「小夜子さんは美津子さんの身体が渇かないように、優しくマッサージしてあげて」
「ハイ」
小夜子は頷くと腰を上げる。
京子と小夜子の位置が入れ替わり、京子は小夜子の代わりに文夫の前に跪く。小夜子は美津子の斜め後ろに立ち、そっとその肩に手をかける。
「さあ、京子さん、恋人のものだと思って愛してあげるのよ」
静子夫人の命令に、京子は「ハイ」と頷くと、文夫を見上げる。
「文夫さん」
潤んだ瞳で見つめられた文夫は、どきりと胸が高鳴るのを感じる。
これまで文夫は、京子と美津子は姉妹ではあるが、顔はそれほど似てはいないと思っていた。実際いかにも美少女といった叙情的な顔立ちの美津子に比べて、京子の顔は彫りが深い、エキゾチックな面立ちである。
しかしながら長い睫毛に縁取られた黒目がちな瞳は姉妹に共通したものであり、文夫はまるで美津子に呼びかけられたような錯覚に陥るのだ。
「愛しているわ、文夫さん」
京子は囁くようにそう告げると、その紅唇をそっと文夫の先端に押し付ける。
それだけで文夫の身体には、電流が流れるような快感が走る。文夫の肉棒がまるで生き物のようにピクリと跳ねるのを唇に感じた京子もまた、背筋がぞくりとするような背徳的な快感を知覚するのだ。
「ああ、好きよ、文夫さん」
京子は喘ぐようにそう言いながら舌を伸ばし、文夫の亀頭を舐める。京子の舌先が触れる度に文夫の仰角は増し、やがては下腹部に触れんばかりの雄渾さを示していく。
「好きよ、好きなのよ、ああ、文夫さん」
文夫の興奮が高まってきたのを見てとった京子は、文夫が暴発しないように、かつ熱を冷まさないように肉棒から口を離すと、文夫の下腹部や内腿に接吻の雨を降らせ始める。そして、偶然のように文夫の屹立に頬ずりしたり、肉柱の根元辺りに舌先をそっと触れさせるのだ。
「ああ……」
文夫はそんな京子の熱のこもった愛撫を楽しむかのように、うっとりとした表情になっている。
小夜子は美津子のみずみずしい乳房をやわやわと揉み立てながら、京子と文夫の息のあったプレイに複雑そうな視線を向けている。
(文夫さんったら、私の時にはあんな声は出さなかったのに……)
そんな思いがふと浮かんだ小夜子は、自分の考えを否定するように激しく首を振る。
(私ったら、何を考えているの。文夫は私の弟なのよ)
実の弟と無理矢理ポルノショーのコンビを組まされた小夜子だったが、今のところは二人で演じるショーは姉弟並んでの珍芸披露にとどまっている。しかしながら、このままいくとそれはより過激な出し物――いきつくところは姉と弟による近親相姦ショーになるのは目に見えている。
(もしそうなったら、お母様はどれほどのショックを受けることか――ひょっとしたら悲しみのあまり気が狂ってしまうかも知れないわ)
だから、この屋敷の悪鬼たちが文夫と自分とのコンビを解消させ、京子と本格的なコンビを組ませるつもりなら、その方が良いではないか。そう小夜子は自分自身に言い聞かせるのだ。
「さ、小夜子お姉様……痛いわ」
美津子の声に小夜子は我に返る。文夫のことに気が取られていた小夜子は、思わず美津子の乳房を揉む力が強くなっていたのだ。
「ご、ごめんなさい」
小夜子は慌てて手の力を緩めると、美津子のうなじや胸元に優しく口吻を注ぎ込み、再び美津子の乳房を揉み始める。
「文夫さん、とても気持ちの良いことをしてあげるわ」
京子は文夫の背後に回ると、その双臀をぐっと割り開き、露わになった文夫の菊花に唇を押しつける。
「ああっ、ねっ、姉さんっ」
陰密な部分に京子の舌先を感じた文夫は、狼狽したような悲鳴を上げる。
(姉さん?)
小夜子はふと自分が呼ばれたような気がして、びくりとする。
「文夫さんったら、ここのところが感じるのね。ふふ、エッチな男の子ね」
京子は口元に微妙な笑みを浮かべ、そんな台詞まで吐きながら文夫を愛撫し続ける。
「あっ、あっ、姉さん、そ、そんなにされたら」
小夜子は文夫が京子に責められながら、少女のように悶えているのを茫然と眺めているのだ。
「……小夜子お姉様」
再び美津子に呼びかけられた小夜子は、はっと我に返る。
「ご、ごめんなさい。美津子さん。また痛くしてしまったかしら」
「ううん、そうじゃないの」
美津子は首を振ると、小夜子に囁きかける。
「小夜子お姉様は、姉さんに嫉妬しているのね」
「嫉妬ですって」
思わず声が大きくなった小夜子を美津子は「駄目、声が大きいわ」とたしなめる。
「もっと顔を近づけて、小夜子お姉様。他の人に聞こえないように」
そう囁く美津子に引き込まれるように、小夜子は顔を近づける。すると美津子はいきなり小夜子の唇に自分の唇を押し当てる。
「うっ」
目を白黒させる小夜子の舌に、美津子は自らの舌を絡めさせて吸い上げる。美津子と小夜子の濃厚なレズビアンプレイに、観客はどっと沸き立つ。ひとしきり小夜子の舌を吸った美津子は、小夜子の目をじっと見詰める。
「こうやって近くでみると、小夜子お姉様って、文夫さんととてもよく似ているわ。やっぱり姉弟なのね」
「そ、そうかしら」
確かに子供の頃は、小夜子と文夫の姉弟の顔立ちはそっくりと言われたことがある。成長するに従って性の差が顔立ちに現れてきたためか、それほど似ていると言われることはなくなったが。
「納得したつもりでも、姉さんと文夫さんがコンビを組むのは見るのはとても辛いわ。どうして私じゃなくて姉さんなんだろうと思ってしまうもの」
美津子はそう言うと、再び小夜子の目を見詰める。
「小夜子お姉様、お願いがあるの」
「な、何かしら」
「今日のショーが終われば、私と文夫さんはまた離ればなれにさせられてしまうわ。そうなったらお姉様が文夫さんを守って欲しいの」
「守るって、どうやって?」
小夜子は、美津子の心裡がはかりかねて戸惑う。
「小夜子お姉様が文夫さんとコンビを組んで欲しいの」
「美津子さん、私はもう弟とコンビを組まされているわ」
「違うの。私が言いたいのは、男と女のコンビ……」
「えっ」
「小夜子お姉様と文夫さんがコンビを組んでくれた方が、私にとっては気持ちは楽なの。だって、文夫さんと小夜子お姉様なら、男と女という感じがしないもの。そっくりの二人が一つになるだけだって思えるわ」
いったい美津子は何を言っているのか、小夜子は戸惑いながらも胸の動悸が激しくなってくるのを感じるのだ。
298.姉妹と姉弟(3)

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