「えっ」
文夫が驚いて声を上げる。
「勘違いしないで。さっき申し上げたとおり、静子は今妊娠中だから、安定期に入るまでは文夫さんとセックスすることは出来ないわ」
静子夫人はそう言うと、文夫の頬にチュッと音を立ててキスをする。
「静子と同じ名器を持った女性がこの田代屋敷にいるのよ。誰だか分かる?」
「わ、分かりません」
「あなたが今までセックスした相手は美津子さん、桂子さん、それと京子さんだったわね」
「はい」
「残念だけどその中にはいないわ。そうすると……」
静子夫人はちらと、文夫の後始末を続けている小夜子の方を見る。文夫ははっとした表情になり、顔を背ける。
「小夜子さん、京子さん、それくらいでいいわ。次のショーの準備に取りかかって頂戴」 静子夫人が謎めいた微笑を浮かべながらそう声をかけると、小夜子と京子は「ハイ」と返事をして立ち上がる。
文夫と美津子の実演ショーが終了した舞台の上では、それぞれの姉である京子と小夜子のレズビアン――いわゆる白白ショーが開始される。
森田組のレズビアンショーは、男役と女役に別れて、男役が予め男根に見立てた張り型を腰に取り付けて演じることが多い。しかしながらそれでは男役が女役を一方的に責めるだけの単調なショーになりがちなため、京子と小夜子のショーは両首と呼ばれる淫具を用いて、互いが互いを責め合うこととなっていた。
もう一つの趣向は、ショーの主役である京子と小夜子が初めから素っ裸ではなく、いったん衣装を着けてから舞台に登場したことである。
京子と小夜子は改めて念入りに化粧を施され、京子は黒にピンストライプのスーツ姿、また小夜子は赤いチャイナドレスを身にまとって舞台に現れる。まるで映画の一シーンのような二人の艶美な姿に、観客席から喚声が上がる。
「あの京子って娘、まるで宝塚の男役みたいに素敵だわ」
「小夜子の方だって娘役のトップスターってところだわ」
レズビアンにはあまり興味がないと愚痴っていた和枝と葉子までが賛嘆の言葉を口にする。
確かに上背があり、空手で鍛えられた引き締まった身体にエキゾチックな美貌の京子には男装が似合い、また、ミス宝石に選ばれた小夜子の美貌もまた、舞台の上で輝くようであった。そんな二人が演じるショーは、昼の部で演じられた京子対美津子、また夜の部で演じられた珠江対美沙江のそれを上回るものではないかと、観客の期待は高まるばかりであった。
「皆さま、大変長らくお待たせいたしました。いよいよ森田組が誇る二大スターによる白白ショーの開幕でございます」
ブラス主体の派手な音楽とともに進行役の静子夫人のアナウンスが会場に響く。静子夫人もまた全裸ではなく、ストリッパーが付けるようなバタフライと、豊かな乳房がほとんど丸出しになるほどの小さなブラジャーを身に着けているが、あまりにもその扇情的な衣装はむしろ全裸のままの方が恥ずかしくはないほどである。
「まずご紹介いたしますのは、先ほど白黒ショーを演じさせて頂きました野島美津子の姉、野島京子でございます。バスト90センチ、ヒップ92センチ。空手で鍛えたグラマラスな肉体美は森田組のスターの中でも随一でございます」
音楽はラテン調のものに変わり、リズムに合わせて京子が軽く腰を振りながら舞台前方に進み出ると軽くターンし、微笑を浮かべながら舞台右手から左手へと歩いて行く。
「次ぎにご紹介いたしますのは、実演ショーで野島美津子の相手を務めました村瀬文夫の姉、村瀬小夜子でございます。バスト87センチ、ヒップ88センチ、森田組のスターの中でも一際輝くミス宝石の美貌をとくとご覧ください」
