珠江夫人と美沙江は、そんな観客たちのやりとりも耳に入らないのか、同性愛の交わりにすっかり身も心もすっかり浸りきっている。美沙江は珠江夫人の、珠江夫人は美沙江の、女の源泉から、いわゆる蟻の戸渡りから双臀の狭間に秘められた菊蕾に至るまで粘っこく愛撫し続けるのだ。
二人の美女の秘奥からは、むっとするような甘い香りの樹液が流れ落ちる。それとともに珠江夫人と美沙江の喉からは、聞くものを痺れさせるような切ない涕泣が漏れ始めるのだ。
そんな珠江夫人と美沙江に、友子と直江が近づき、しゃがみこむようにしながらそれぞれの顔を覗き込む。
「奥様、お嬢様と愛し合うのがそんなに気持ちが良いの」
友子の問いに、珠江夫人は顔を上げてはっきりと頷く。
「お嬢様はどうなの」
直江が問いかけると、美沙江もまたこくりと頷く。
「二人は本当に愛し合っているのね。お似合いのレズコンビだわ」
直江と友子はそう言って、顔を見合わせて笑い合う。
「ねえ、愛し合っているのならお互いに、それらしい言葉をかけなさいよ。黙っておマンコを舐めあっているだけじゃ能がないわよ」
直江の言葉に珠江夫人と美沙江は同時に頷く。
「お、お嬢様、好きよっ。愛していますわっ」
夫人はそう叫ぶように言うと、裡から込み上げるものをぶつけるように美沙江の秘奥に顔を埋め、舌を丸めて美沙江の肉襞をなめ回す。敏感な女の源泉を、濡れ絹のような珠江夫人の舌で抉られる強烈な快感に「ああっ、おばさまっ」と悲鳴のような声を上げる。
「好きよ、お嬢様っ、ずっと、ずっと好きだったのよっ」
珠江夫人は何かに取り憑かれたように、美沙江を責め続ける。美沙江は激しい快感に華奢な裸身を震わせていたが、やがて、気力を振り絞ったように珠江夫人の豊満な双臀をぐっと掴むようにすると、「おばさまっ、わっ、私もよっ」と叫び、その狭間に顔を埋める。
「ああっ、お、お嬢様っ」
「おば様っ」
声を掛け合いながら、互いの女の源泉を貪り、甘い秘蜜を吸い合う珠江夫人と美沙江。獣に変じたような二人のその姿を目にした絹代夫人は、あまりの恐ろしさに思わず目を逸らすのだった。
絹代夫人に特に衝撃を与えたのは、珠江夫人の「ずっと好きだった」という言葉だった。女同士の淫らな絡み合いは悪鬼たちに強制されたものであったとしても、あの言葉は珠江夫人の自然な本心の発露としか思えない。そして、美沙江もまた確かに、「自分もそうだった」と答えたのだ。
病弱な夫、元康の看病に忙殺されてきた絹代は、千原流華道の表向きの仕事と、多数の弟子に対する指導は、娘の美沙江と珠江夫人に任せてきた。そんな絹代の依頼に珠江夫人は応え、未だ年若の美沙江を支えながら、それら二つのことを見事にこなしてきたのである。
千原流の実質的な代表として珠江夫人と美沙江が、数々の難題に取り組む姿は時に仲の良い姉妹のようであり、また母と娘のようであると絹代夫人は感じてきた。
それが今、互いに同性愛の感情を吐露しあっている。まさかこれまで二人の間にそんな倒錯した関係があったとは思えないが、心の底には、そんなレズビアンめいた感情があったのかと、絹代夫人は愕然としているのだ。
さらに夫人を恐怖させたのは、そんな珠江夫人と美沙江の姿に、自分が嫉妬めいた感情を抱いていることであった。珠江夫人に対するのみならまだしも、娘の美沙江に対してそんな変質的な感情を抱くなど、自分でも信じられないことだった。
