舞台の上では京子と小夜子が、いわゆる「両首」と呼ばれる淫具によって結ばた身体を妖しくくねらせ合っている。
「ああっ、い、いいっ、小夜子っ」
「すっ、素敵よっ、お姉様っ」
二人の美女はすでに快楽の頂点近くを彷徨いながら、互いを呼び合う。
京子と小夜子の関係では京子の方が年上であり、レズの役割分担としても京子がタチ、小夜子がネコである。従って二人は情感が高まり合うと、京子は小夜子を呼び捨てにし、小夜子は京子のことを、かつて静子夫人をそう呼んだように「お姉様」と呼ぶことになる。
「ああっ、お姉様っ、小夜子の舌を吸って」
小夜子がほざくように言うと、京子の唇に自らの唇をぶつける。京子はそんな小夜子の勢いに一瞬たじろぐが、すぐに小夜子の唇を受け止めると、濡れ絹のような舌を吸い上げる。
やや小麦色を帯びた肉体の京子と、雪白の小夜子の裸身が重なり合う。互いの柔らかい乳房は潰れるほどに押し付けられ、京子の引き締まったヒップと、小夜子の白桃のようなヒップが両首によって連結されたままうねり合う。いずれ劣らぬ二人の美女が演じる妖艶な同性愛プレイ――それは観客の男たちにとってはまさに壮観であり、この上もない絶景であった。
しかし、大塚順子によって淫らないたぶりを受けながら、愛娘のそんな淫虐な姿態を見せつけられている美紀夫人にとっては、我が身を切り裂かれるように辛い光景であった。
深窓に生まれ育ち、世間の邪悪なもの、醜いものとは隔絶された世界で暮らしてきた美紀夫人にとって、この田代屋敷での日々は、あたかも地獄巡りの連続であった。もともとは小夜子と文夫を救おうとして、絹代夫人や久美子とともにこの屋敷に潜入した美紀夫人だったが、ミイラ取りがミイラになるという諺の通り、森田組の手に捕らえられてからは、娘や息子と同じ淫獄へと落とされることになったのだ。
(いや、自分がこの屋敷に来たことによって、小夜子と文夫の苦しみはいっそう増している)
小夜子と文夫は、不特定多数の人間の前で演じるのでさえ辛い倒錯の演技を、実の母親の前で行わなければならない。その苦しみは格別のものだろう。自分は母親として、子供達の役に立たなかったばかりか、彼らの苦難をいっそう高める存在でしかないのだ。
(いっそ自分が命を絶てば……)
小夜子と文夫の苦しみは軽くなり、この暗闇の地獄に一条の光を差すきっかけになるだろうか。美紀夫人は順子のいたぶりによって悩乱する意識の中でそんなことを考えるのだ。
(人一人が命を落とすような事態になれば、さすがの悪鬼たちも怯み、自らの行いを省みるのではないか)
(何よりも、自分自身が今の生き地獄から解放される)
美紀夫人はそんな悲愴ともいうべき心裡状態に陥る。しかし、舞台の上で京子と小夜子の演技に水のような穏やかな視線を送っている静子夫人の姿を目にし、はっとする。
(……もし、そんなことが可能なら、誰よりも先に静子夫人がとっくに命を絶っているのではないか)
(どうしてそれをしなかったのか)
静子夫人と美紀夫人の視線がふと交錯し、静子夫人は微かな微笑みを口元に浮かべながらゆっくりと首を振る。まるで自分の心を読んだような静子夫人の仕草に、美紀夫人ははっとする。
(人質……)
美紀夫人は、静子夫人のそんな声が頭に響いたような感覚に陥る。
(そう、私たちは互いに人質を取られている。静子夫人は義娘の桂子、京子は妹の美津子、珠江夫人は千原流家元令嬢の美沙江。
(そして私や小夜子は文夫……)
一人が命を絶てば、その人間と縁の繋がるものを身代わりに立てる。それを回避するためには、自分が悪鬼たちの言いなりになるしかない。田代屋敷に拉致されている奴隷達は、そんな見えない縄にがんじがらめに縛られているのだ。
