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239.奴隷のお披露目(39)

 岩崎もまた美紀夫人を抱き寄せながら、うっとりとした顔つきで話しかけている。
「奥さんは年齢《とし》はいくつだい」
「よ、四五です」
「四五だって」
岩崎は驚いて目を見開く。
「とてもそんな風には見えねえぜ。肌の色艶を見たってどう見ても三〇代前半といったところだ」
岩崎がそんなことを言いながら美紀夫人の弾力に富んだ肌を撫でさすると、夫人は頬を染めながら「お、恐れ入ります」と答える。
「だって親分、さっきの舞台に出演していたこの女の娘の小夜子はもう二三歳になるのよ。それくらいはいってないとおかしいわ」
千代がそう口を挟むと岩崎は「そんなことは俺にもわかっている」とぶっきらぼうに答える。
「俺が言いたいのは、このご婦人が年寄りもずっと若々しく見えるし、それは肌の張りや色艶が抜群だからってことだ」
「ふん、それは贅沢なものばかり食べていたからでしょう。あの静子と同様に」
千代は吐き捨てるように言う。そんな千代を無視するように、岩崎は美紀夫人に話しかけ続ける。
「奥さんもさっきの、娘と息子の舞台を見ていたのかい」
「い、いえ……」
美紀夫人は首を振る。
美紀夫人と絹代夫人は先ほど、鈴縄ショーを演じさせられた後は、普段は吉沢が使っている部屋で休憩させられており、舞台は見せられていない。小夜子と文夫が衆人環視の前で責め立てられる淫らに責め立てられるのを目撃させられるのは、母親である美紀夫人にとっては何よりも辛いことであり、それを見ることがなかったのはむしろ幸いであったとも言える。
「そいつは惜しいことをしたな。あれはなかなかの見物だった」
岩崎はそう言うと揉み手をするような格好で立っている川田と鬼源の方を見る。
「あの芝居はまだ続きがあるんだろう」
「へい、もちろんで」
川田が芝居の癖が抜けないのか、そんな口調で答えたので笑い声が起こる。
「これからが見せ場でさあ。この後、京子と美津子姉妹が扮するお京とお美津の千鳥の舞い」
「何よ、千鳥の舞いって」
葉子が尋ねると和枝が「レズビアンショーのことよ」と口を挟む。
「まあ、姉妹でレズを演じるって言うの」
葉子が驚きに目を丸くする。
「続いて小夜子と文夫が演じるお小夜と文之助による珍芸ショー」
「どんなショーなの」
今度は和枝が身を乗り出す。
「そいつは見てのお楽しみってことで」
「楽しみだわ」
和枝がうきうきした声を出す。
「あたし、あの美少年がすごく気に入っちゃったの。ああ、あんな綺麗な男の子と一度でいいから……」
「和枝さん、親分の前で何を言うの」
葉子がたしなめると和枝は「あら、しまった」と言って口を押さえる。
「かまわねえぜ。ここにいる間は俺に気を遣うことはねえ。俺だって楽しむつもりだからな」
岩崎はそう言って笑うと「しかし、あの美少年を抱きたいのなら、ここにいる母親の許可を取る必要があるんじゃねえのか」と美紀夫人の方を見る。
「それもそうだわ」
和枝は納得したように頷くと美紀に向かって「ねえ、奥様」と話しかける。
「あたし、奥様の息子さんに一目惚れしちゃったの。ねえ、いいかしら」
「いいかしらって……ど、どう言う意味ですか」
「どういう意味って、奥様も女なら分かるでしょう」
和枝は妙にしなまで作りながら続ける。
「奥様の息子さんと、男と女の関係になりたいのよ」
和枝にそんな言葉をかけられた美紀夫人は恐怖とおぞましさにブルッと身体を震わせる。
愛する息子を野卑なやくざの妾たちの生け贄にするなど、承諾できるはずがない。
かといって、それを拒むと和枝の、ひいては岩崎の顔をつぶすこととなり、それによりどんな陰湿な報復を受けるかわからない。切羽詰まった美紀は美貌を引きつらせたまま、言葉を発することも出来ないでいるのだ。
「それじゃあそろそろ次の舞台が始まりますので、私たちはこれで失礼させて頂きます。どうかごゆっくりお楽しみ下さい」
川田は卑屈な笑みを浮かべ、岩崎に向かってぺこぺこと何度も頭を下げると鬼源とともにその場を去る。

町子は、美紀夫人と絹代夫人がそれぞれ岩崎と時造にぴったりとくっつくように座らせられるのを少し離れた場所から見ている。
(自分たちの娘や息子が出演するショーを見せつけようって言う魂胆ね)
いったい誰の発想かは知らないが、町子はこの屋敷での奴隷たちへの調教の徹底ぶりに舌を巻く思いになる。
「ああして自分の娘たちのショーを見せられるってのは辛いだろうな」
岡田も同じことを考えていたのか、二人の半裸の美夫人を眺めながらそんなことを呟く。
「私たちも少し、見習わなきゃならないかもね」
町子がいきなりそんなことを口にしたので「何をだ」と尋ねる。
「ああやって、他の女奴隷への調教ぶりを見せつけるってやり方よ。見る方と見られる方が母親と娘なんだから、お互いに屈辱感もあって効果は抜群だわ」
「しかし、月影荘の奴隷は二人きりだからな」
「だからこそ意識してやらないと」
町子は力を込めて話し出す。
「今までは二人並べて調教してきたけれど、雅子もそろそろショーのスターとして独り立ちしてきたから、これからは別々調教することも多くなるはずだわ。その際にはもう一方の身体が空いている限りは出来るだけ立ち会わせるのよ」
「なるほどな」
岡田は感心したように頷く。
「しかし町子は商売熱心だな。この屋敷のやり方はすぐに月影荘でも取り入れようってつもりか」
「もちろん全部は無理だけど、良いものは参考にしないと。別に特許なんてないんだから」
町子はそう言って笑う。
「岩崎組を始め、ここがこれだけ注目を集めているのが、ここのやり方が悪くはない何よりの証拠よ。月影荘にはこの屋敷にはない良いところもあるんだから、そこを生かせばもっと儲かるはずだわ」
「それにしてもあと二人、いや、せめて一人、奴隷がいればな」
「そうね。この屋敷の奴隷を誰か一人貸し出してもらえないかしら」
「そいつは無理な相談だろう」
岡田は苦笑する。

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