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247.奴隷のお披露目(47)

「台本にないことがどんどん起こることがこの手のショーの面白味じゃないか。第一、言えないじゃこの場は収まらないよ」
「そうだよ、お客様が怒って、あんたたち二人をこの場で繋がらせろと言ったらどうするつもりなんだい」
春太郎と夏次郎に口々に急き立てられた小夜子は、根負けしたように口を開く。
「お、お客様……、どうか、お小夜と文之助の近くにお寄り下さいませ」
小夜子はせめて芝居の登場人物に成り切ることにより自らの羞恥心を少しでも緩和させようとしたのか、そんな台詞を吐く。
すでに小夜子と文夫の足元に、まるで蟻が砂糖に群がるように集まっている男女だけではなく、座敷のほとんどの客たちが小夜子の台詞に吸い寄せられるようにどっと詰めかけてくる。
「おいおい、押すな」
「そこ邪魔だぞ」
たちまち舞台の周りはラッシュ時の通勤電車さながらの混雑ぶりとなり、客たちの怒号まで飛び交う。
「お静かに、お静かにお願いします」
その時、小夜子が悲鳴のような声を上げたので、混乱しかけていた客たちは一斉にしんと静まりかえる。
「こ、ここは皆さまの親睦の場なのですから、争いは駄目ですわ。ど、どうか皆さまご一緒に私たち姉弟の恥ずかしい姿を楽しんで」
小夜子はそう言うとさも恥ずかしげに腰部をくねくねとくねらせる。
淫婦と化したような姉の姿に圧倒されていた文夫の尻を、吉沢がピシャリと叩く。
「何をぼんやりしているんだ。てめえもお姉ちゃんみてえに、色っぽくケツを振らねえか」
文夫はあまりの屈辱に唇を噛むが、吉沢とともに文夫の双臀をくつろげている井上から「早くしねえか、小僧」と尻を叩かれ、諦めたように双臀を揺らせ始める。
「姉と弟が揃って尻振りダンス。こりゃ傑作だわ」
葉子と和枝が手を叩いてはしゃぐ。
野卑な女たちによるからかいの言葉を浴びながら双臀を揺らしている文夫の辛さを少しでも緩らげようとするかのように、小夜子が「ねえ、見て、お客様、よく見て……」と甘えたような声を上げながら、大きく尻をくねらせる。
「お小夜のお尻の穴を良く見て……大きさや形、ひ、開き具合はどうでしょうか。よ、よく、観察して下さい……」
「小夜子……」
信じられないような卑猥な言葉を口にしながら、うっとりとした表情で淫らな尻振り踊りを演じる娘の姿を見た美紀夫人は衝撃のあまり思わず声を上げる。
誘拐された娘と息子とこの地獄屋敷で再会してから、小夜子と文夫が淫らな調教を受ける光景を目撃させられたし、かつての使用人であった津村の手で親子三人同時にいたぶられたりもした。
しかしながら今日この舞台の上で、田代屋敷の住人たちにとどまらない数多くの観客たちの前で、ポルノショーを演じさせられている小夜子と文夫を目にした美紀夫人は、微かに残っていた救いへの望みの糸を無残に絶ちきられた思いがするのだ。
それと同時に、小夜子と文夫が地獄に堕とされるのなら自らも進んで同じ地獄へと墜ち、この身を盾にしても愛する子供たちを守らねばと悲壮な決意を固めるのだ。
そんな美紀の思いを見透かしたかのように、千代が囁きかける。
「どう、奥様。可愛い子供たちが舞台の上でお尻の穴まで晒し合っているのを見物する気分は。後学のためにぜひ教えて頂きたいわ」
そんな風にからかう千代に、美紀夫人はすがるような目を向ける。
「お願いです……もう、許してあげて。これ以上あの子たちを辱めるのはやめて下さい」
「そんなことを言われてもショーの演出は兄さんに任せられているから、私の口出しできるところじゃないわ」
「兄さんって……」
「さっき鬼源さんと一緒に、奥様と家元夫人を連れてきた男がいたでしょう。あれが川田といって私の兄よ。奥様は覚えていないかしら。兄はもともと遠山家の運転手をしていたのよ」
「えっ……」
千代にそう言われた美紀夫人は、確かに川田という男を過去何度か目にしたことがあることを思い出す。
小夜子が日本舞踊の稽古に遠山家を訪れた帰りに、遠山家の車に何度か送ってもらったことがある。迎えに出た美紀夫人に愛想良く挨拶をした運転手が確かに千代の言う川田であった。
「やっと思い出したみたいね。ブルジョアの奥様たちにとっては女中や運転手なんていうのは石ころみたいなものだから、目に入ったって見てはいないのと同じでしょうから、無理はないけどね」
千代はそう言って皮肉っぽく笑う。
「要するに私も兄も元は遠山家の奉公人。静子夫人はその奉公人二人に裏切られたって訳なのよ」
「何てこと……」
「まあ、そこの家元夫人にしたって千原家に仕えていた女中二人に裏切られたんだし、村瀬の奥様やお嬢様にしてもかつての村瀬宝石店の社員だった津村さんに地獄に引きずり込まれたようなものだわね。お金持ちってのは自分が知らないうちに色々と恨みを買っているってことよ」
「そ、そんなのは……」
逆恨みではないか、と言いかけた言葉を美紀夫人は飲み込む。
今は小夜子と文夫の苦境を救うのが先である。二人が演じさせられているショーにしても、永遠に続くものではない。昼の部の後には夜の部が控えており、それが終われば岩崎たちに対する奴隷たちの接待が待っている。今の美紀夫人に出来ることは、愛する娘と息子の汚辱の時間を少しでも短くすることだけなのだ。
「お願いです。千代さん、川田さんに頼んで下さい。こ、これ以上続けさせられるとあの子たち、頭がおかしくなってしまいます」
「この屋敷じゃ多少おかしくなった方が住みやすいと思うけど」
千代がそう言うと女たちはどっと笑いこける。
「ご、ご冗談はやめて……お願いです」
「そうねえ。そこまで奥様が頼むのなら」
千代は意味ありげな笑みを浮かべると、大塚順子に向かい「順子さん、ちょっと」と声をかける。
千代が順子の耳元で何事か囁きかけると、順子は「面白そうね。いいんじゃない」と笑う。
そんな二人の様子を不安げに眺めている美紀夫人に、千代が声をかける。
「村瀬の奥様、娘さんと息子さんを本当に助けたいの」
「は、はい……」
「わかったわ。子供を思う母心を無にするのも寝覚めが悪いわ」
千代は頷くと美紀夫人に「それじゃ奥様、舞台に上がってオナニーをして頂戴」と言う。
「えっ」
千代の突拍子もない命令に美紀夫人は目を丸くする。その様子がおかしかったのか、順子や和枝、葉子といった女たちが一斉に笑いこける。
「ショーを見ているうちに興奮して我慢出来なくなったって言って、舞台の上で色っぽくお褌を脱いでオナニーをするのよ。そうすればその間、小夜子さんと文夫さんに対する責めは中断されるわ」

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