297.姉妹と姉弟(2)

 舞台の上で、下半身裸の文夫と美津子の前に、それぞれの姉――小夜子と京子が素っ裸で跪き、唇と舌を使って執拗な愛撫を加えている。そんな倒錯的な近親プレイに観客はすっかり目を奪われているのだ。
「ああ……文夫さん、た、逞しくなったのね。こんな立派なもので愛してもらえる美津子さんは幸せね」
 小夜子は血を分けた弟に対してそんな言葉をかけながら、その肉塊の先端に濃厚な接吻を注ぎ込む。
「ああっ、ね、姉さんっ」
 文夫もまた、血を分けた姉によって口唇の愛撫を受ける倒錯の性感に悩乱し、ひきつった悲鳴を上げる。
(ああ……こんなことをさせられるなんて……)
 小夜子は文夫と姉弟でポルノスターのコンビを組み、舞台に立つことを宣告されて以来、姉と弟で肉の交わりを持つことだけは泣いて拒絶してきたのだが、悪鬼たちは最後の一線を越えないことを逆に盾にとって、それ以外のあらゆる変質的なプレイを強制されてきたのだ。
 中でもとりわけおぞましい記憶は、文夫が恋人の姉である京子とコンビの調教を受ける際に、母親の美紀とともに文夫を責め上げたことだ。調教者である葉桜団の女たちの目の前で文夫の性感を高めるため美紀が文夫の肛門を、小夜子が文夫の陰茎を舌先で愛撫したこと――その行為を今、衆人環視の前で再現させられているのだ。
 実の弟を口唇で愛撫するなんて、とても正常な理性を保ったままでは耐えられない――小夜子は今、極力己の心を無にして、その行為に没頭しようとしている。
(弟のものだと思うから抵抗があるんだわ――恋人のもの、そう、春男さんのものだと思うのよ)
 小夜子は必死で頭の中に、婚約者である内村春雄のことを思い浮かべようとする。内村病院の内科部長で、将来を嘱望された若手医師。村瀬宝石店の社長令嬢である小夜子にとって十分釣り合いの取れるエリートであった。
 しかしながら今、小夜子が春雄の顔を思い出そうとしても、なぜかそれは濃い霧に覆われたようにはっきりとしないのだ。
(どうしたのかしら――春雄さんの顔が思い出せない)
 小夜子は困惑しながら文夫のそれを愛撫し続ける。文夫の肉棒は姉の唇と舌による巧みな愛撫で極限まで膨脹し、先走りの液までしたたらせ始めている。小夜子は弟の生々しい感触を腔内一杯に感じる。
(ああ……大きいわ)
 そんな言葉が頭の中に浮かんだ小夜子は、はっと我に返る。
(大きいなんて……私、一体誰と比べているの)
 小夜子はこの田代屋敷に拉致され、津村義雄によって処女を奪われてから幾人もの男たちに抱かれてきた。田代、森田、そしてショーの相手である黒人のジョニーとブラウン――。人間離れした巨根を持つ黒人二人を別にすると、今、小夜子の口の中で健気なまでに自らを膨らませている文夫のそれは、他の男たちのものに比べて決して引けを取らないのである。
 いや、小夜子の舌に包まれて若い精気をみなぎらせている文夫の肉塊の感触は、他の男たちのそれに比べて、小夜子にとって遙かに好ましいものだった。
(これが、これから美津子さんのものを――)
 羨ましい、という言葉が頭の中に閃き、小夜子ははっと我に返る。
(何を考えているの。私たちは実の姉弟なのよ)
 小夜子は無意識の沼の表面に浮かび上がった泡沫のようなその感情を必死で否定しようとするが、自分の中のもう一人の自分が、妖しく囁きかける。
(どうせいつかは、姉弟で関係を持たされるのよ。それならいっそ進んで受け入れなさい)
(そんな……そんなことは絶対に駄目だわ。許されることじゃないわ)
(他の男に抱かれるよりはずっといいじゃない。あんな醜悪な黒人とずっとコンビを組むつもりなの)
(……)
(それとも、静子お姉さまとコンビを組んでいた、捨太郎を相手にしたいの?)
(嫌っ。それは絶対に嫌よっ)
(それなら文夫さんしかいないわ)
(……)
(あなただって本当はそう思っている筈よ。弟に抱かれるのも悪くないって)
(わっ、私はそんな淫らな女じゃないわ)
(それなら、文夫さんが美津子さんを抱いても、平静でいられるの)
(当たり前じゃない。あの二人は恋人同士よ)
(それなら、京子さんとならどうかしら)
(……!)
(文夫さんが京子さんとプレイを強制されたとき、京子さんに『姉さんっ』って呼びかけたことがあったわね。あの時、あなたは動揺したでしょう)
(それは……)
(美津子さんはともかく、京子さんを抱くくらいなら、自分を抱いて欲しい……あなたはそう思っているはずよ)
(そんなことをしたら……ママが悲しむわ。絶対に……絶対に駄目よ)
(あなたが嫌がったら、そのママが文夫さんと関係を持たされるわよ)
(まさか……)
(そんなことはないって言えるの? ここの連中は実の親子とか、姉妹といった関係を歯牙にもかけない。いえ、むしろそれを逆用してくるわよ)
(それは……そうかも)
(奴らに文夫さんと関係を持つように命令されたら、進んで従いなさい)
(そんな……)
(それがママを守る道なのよ。ママがそんな目にあわされたら、ショックで気が狂うかも知れないわ。あなたはそれでもいいの)
(それは……絶対に嫌だわ)
(そうでしょう、それならあなたが盾になるしかないのよ)
(盾に?)
(進んで身を投げ出して、ママを守るための盾になるのよ。それしか道はないわ)
 そんなことばが頭の中に谺したとき、小夜子の耳に静子夫人の声が聞こえる。
「やめなさい」
 小夜子はハッとして愛撫を止める。文夫の肉棒は、小夜子の愛撫によって充血を示しているが、いまだ半屹ちというところである。
「まだ十分じゃないわね。相手がお姉さんだとやっぱり遠慮があるのかしら」
 静子夫人は文夫の肉塊を見て首を捻る。小夜子は自分の未熟さを指摘されたような思いに顔を伏せる。
「美津子さんの方はどうかしら」
 静子夫人は美津子に近寄ると、その秘奥に手を伸ばす。
「美津子さんは十分のようね。やっぱり、コンビとしてのキャリアの差かしら」
 静子夫人はそう言って微笑すると、京子に向かって「京子さん、文夫さんを愛撫してあげて」と声をかける。
「えっ」
 京子はハッとした表情になる。
「何を驚いているの。もうあなたたちは男と女の間柄でしょう」
「で、でも……」
 京子はおずおずと美津子の方を見上げる。
「早くしないと身体の熱が冷めちゃうわ。さあ」
 静子夫人に促された京子は「分かりました」と返事をして、腰を上げる。

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