いや、その隣の細身の女じゃねえか。ああいったタイプが案外色好みなんだ」
熊沢組や南原組の男たちも混ざって騒ぎ始める。いっちょ賭けをしないかと一人が言い始めると、賭け事好きのやくざたちは早速座布団を囲んで即席の賭場を開帳する。
岩崎の妾の葉子と和枝や、千代や順子までが嬌声を上げて賭け始めるのを横目で見ながら、岡田が「面白えじゃねえか。俺たちも賭けないか」と町子に声をかける。
「馬鹿なことを言わないでよ。今はそれどころじゃないんだから」
町子は舞台にじっと目を向けたまま煩わしげに首を振る。四人の女たちは徐々に情感が高まってきたのか、堪えかねたような呻き声や哀切的なすすり泣きの声を上げながら、裸身を前後左右にうねらせ続ける。
左端の美紀夫人は腰部をくねらせるたびに、豊満な裸身が電流が走ったようにぴくっ、ぴくっと震わせ、同時に「あっ、ああっ」というハスキーな声を洩らしている。その隣りの絹代夫人は、込み上げる快感を懸命に堪えるかのように眉を寄せ、ぐっと唇を噛みながらも優美な裸身を妖しくくねらせている。
右から二番目の久美子は、何とか自分が生け贄になることによって他の女たちを救おうと、必死で身体をくねらせている。しかしながら久美子は四人の中で唯一の処女であることから性感の開発は遅れており、おまけに股縄に取り付けられた金の鈴の大きさも、他の女のそれよりは一回り小さいものとなっている。
おまけに大勢の男たちの目の前に裸身を晒していることが、元来羞恥心の強い久美子の身体をいっそう堅くしていることもあって、思うように官能が高まってこないのだ。
「お、おおっ!」
久美子の隣りのダミヤは獣のようなうめき声をいっそう高め、白磁の裸身をますます大胆にくねらせながら、官能の頂きへと駆け上がって行く。
(ああ、早く、早くいかなきゃ……)
久美子は置いてけぼりになったような焦燥に駆られながら大きく腰部をくねらせる。しかしながらもっとも早く到達したら、衆人環視の前で浣腸責めにかけられる――その恐怖が久美子を竦ませ、身体は自然に強ばっていくのだった。
(もう、こうなったら……)
久美子は思い詰めたような顔つきになると腰部を前後に激しく動かし、ぴたりと止めるとぐっと歯を食いしばり、「い、いきますっ!」と絶息するような声を上げながら裸身をブルブル震わせる。
久美子の崩壊の様子を目にしたやくざたちがどっと歓声を上げる。
「おっ、お嬢ちゃんが一番か」
「賭けは俺の勝ちだな」
久美子に賭けた男が掛け金を回収しようとしたとき、美紀夫人が「いくっ、いくわっ」と声を上げて豊満な裸身を痙攣させる。
「ア、アイム、カミン」
「ああっ、いきますっ」
少し遅れてダミヤ、そして絹代夫人が切なげな声を上げながら後に続く。
四人の美女たちが続けざまに上り詰めたのを目にした観客たちから一段と大きな歓声と拍手が湧き起こる。岩崎も満足そうな笑みを浮かべ、しきりに頷いているのだった。
216.奴隷のお披露目(16)

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