町子と岡田がそんなことを話しているうちに次の舞台の用意が出来たのか、義子の声がマイクを通して部屋の中に響く。
「皆さま、お待たせしました。それではショーの続きをお楽しみ下さい」
扇情的な音楽が鳴り響き、舞台の幕が開く。
和枝もいったん美紀を口説くのをやめ、他の女たちとともに舞台に目を向ける。
中央には板張りの殺風景な部屋が設けられており、そこには京子と美津子姉妹が扮するお京とお美津が素っ裸のまま後ろ手に縛られ、並んで立たされている。姉妹の縄尻は天井に取り付けられた滑車から垂れ下がる鎖にしっかりと繋がれている。
お京とお美津の両側には、葉桜団の銀子と朱美が扮する葉桜屋の遣り手婆であるお銀と朱美が青竹を手にして立っている。
「さ、もたもたしないでとっとと始めるんだよ」
お銀はそう言うと、手に持った青竹でお京の逞しいばかりに張り出した尻をひっぱたく。
ぴしっ、という痛快な音が舞台になり響き、お京は尻を打たれる苦痛と屈辱に顔をしかめる。
「何をしているんだい。お披露目の日はもう明日に迫っているんだよ」
次に朱美が叱咤するように言うと、お美津の形良く丸みを帯びた尻を交ひっぱたく。
「あっ」
たちまちお美津の雪代の肌に赤い条痕が走り、お美津は苦痛の呻き声を上げる。
「ま、待って……」
お美津の悲鳴を耳にしたお京が切羽詰まった声を上げる。
「お美津を、お美津を打つのはやめておくんなさい」
「何だい、偉そうに。あたいたちに命令できる立場かい」
銀子が苛立たしげに青竹を振り上げ、再びお京の尻をぶちのめす。
「ううっ」
したたかに臀部を打たれたお京は思わず悲鳴を上げる。そんなお京を、お銀と朱美はさも愉快げに眺めている。
「妹を痛めつけられるのが嫌なら、言われたとおりさっさと千鳥の芸のお稽古を始めるんだよ」
「さもないと、妹はお披露目の場で十人以上の客に輪姦《まわし》にかけさせるよ」
お銀と朱美に口々にそう決めつけられたお京は悲痛な表情になるが、やがて意を決したようにお美津の方を向く。
「お、お美津……もうどうにもならないわ。お願いだから姉さんと一緒に地獄に落ちてっ」
さすがの気丈なお京も、そう口にした途端たまりかねたように嗚咽を始めるのだ。
「緋桜のお京姐さんが悔し泣きを始めたよ。こりゃ愉快だ」
朱美はさも楽しげにケラケラ笑い出す。
「悔し泣きよりも姉妹揃ってのよがり泣きを早く聞きたいね。いったいいつになったら聞かせてくれるんだい」
お銀はそう言いながら青竹の先でお京の尻をつつく。
「やめてっ」
お京が涙に濡れた目で銀子を睨みつける。
「そんなに見たけりゃ見せてあげるわ」
お京はそう言い放つとお美津の身体にぴったりと身体を寄せ、自らの唇を妹の唇にぶつけるようにする。
「う、ううっ……」
不意打ちのような姉の攻撃に、お美津は一瞬苦しげな呻き声を上げる。しかし、姉の柔らかい唇がお美津の花びらのような唇に甘く擦りつけられ、次に姉の舌先がお美津のその部分をくすぐり出すと、事前に感じていた背徳感は淡雪のように溶け始める。
「ああ、お美津、許して……」
お京はほざくようにそう言うと、チュッ、チュッと音を立ててお美津の唇を吸い上げる。会場に響く姉妹の甘い接吻の音に魅せられた観客たちは、とろんとした瞳を舞台に向けているのだ。
(ああ……ついにこんな大勢の前でこんなことを……)
お京に扮する京子の胸の中に、ついに行き着くところまで来たという思いが込み上げてくる。
遠山静子夫人を救うために田代屋敷に潜入し、救出寸前というところで捕らえられただけでなく、ただ一人のかけがえのない家族である妹まで拉致され、とともに淫虐な拷問にかけられた。
そして愛する山崎に捧げるはずだった処女を、静子夫人誘拐の共犯者である川田に奪われ、続いて森田、吉沢といった男たちに肌を蹂躙された。
次にはおぞましいシスターボーイ、春太郎と夏次郎の共有の妻にさせられ、二人によってありとあらゆる変質的な責めを加えられた。
最後に、かつて京子を輪姦しようとして逆に京子の空手によって散々のされたあげく警察に突き出された不良たち、清次と三郎、そして五郎の三人によっておぞましい浣腸責めにかけられたあげく、妹の美津子とコンビを組まされた――。
美津子扮するお美津と接吻を交わしている京子の脳裡に田代屋敷でのそんな汚辱の日々が蘇り、その目から熱い涙がしたたり落ちる。
今、この舞台で妹と演じさせられているショー、それはまさしく清次たち不良少年の前で組まされた美津子との初めてのショーの再現だった。
ふと気づくと京子は、自らの頬を別の涙が伝い落ちていることに気づく。美津子が京子の嘆きをそのまま受け止めたかのように、ともに涙を流していたのであった。
(ああ、美津子……)
京子は不意に、妹に対してこれまでにないほどの愛しさが込み上げてくるのを感じるのだ。
京子と美津子は幼い頃に両親を失い、ずっと姉妹二人きりで生きてきた。五歳年下の美津子は京子にとって常に庇護すべき存在だった。
勝ち気な京子は美津子に対して愛情を注ぐ一方で、決して弱みを見せないで来た。それは親のない美津子が周囲の社会に引け目を感じないような配慮でもあった。
両親がいないというハンデにもかかわらず美津子が名門の夕霧女子校に入学出来たのは、姉の京子の懸命な努力が実ったからといえる。それもあって美津子の高校合格を京子は本人以上に喜んだものだった。
京子のそんな努力は、姉妹でこの地獄屋敷に囚われてきてからも絶え間なく続いており、京子はたびたび美津子の身を守るために、進んでその身を投げ出してきたのである。
しかしながら屋敷に巣くう悪鬼たちは、そんな京子の自己犠牲の行為を逆手にとって、姉妹をより深い地獄へと叩き落としてきたのだった。
唯一の救いと言えば、恋人の文夫とその姉の小夜子まで誘拐されてしまい一時自暴自棄になり、京子に対してそのやり場のない怒りをぶつけるようになっていた美津子が、京子の恋人である山崎もまた田代たちの手に落ちてからはむしろ安定し、再び京子に対して心を開くようになったことである。
(美津子、分かって。もう私たちにはこの肉の感覚しかないのよ。この悦びにすがって生きていくしか術がないの)
京子はそう心の中でほざくように言うと、その豊かな乳房を美津子の形の良い乳房にぶつけるようにする。姉の乳首と妹の乳首が互いを求めるかのように触れ合い、押しつけ合う。京子は、美津子の乳首がすでに堅くしこっていることに気づき、戸惑いとともに不思議な悦びが身体の裡から込み上げてくるのを感じる。
姉と妹の視線が交錯する。美津子の頬は薄赤く上気し、その黒目がちの瞳は明らかな潤みを見せて京子に向けられている。
(ああ……美津子……お姉さんにこんな風にされて、感じてくれているのね)
京子は再び、たまらない愛しさに突き動かされるように、美津子の唇を激しく吸い上げるのだった。
240.奴隷のお披露目(40)

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