しかし、この田代屋敷では同性であるとか、親友であるとか、また肉親であるとかいった正常な人間関係はいともたやすく踏みにじられ、情愛と肉欲の関係に無理矢理変質させられるのだ。
静子夫人は自分を救出に来た京子や、踊りの弟子である小夜子ばかりでなく、義理の娘である桂子とも同性愛の契りを結ばされている。そして静子と情を交わした京子は、さらに実の妹である美津子と、変質的な関係を持たされているのだ。
(自分もいつか珠江さまや、美沙江と……)
この田代屋敷にいる限りは、絹代もいつそんなおぞましい関係を持たされるか分からないのだ。身体に悪寒が走るのを知覚した絹代は、ぶるっと裸身を震わせる。
(いや、こうやって自分を、珠江と美沙江が絡み合う舞台の上に晒しているのはどういうことなのか)
悪鬼たちはそんなおぞましい計画を、今にも実行に移そうとしているのではないか。そう思い至った絹代夫人は、こみ上げる恐怖にガタガタと震え始めるのだ。
そんな絹代夫人をよそに、すっかり忘我の境地に浸っている美沙江に、珠江夫人が声をかける。
「お嬢様、こ、今度は珠江の上になって」
「は、はい、おば様」
美沙江は珠江夫人に言われるまま、夫人と身体の位置を変える。今度は美沙江の丸い、形の良い尻が珠江夫人の顔の上に乗っかる。
「次ぎに、身体の向きを変えて……」
「ど、どうするの……」
「いいから……珠江の言うとおりになさって」
美沙江は珠江夫人に言われるまま、身体の向きを変え、珠江夫人の顔の上に乗せ上げた尻を観客席の方に向ける。すると、珠江が両手を美沙江の尻たぶにかけて、白桃を割るようにぐっと割り開く。
「あっ」
美沙江は思わす、身体を捩らせるが、珠江夫人がすかさず「駄目よ、お嬢様」と言って、美沙江の尻をぴしゃりと叩く。
「お嬢様の身体の奥の奥まで、お客の皆さまにしっかりとお見せするのよ」
「そ、そんな……」
「いいから珠江の言うとおりにして」
珠江夫人はそう言うと、美沙江の花唇に指をかけ、大きく開花させる。
「ああ……は、恥ずかしいっ」
美沙江は軽く身体を悶えさせるが、もはや珠江の行為には逆らわなくなっている。
「み、皆さま、よくご覧になって。こ、これが千原流華道家元令嬢、千原美沙江のおマンコですわ」
良家の令夫人がそんな卑猥な台詞を吐いたのに、観客のやくざたちは一瞬度肝を抜かれたような顔つきになるが、やがてわっと声を上げて笑い出す。
「まだ花も恥じらう十九歳……それに、ご、ごく最近まで処女でしたから、形も崩れていないし、色も綺麗でしょう。い、いかがですか」
珠江夫人が続けてそんな台詞で観客を誘う。やくざ男たちは我がちに舞台下に詰めかけ、すっかり開花された美沙江の秘園を覗き込むのだった。
「確かに綺麗なピンク色だ」
「襞の形も崩れてねえぜ」
やくざたちは美沙江のその部分を批評しながら笑い合うのだ。
「お嬢さん、こ、こうなったら皆さんに、お尻の穴も見て頂きましょう。いいわね」
珠江夫人にそう声をかけられた美沙江は、さすがに衝撃に顔を強ばらせる。夫人はそんな美沙江に構わず、家元令嬢の双臀を思い切り割り開くのだ。
「ああっ」
あまりの羞恥に悲鳴を上げる美沙江。珠江夫人は懸命に冷静を装いながら、男たちに向かって口を開く。
「皆さま、ご覧頂けましたでしょうか。こ、これが千原流家元令嬢の、き、菊の花ですわ」
289.無残千原流(5)

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