突然、身体中に電流のような快感が走り、美紀夫人は優美な裸身をブルッと震わせる。順子が夫人を抱きかかえたまま股間に手を伸ばし、敏感な花芯をいたぶり始めたのだ。
「なかなか良い反応ね、奥様。まだここの快感もあまり開発されていないみたいね」
「あ、あっ、お、おやめになって」
美紀夫人は身体を捩らせて順子から逃れようとする。
「なかなか、おやめになるわけにはいかないわ」
順子は淫靡な笑みを浮かべながらそう言うと、和枝と葉子に「ちょっと、この奥様が暴れないように、お御足を押さえておいてくださらない」と声をかける。
「お安いご用よ」
和枝と葉子は笑いながら、美紀夫人の両脚をぐっと開かせたまま押さえつける。
「ああっ、い、嫌っ、やめてっ」
無防備になった股間を責め立てられる美紀夫人は思わず悲鳴を上げるが、順子に方頬をパシンと平手打ちされる。
「往生際が悪いよっ、娘の方があんなに素直になっているっていうのに、いい加減に見苦しく騒ぐのはおよしっ」
順子にそう決めつけられた美紀夫人の身体から力が抜ける。舞台の上で満座の観客の視線を浴びながら、京子を相手に汚辱の演技を繰り広げている小夜子と、客席でいたぶられている自分とでは苦しみの程度が違う。美紀夫人は娘の辛さを思い、汚辱をぐっと噛み殺す。
「ああっ、お、お姉様っ、さ、小夜子、い、いきそうっ」
舞台の上で京子と激しく腰を振り合っていた小夜子が急に身体の動きを止め、切羽詰まった悲鳴を上げる。
「ああっ、ま、待ってっ。一人でいっちゃ駄目っ。京子も、京子も一緒よっ」
小夜子がもう快楽の頂点に近づいていることを知った京子は焦った声を上げる。
「小夜子さん、一人でいっちゃ駄目。京子さんと一緒にいくのよ」
静子夫人が小夜子に声をかける。
「だ、だって、小夜子、もう我慢出来ないっ」
小夜子がそんな言葉を発したので、観客はどっと笑い声を上げる。
「聞いた、奥様。自分の娘の淫らな言葉」
「もう我慢出来ない、ですって。いいところのお嬢様がはしたないったらありゃしない」
和枝と葉子はそう言って口々に美紀夫人をからかうが、夫人はそれに対して反撥する気力もなく、上気した顔を左右に振りながら「はあ、はあ」と喘いでいるばかりなのだ。
「お母様の方もゴールイン間近なのよ」
順子がそう言ってニヤリと笑うと、和枝と葉子は「まあ」と言ってわざとらしく目を丸くする。
「どうせなら母娘仲良く、同時にいかせてあげるわ」
順子はそう言うと夫人に対する愛撫の手を強める。
「小夜子、お願いっ、小夜子のクリトリスを京子のクリトリスに押し当つけてっ」
今度は京子が露骨な言葉を発したので、観客は再び笑い声を上げるが、小夜子も京子もそれを辛く思う余裕はない。同時に上り詰めることだけを考えしか今は頭にない二人の美女は、互いの飛丘をぐっと押し付け合い、激しく腰をくねらせるのだ。
屹立した小夜子の花芯が京子の花芯にこすりつけられる。頭が痺れるような鋭い快感についに京子の絶頂に達する。
「あっ、ああっ、さ、小夜子っ、私も、もうっ」
「お姉様っ、小夜子もっ」
二人の美女は互いの名を呼び合うと、その絶頂の瞬間を同期させる。
「小夜子っ、いきますっ」
「きょ、京子も、いくっ」
その瞬間をはっきりと告げ合った京子と小夜子は、再び激しい接吻を交わし合う。
「さっ、小夜子っ」
それと同時に観客席の美紀夫人が娘の名を呼びながら、豊満な裸身を震わせて自失するのだった。
304.姉妹と姉弟(9)

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