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312 桂子の告白(2)

「せっかくなんで何か余興でもやらせてみましょうか。卵割りなんかどうですか」
 銀子が男たちに尋ねると、岡田は「いや」と首を振る。
「ショーは十分堪能させてもらったよ。それよりも、このお嬢さんと少し話をしてみたいな」
 岡田の言葉に銀子と朱美は顔を見合わせる。
「心配しなくても余計なことは聞かないよ。うちにも同じような女奴隷がいるんでね。参考にしたいんだ」
「まあ、そういうことなら構いませんが」
 銀子は頷くと「それじゃ、あたしたちはしばらく席を外しますね」と言って立ち上がる。
「桂子、聞かれたことは何でも素直に答えるんだよ」
 銀子は桂子を見下ろすようにしながら、意味ありげに告げる。
「はい、お姉さま」
 桂子が素直に返事をすると、銀子と朱美は満足げに頷き、ホームバーから出ていく。
 男たちの中に裸同然の姿で一人取り残された桂子だったが、特に怖がったり、動揺するわけでもなく、ぼんやりと正面に視線を向けている。
「さて、お嬢さん。せっかくの機会だから、聞きたいことがあるんだが」
 岡田が口火を切る。
「何でしょうか」
「お嬢さんは遠山財閥の令嬢だって聞いたが、本当かい」
「自分の身の上のことはあまり話さないように言われているんですが……」
 桂子はそう言って少し躊躇いを見せる。
「でも、今日のお客様はみなさん信用できる方ばかりと聞いていますので申し上げます。おっしゃるとおり、私の父は遠山隆義です」
「この屋敷にくるまでは何をしていたんだい」
「一応都内の女子大に籍を置いていたんですが、ほとんど通っていませんでした。さっき銀子さんと朱美さんがお話ししたとおり、粋がって不良少女の真似事をしていました」
「葉桜団の首領だったっていうけど、それがどうしてこんなことになっちゃったんだい」
 関口が興味津々といった顔つきで尋ねる。
「それは……」
 桂子は再び躊躇いを見せるが、やがて口を開く。
「私が悪かったんです。私、銀子さんの妹の、マリさんの恋人と関係を持ったんです」
「そりゃまずかったな」
 関口は顔をしかめる。
「ああいったズベ公たちの中じゃ、仲間の男を寝取るのは御法度だ」
「そのとおりです」
 桂子は神妙に頷く。
「私たちの中でも、それは決まり事でした。でも、普段仲間からちやほやされていた私は、自分だけは他の女の子たちとは違う。何をやっても許されるんだと勘違いしていたんです」
「それじゃ、お嬢さんは今、自分がこんな目に合っているのも仕方がないと思っているのかい」
 再び岡田が尋ねる。
「仕方がないって言いますか……自業自得かなと思っています。ただ、父の具合が随分良くないみたいで、会いに行けないのはつらいです。私、ずっと父に心配ばかりかけていましたから。このまま死に目にもあえないと思うと……」
 桂子はそう言うと、さめざめと泣き始める。岡田はハンカチを取り出し手渡すと、桂子はそれで涙を拭き「すみません」と詫びの言葉を吐く。
「聞きにくいことをもう一つ聞くけど……」
 岡田が躊躇いながらそう言うと、桂子はわざと口元に笑みを浮かべ「何でも遠慮なく聞いてください」と答える。
「この屋敷にいる、他の女奴隷についてはどう思うんだい」
「どう、と言いますと」
 桂子は怪訝な表情で尋ねる。
「その……いわば元々はお嬢さんのことがきっかけで誘拐されてきたんだろう」
「ああ……」
 桂子はようやく理解して頷き、顔を伏せる。
「それはもちろん、申し訳なく思っています。けど……」
「けど、なんだい」
「こんな風に言うと狡い女みたいなんですが……いえ、実際に狡い女ですけど」
 桂子は再び顔を上げる。
「そのことはあまり考えないようにしているんです。そうしないと私、他の人と顔を合わせる度に謝らなければならなくなるし」
「そりゃそうだな」
 関口はそう言って笑う。
「それに、私自身がそうだからそう思うのかも知れませんが、他の女の人たちも、この屋敷の生活をそんなに嫌がっていないみたいに思うんです」
「そうなのかい?」
 関口は驚いて目を見開く。
「そりゃ意外だな。どうしてそう思うんだい」
「だって……本人がそう言っていましたから」
「本人って、誰のことだい」
「ママです」
 岡田と関口は顔を見合わせる。
「ママって……静子夫人のことかい」
「そうです」
 桂子は頷く。
「私とママは一時その……レズビアンプレイの調教を受けていたんですが、その間は調教が終わっても二人で一つの檻に戻されていたんです。私はずっと血のつながらないママに反発していて……そのことが私がぐれる原因にもなったんですが……この屋敷にくるまでママはほとんど話したことはありませんでした」
「でも、二人で狭い檻に閉じこめられて、他にすることもなくて、そこで初めてママとゆっくりお話をしたんです。その時ママははっきり私に言いました。自分はマゾヒストかもしれないて」
「マゾヒスト? 静子夫人が本当にそう言ったのかい?」
「はい、自分には恥ずかしいことや酷いことをされて悦ぶ血が流れているみたいだって」
「マゾヒストねえ」
 関口と石田は顔を見合わせる。
「それはお嬢さんが罪悪感を持たないように、静子夫人がわざとそう言ったんじゃないのかい」
「もちろん私もそう思いました。だから私は言ったんです。私のために自分がおかしな人間みたいに言うのはやめてって。そうしたら……」
「どうしたんだい」
「ママは突然私の方にお尻を向けて……叩いてって」
「お尻を?」
「そうです」
 桂子は何かを思い出すような表情になる。

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