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265.晒しもの(2)

「ところで、糸通しって何なの?」
「何でも金属製の編み針のようなものを使って、凧糸を少しずつケツの穴に沈め込む遊びらしい」
「まあ」
 町子はさもおかしそうに笑い出す。
「聞いているだけでお尻の辺りがむずむずしてきたわ」
 町子の言葉に岡田や関口、そして石田といった男たちも噴き出す。
「それで、十分呑み込ませたら尻振り踊りをさせるって訳だ。ケツからはみ出した糸がブンブン振られて、なかなか見応えのある踊りになるそうだ」
「月影荘の雪路や雅子にもやらせてみたいわね。ショーの良い余興になるわ」
 町子はそう言ってグラスのビールを飲み干す。岡田がお代わりを注ごうとすると町子は「ビールはもう良いわ」と言って、ウィスキーグラスを取り出し水割りを作り始める。
「その次の出し物は山崎兄妹の近親相姦処女喪失白黒ショーとなっているな」
「それはさっきのショーでアナウンスされていたけど、久美子って娘は本当に処女なの?」
「それは本当らしい」
 岡田は頷く。
「この田代屋敷に囚われた女たちは人妻と、遠山財閥令嬢の桂子って娘以外はみんな処女だったそうだ。大概はショーの前に散らされたらしいが、美津子って娘だけは実際にショーの舞台で処女を喪失しているらしい」
「相手は恋人の文夫だ。つまり文夫と美津子は互いに処女と童貞を散らしあったって訳だ。その時の一部始終は映画として撮影されて、闇の市場に随分で回っている。うちも随分稼がせてもらったぜ。今度の山崎と久美子の舞台も映画に撮影されるって話だ」
 関口がそう口を挟む。
「それは随分残酷というか、悲惨な話ね」
 町子は溜息を吐くように言う。
「女にとって処女を失うってのは大変なことよ。その上、相手が実の兄で、しかもその一部始終を映画に撮影されて売り物にされるなんて」
「ふん、さすがの町子も仏心を刺激されたか」
 岡田がからかうように言う。
「そういう訳じゃないけど」
 町子は苦笑すると水割りを一口飲む。
「世の中ってのはほんと、綺麗に二つに分かれるなと思っただけよ。つまりは食うか食われるか。熾烈な戦いを演じてきた森田組と山崎探偵事務所だけど、ついに山崎の側が森田組に食われて骨までしゃぶり尽くされることになったってことだわ」
「ま、そういうことだな」
 岡田も頷きグラスの酒を飲み干すと、町子が新しい水割りを作り始める。
「あたしは食われる側にはなりたくないわね」
「食って旨いかどうかが問題だがな」
「まあ、随分ね」
 町子はそう言って岡田を睨むと、水割りのグラスを岡田の方に滑らせる。
「それはそうと、ショーの流れはその糸通しの余興を挟んで白黒、白白、白黒という並びになっているわね。すると次は」
「ご明察。次は京子と小夜子の白白ショー。最初に演じた美津子と文夫の姉同士が、妹や弟に負けじと火花を散らし会うって訳だ」
「なるほどね。でも、それなら美津子と文夫のショーのすぐ後に持ってきた方が良くない?」
「確かにその方が筋が通った出し物になるな。すると山崎と久美子のショーから始まることになる。これは当然初めての出し物だから、初っ鼻に持ってきて失敗することを嫌ったのかな」
 関口がそう言って首を捻る。
「そうならないように仕込んどけばいいし。仮に不首尾になったとしても、その後の出し物で挽回できるわよ」
「お節介かも知れないが提案してみるか。今日のショーの様子は全部撮影されて、うちの組も扱うことになることだし」
 関口はそう言うと「しかし、この町子さんはなかなかの軍師ですな」と岡田の方に笑いかける。
「お褒めにあずかって光栄ですわ」
 町子が苦笑する。
 関口は再びプログラムに目を落とす。
「さて、トリを飾るのが京子と小夜子と黒人二人によるダブル白黒ショー」
「まあ、森田組は黒人の役者まで用意しているの」
 町子は驚いて声を上げる。
「大した資金力ね。うらやましいわ」
「バックが何しろ遠山財閥ですからな」
「どういうこと?」
「例の千代って女が森田組に金を出しているんですよ。その黒人役者も元々は静子夫人の調教のために呼んできたらしいんですが。夫人が妊娠してしまったんで絡ませるわけにはいかなくなったんで」
「そうすると、静子夫人は自分の夫の財産で調教され続けてきたって訳?」
「夫の財産と言うよりは、遠山氏が静子夫人のために残した財産ですから静子夫人自身のものと言っていいでしょうな。そればかりじゃない。静子夫人の種付け費用も千代、つまりは遠山財閥から出てるって話です」
「それは久美子よりももっと悲惨ね」
 町子はそう言うと肩を竦める。
「悲惨って言えば、千代は静子夫人のために黒人役者だけでなく、犬まで用意したらしいですよ」
「犬ですって」
 関口の言葉に町子は驚いて目を丸くする。
「それって、まさか」
「そのまさかでさあ」
 関口は口元を歪めて頷く。
「何でも、香港にそういう芸当が出来るでかい犬がいるそうで、静子夫人と絡ませるために注文したそうなんです」
「その犬はまだこの屋敷にいるの?」
「いや、入荷するまで二、三ヶ月はかかるっことだから、まだでしょう。いずれにしても、静子夫人が腹ボテになったせいで犬の相手は他の女がすることになりそうですな」
 関口はそう言うと、晒し者になっている美紀夫人と絹代夫人の方をちらと見る。
「いずれにしても獣姦ともなるとちょっと悪趣味ね。ついてこれない人も出て来そう」
 町子はそう言って岡田と顔を見合わせ、頷き合うのだった。
 その時、ホームバーの扉が開き、葉桜団の銀子と朱美が入ってくる。銀子と朱美は部屋の中央に立ち縛りにされている美紀夫人と絹代夫人の方をちらと見ると、つかつかと近寄る。
 銀子が美紀夫人の、そして朱美が絹代夫人の頬をいきなりピシャリと平手打ちしたのでその場にいた客のやくざたちは、驚いて目を向ける。
「何ぼおっと立っているのよ」
 銀子は美紀夫人に罵声を浴びせかける。
「せっかくお触り自由って札まで立てているのに、お客様が全然触りに来ていないじゃないの」

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