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285.無残千原流(1)

 岡田がそう言ったとき、進行役を務める義子とマリがマイクを持って舞台に登場する。
「皆さん、えらいお待たせしました。いよいよ森田組専属スターのお披露目ショー、夜の部の開幕です」
 義子がそう告げると、観客からどっと歓声が沸き起こる。
「まず、最初にお送りしましたのは山崎探偵と、その妹の久美子による近親相姦・処女喪失ショーでした。皆さん、いかがでしたでしょうか」
 マリが観客に向かってそう言うと、「良かったぞ」という声が観客席から飛ぶ。
「おおきに、ありがとうございます」
 義子はペコリと頭を下げる。
「ところで、山崎兄妹のショーにつきましては、お二人と関係の深いこの方も、舞台袖で見守っておられましたので、ぜひ、感想を聞いてみましょう」
 マリはそう言うと「遠山静子夫人、どうぞ」と舞台袖に向かって声を上げる。
 観客席から歓声と拍手が湧き起こる。それと同時に、紫色の褌一丁のみを身に着けた静子夫人が、銀子と朱美によって引き立てられてくる。
「静子夫人、ささ、こちらへどうぞ」
 義子が夫人を呼び寄せる。静子夫人は衆人環視の前で肌を晒す恥ずかしさに頬を染めながら、舞台中央へと進み出る。
「さて、静子夫人。先ほどのショーをご覧になった感想を聞かせてくださいな」
 静子夫人は暫しためらっていたが、やがて口を開き「す、素晴らしかったと思いますわ」と答える。
「どの辺が素晴らしかったの、詳しく聞かせてよ」
 銀子がニヤニヤしながら尋ねる。
「ぴったりと息のあったショーは、さすがに血を分けた兄と妹ですわ。特に、久美子さんのお尻の振り方と言ったら、とてもはじめてとは思えませんでしたわ」
「そうかい」
 静子夫人の感想を聞いた銀子は愉しげに唇を歪める。
「それでどうだい、あの二人は良いコンビになると思うかい」
「も、もちろんですわ。とても良いコンビになると思いますわ」
 静子夫人は頷く。
「だ、だって、二人は本当の兄と妹ですもの。お、おチンポと、おマンコの大きさも形も、ぴったりのはずですわ」
 静子夫人がそんな言葉まで口にしたので、観客たちは一瞬呆気にとられたような顔つきをしていたが、やがてわっと沸き立ち、拍手を浴びせるのだった。
 実際、静子夫人にとって、山崎と久美子による悲惨な相姦ショーを舞台袖で見せつけられることは、自らの肉体が責め苛まれるよりも辛い拷問であった。
 そもそもこの田代屋敷で囚われている男女は――自らの不行跡が原因となった桂子を除けば、みな夫人と何らかの縁のあるものばかりだといえる。
 静子夫人を救出に来て捕らえられた野島京子、その妹の美津子。夫人の日本舞踊の弟子である村瀬小夜子、その弟の文夫。夫人の親友である折原珠江、そして夫人と珠江がともに後援している千原流華道の家元、千原美沙江――。
 そして今回新たに誘拐された、夫人のフランス留学時代の親友であるダミヤ、小夜子の母親である美紀、美沙江の母親である絹代、山崎探偵とその妹の久美子――。
 特に、山崎についてはもともと、静子夫人が桂子の誘拐を聞いたとき、相談をした相手であり、夫人が田代屋敷に幽閉されてからもずっとその行方を追っていた人物である。時折、これから一生涯この田代屋敷から出ることは出来ないのかと耐え難いほどの不安と絶望に襲われるとき、いつかは屋敷の外にいる山崎が救出してくれるのではないかという微かな希望が夫人にとっての救いだったのである。
 しかしもはやその望みは失われた。夫人は自らの、そして他の田代屋敷の奴隷達の希望が粉々に打ち砕かれる様を見せつけられたのである。
「それじゃこれから先は、午前の部と同様に静子夫人に進行を手伝ってもらいまっさ」
 義子がそう言うと、観客は再びわっと歓声を上げる。
 静子夫人は覚悟を決めたように舞台袖に顔を向けると、「千原流華道の皆さま、いらして」と声をかける。
 琴の音が部屋の中に流れ、褌姿の三人の裸女が舞台袖から姿を現す。
 なよやかな柳腰に静子夫人と同じ紫の褌を締めているのが絹代、人妻らしいむっちりと肉の実った尻に水色の褌を締めているのが珠江、そして丸く形の良い尻に可愛いピンクの褌を締めているのが美沙江だった。
 三人の、いかにも和装が似合いそうな美女たちの登場に、舞台は一気に華やかさを増す。静子夫人の艶美な裸身からはもちろんだが、いずれも千原流華道ゆかりの三人の美女達の裸体からは、香ばしい脂粉が漂ってくるようだった。
「レスビアンショーを演じるのは珠江と美沙江だったはずよね。どうして絹代まで出て来たのかしら」
 町子が疑問を呈するが、岡田は「さあな、森田組のことだから、何か趣向があるんだろうが」と言って首を捻る。
「しかし、いずれにしても美沙江が19歳、静子夫人が26歳、珠江夫人が31歳、それに絹代夫人が42歳か。奇しくも10代、20代、30代、40代の美女が揃ったって訳だ」
 岡田は手元に配られた、森田組の奴隷達の身上書を記したプログラムに目を落としながら、町子にそう告げる。
「そう言えばそうね」
 町子は改めて、感心したように頷く。
「それじゃ皆さま、一列にお並びになって」
 静子夫人がそう告げると、三人は左から美沙江、珠江、絹代の順に舞台の中央に並ぶ。
「お並びになっては良かったな」
 岡田は町子と顔を見合わせて笑う。
「あんな格好で丁寧な言葉遣いをすると、不思議に淫らに感じるものね」
 町子もそう言って微笑する。
「手を頭の後ろに組んで、足をお開きになって」
 三人の美女は命じられたとおり、手を頭の後ろに組み、足を開く。
「これだけの美女が揃えば、ただああやって並んでいるだけでも十分絵になるわ」
 町子がそう言うと、岡田も「確かにこうやって見ているだけで目の保養だ。なにせどの女もただ美しいってだけじゃない。知性も教養も、社会的地位も抜群だからな」と言って頷く。
「さ、お客様にご挨拶を」
 静子夫人が催促すると、一番左に並んだ美沙江が、
「皆さま、改めましてご挨拶させていただきます。私、千原流華道家元、千原元康の娘で千原美沙江と申します。年齢は19歳。よ、よろしくお見知りおきのほど、お願い申し上げます」
 と挨拶する。
 続いて珠江が「私、千原流華道の後援会長を勤めておりました折原珠江と申します。医学博士であり大学教授でもある折原源一郎の妻でございます。年齢は31歳、よろしくお見知りおきのほど、お願いいたします」と挨拶する。
 最後に絹代が「私は千原流華道家元、千原元康の妻、絹代と申します。ここにおります千原美沙江の母でございます。年齢は42歳になりました。皆さま、よろしくお願い申し上げます」と挨拶する。
 三人の美女たちの奇妙な自己紹介を、氷のような表情で聞いていた静子夫人は、「三人とも千原流華道の関係者ってことね。それがどうして褌一丁の恥ずかしい姿を、こうやって皆様の前に晒すことになったのかしら。教えていただけない」とたずねる。

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