観客たちの喝采を浴びながら小夜子が舞台前方に進み出る。そして京子と同様にターンし、妖しい笑みを湛えながら舞台左手から右手へと歩いていき、中央に戻ると京子と背中合わせに並ぶ。
音楽がムードたっぷりのスローテンポなものに変わり、京子と小夜子は向かい合わせになると互いにじっと見つめ合い、しっかりと抱き合うと接吻を交わす。二人の対照的な美女のキスは次第に激しさを増していき、互いが互いの舌を吸い、唇をむさぼるような濃厚なものに変じていく。
音楽が不穏な調子のものに変わり、舞台の脇からチンピラが二名(竹田と堀川)が登場すると、京子と小夜子に近づき、二人を引き離さそうとする。京子は小夜子との接吻を中断すると、小夜子を背後に守りながらチンピラたちに向き合う。
アップテンポの曲とともにアクションシーンが展開される。京子は襲いかかる二人のチンピラを、華麗な空手技で瞬く間に倒してしまう。
京子と小夜子が安堵の笑みを浮かべ合ったときに、舞台脇から捨太朗演じる大男と、吉沢が演じる黒服の男の二人連れが現れる。獣のようなうなり声を上げながら突進してくる大男に京子は空手で対抗するが、身体が頑丈なのか、それともそもそも痛みに対して鈍いのか、大男は京子の打撃を全く意に介さないといった風で、京子を羽交い締めにする。
起き上がったチンピラの一人が起き上がり、京子のスーツを引き千切るように剥がしていく。京子は抵抗しようとするが、もう一人のチンピラが小夜子を羽交い締めにし、黒服の男が小夜子にピストルを突きつけて脅す。すると京子は口惜しげに歯を食いしばりながら男たちのされるがままになっていくのだ。
チンピラは観客に見せつけるように、京子の服を一枚一枚脱がしていく。ジャケット、シャツ、ネクタイ、パンツと脱がされ、京子はついに淡いブルーのパンティ一枚のみを許された裸になる。
チンピラが京子の腕を後ろ縛りにしていく。次いで小夜子がチャイナドレスを脱がされ、やはり白のレースのパンティのみの裸にさせられる。
ともに半裸で後ろ手縛りにされた京子と小夜子は、チンピラ二人に舞台中央に引き立てられ、改めて向かい合わせにされる。
二人のチンピラが京子と小夜子の尻をパシッと平手打ちする。すると二人の美女はためらいながらもゆっくりと唇と唇を押し付けていく。
おずおずと唇を触れさせ合っている京子と小夜子に苛立ったように、チンピラたちが再び二人の尻に平手打ちを見舞う。京子と小夜子は次第に大胆に身体を触れさせ合いながら、再び濃厚な接吻を演じ始めるのだ。
「ああ、きょ、京子さんっ」
「小夜子さんっ」
京子と小夜子はこのショーで初めて声を上げる。そして狂おしく相手の裸身に裸身をぶつけるようにすると、互いの耳の付け根や胸元、うなじへと接吻の雨を降らせる。
二人のチンピラは黒い皮鞭を取り出すと、京子と小夜子の背中、尻、そして太腿へと打ち付ける。それほど強い力ではないため蚯蚓腫れになるほどではないが、白い肌は赤く染まり、派手な音がするため迫力は満点である。
鞭が肌にぶつかるたびに二人の裸身はブルッ、ブルッと震え、ぴったりと重なり合ったまま妖しくくねりあう。
「ああ……小夜子さん……」
「京子さん……」
二人のチンピラが京子と小夜子の足元にしゃがみ込み、パンティに手をかけ、ゆっくりと脱がしていく。すると二人の美女はそれに抵抗するそぶりも見せず、むしろなよなよと腰をくねらせながらチンピラ達の作業に協調していく。
パンティが完全に引き下ろされ、素っ裸になった京子と小夜子は、同時に「ああ……」と溜息のような声を上げ、ふっくらとした恥丘を押し付けあうのだった。
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