「男たちが羽目を外すのなら、女だって楽しまなければ損だって言っているのよ」
「なら、そう言えばいいじゃない」
「葉子さん、あなたはさっきの美少年には興味がないの」
「もちろんあるわよ」
葉子が頷く。
「でもあたしはどっちかと言えば、もっと大人の男の方が良いわね」
葉子がそう言うと千代が「それじゃあ、例の探偵はどうかしら」と尋ねる。
「探偵って、山崎って男のこと?」
「そうよ。なかなか逞しくて渋い男前よ。山崎は夜の部に出演するから、じっくり品定めすればいいじゃない」
「へえ、そうなの」
葉子は急にそわそわと落ち着かなくなる。
一方、山崎という名を聞いた時造は急に険しい表情になる。
「山崎ならまずは岩崎組に詫びを入れさせるのが先だ」
「もちろん入れさせるわよ。だけど、指を詰めさせるなんて無粋なことはごめんこうむるわ」
千代がそう言い放つと時造は「何だと」と気色ばみ、腰を浮かせかける。
「時造、やめろ」
岩崎が時造をたしなめる。
「確かにそのご婦人が言うとおり、ここで指を詰めさせたりするのは無粋だ。山崎に対してはここの森田組だって恨み骨髄の筈だ。まずは森田のけじめのつけ方を見守ろうじゃねえか」
岩崎にそう諭された時造は不承不承といった感じで引き下がる。
「夜の部に山崎が登場するってことは、そこでさっきの妹とつるみあうんだな。まずはそれを楽しみに待っていようじゃねえか」
そう言うと岩崎は再び舞台に目を向ける。
舞台の上では京子と美津子の絡み合いが、まさにクライマックスを迎えようとしている。双頭の張り型でつながりあった姉と妹が互いに相手を責め立て合いながら、衆人環視の中で倒錯的な快楽の絶頂へと上り詰めていくのだった。
「あ、ああっ、お姉様っ、み、美津子、もう我慢出来ないっ」
姉の激しい腰の律動によって快楽の席を突き破られた美津子は、もはや自分たちが芝居の登場人物を演じていたことも忘れ、絶頂感が迫ってきたことを舌足らずの声で訴えるのだ。
「ま、待って。美津ちゃん。昇るときは一緒に」
京子もまた年下の恋人に呼びかけるように、また切羽詰まった口調で美津子に訴える。そして自らの官能を妹の官能に同調させるべく、懸命に尻を振り立てるのだった。
「あ、ああっ、美津子、いくっ。いくっ」
ついに快楽の頂点に達した美津子は、その瞬間を迎えたことを引きつった声で告げながら、幼さが残る裸身を震わせる。美津子に覆い被さっている京子もまた、ほぼ同時に「ああっ、京子もいくっ」とほざくように言い放つと、空手で鍛えられたグラマラスな肉体を痙攣させる。
美しい姉妹が見事にタイミングを合わせて絶頂を極めたその瞬間を目撃した観客たちは、しばしの間、美姉妹の醸し出す官能の香に酔ったかのような顔をしていたが、やがて我に返ったように手を叩き出す。
文夫の恋人である美津子とその姉の京子が、満座の中で倒錯の肉交を強制されたばかりでなく、我を忘れてその行為に溺れていく様を見せつけられた美紀夫人は、その衝撃に改めて打ちのめされたかのように、呆然とした表情を見せている。
「随分色っぽい姉妹やないか。どや、奥さん。感想は」
岩崎はそんなことを美紀夫人の耳元に囁きかけながら、夫人の豊かな乳房をゆっくりと揉み上げる。やくざの首魁にその身体を嬲られているという恐怖も、目の前で展開される倒錯の狂宴の衝撃には及ばず、美紀夫人はまるで人形のように、岩崎のされるがままになっているのだ。
時造の膝の上に乗せ上げられ、うなじと言わず胸元と言わず身体のあちこちに興奮を注ぎ込まれている絹代夫人もまた、美紀夫人ほどではないにせよ、まさに心身ともに凍り付くようなショックを受けていた。それは、舞台の上の美津子の姿が娘の美沙江のそれと絹代夫人の頭の中ではっきりと重なったからである。
いまだ一九歳の美沙江は、美津子とは一歳しか違わない。その美沙江が実の姉のように慕う珠江夫人と、舞台上の京子と美津子と同様な倒錯的な関係を強いられていると聞かされていたからである。
そんな絹代夫人の心の中を読んだかのように、時造が夫人に囁きかける。
「そういえば夜の部では、奥さんの娘と、例の医学博士夫人が白白ショーを演じるそうじゃねえか」
「白白ショー?」
「聞いたことねえのかい。今みてえに女と女が絡み合う見世物のこった」
そんな時造の恐ろしい言葉を耳にした絹代夫人は、びくりと身体を痙攣させる。それはある程度覚悟していたことではあったが、改めて時造の口から聞かされると、絹代夫人は恐怖で身が竦むのだ。
芝居はいったん幕が下ろされ、義子のナレーションが響く。
「お京とお美津の姉妹が千鳥の芸を見事に演じました頃、仇討ちの旅に出て哀れにも囚われたお小夜と文之助に対する調教も、まさに佳境を迎えておりました」
幕が開かれ、舞台の上には小夜子と文夫演じるお小夜と文之助が立位のまま後ろ手に縛られて並ばされている。
二人の両脇にシスターボーイの春太郎と夏次郎が演じるお春とお夏が介添え役よろしく寄り添っており、その前には森田組の幹部組員である吉沢と井上が演じる雲助、熊造と伝助が胡座をかいて、徳利を抱えて座り込んでいる。
岩崎にぐっと抱き寄せられ、身体を密着させられている美紀夫人は、幕が開いた途端、全裸で緊縛された小夜子と文夫の姿を目にするや否や、慌てて顔を伏せる。
「あら、やっと文之助の登場だわ」
和枝が黄色い声を上げ、思わず身を乗り出す。
「本当にあのお坊ちゃんがお気に入りなのね」
葉子が苦笑するが和枝は「だって、可愛いじゃない」と言いながら、舞台の上の文之助に釘付けになっていたが、やがて「あら」と声を上げる。
「文之助ったら、おチンチンに何かぶら下げられているわ」
「本当?」
葉子もその場でぐっと身を乗り出す。確かに雲助二人の間から見える文之助の股間には、何か白いものがぶら下げられているのがわかる。
「わかった。あれはお銚子だわ」
和枝がそう言って手を打つ。
「そう言えばお小夜の方も同じものをぶら下げているわ」と
「本当だわ。弟の方は分かるけど姉の方はいったいどこにつなげられているのかしら」
和枝は首を傾げると、岩崎の横で顔を伏せている美紀夫人に声をかける。
「ねえねえ、奥様。可愛い娘と息子の登場よ。はっきり見てあげなさいよ」
和枝にそう言われても、美紀夫人は愛する子供たちが淫虐な責めを受けることを目撃する勇気はとうていなく、必死で顔を伏せている。
「あら、態度が悪いわね。あなた、親分たちをおもてなしするためにこの席にいるんでしょう。そんなに白けた態度を取っていると、森田親分に言って後で酷い目にあわせてもらうわよ」
和枝はそう言って凄むと、岩崎が「まあまあ和枝、この奥さんをそんなに脅すのはやめないか」と制止する。
243.奴隷のお披露目(43)

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