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9.淫らな企み

「あ……黒田さん」
黒田の脂ぎった顔がしのぶの顔に近づいてくる。
「舌を吸わせてえな、しのぶちゃん」
「だ、駄目よ……私には夫が……」
まるで昔の昼メロみたいな台詞だ――しのぶは黒田が近づける唇をなよなよと避けながらそう思った。
「そんなこといいながら、ケツの穴は気持ち良さそうに沢木さんに吸わせとるやないか。おお、こりゃあ柔らかいおっぱいや」
「そ、そんな……ああ……」
沢木がしのぶの双臀に埋めた顔を上げ、黒田とニヤリと笑い合うと互いにリズムを合わせたようにしのぶへの攻撃を再開する。しのぶの身体にビリビリッと電流のような刺激が走る。
「あんなロリコン亭主のことなんかほっといて、わいらとこってりと楽しみあおうやないか」
「ああっ」
しのぶは抵抗しようとするが、不思議なことに身体が動かない。しのぶは小さな悲鳴を上げると、ベッドの上に起き上がった。
薄暗い寝室の、隣のベッドでは夫の達彦が静かな寝息を立てている。ベッドサイドの時計は午前4時を示していた。
(夢……)
ここのところ毎日のように淫らな夢を見る。その中で、夫とは経験したことのないような卑猥な行為を交わしている相手は、最初のころは顔がぼんやりとして顔がわからなかったのだが、最近はそれははっきりと黒田だったり、沢木だったりするのだ。
しかし、今夜のように2人と同時にベッドを共にしていたなどという夢はさすがに初めてだった
(ひどい汗だわ……)
パジャマの薄い生地が汗で背中にはりついている。まるで風邪をひいて微熱でもあるかのように、身体が熱く火照っている。
しのぶはベッドから抜け出すとクロゼットから着替えのパジャマと下着を取り出し、バスルームに向かった。脱衣所の明かりを灯し、汗に濡れたパジャマを脱ぎ捨てたしのぶは大きな鏡の前に立つ。
鏡に映った自らの裸身をしのぶは改めて見つめる。
ふっくらとした乳房はさほど垂れ下がっておらず、十分な弾力を保っている。腹部は適度な脂肪をのせて艶やかな輝きを見せており、丸い臍がくっきりと可愛いアクセントを示している。
沢木が称賛する尻回りは少し大きめだが、十分な弾力を保ち、またその圧倒的な肉感はムンムンするような色気を発散している。
そして股間に密生する黒々とした陰毛は、しのぶのどちらかというと幼ささえ感じさせる容貌とは裏腹に、貪欲な印象さえ与えている。
「まだまだ、十分魅力的だわ……」
しのぶは何気なくつぶやく。達彦と結婚以来ずっと専業主婦として家庭に入っていたため意識しなかったのだが、「かおり」でのしのぶに対する男たちの視線、特に黒田と沢木のそれは、しのぶに対して改めて自分が女であることを感じさせるものだった。
(それにしても私ったら、なんて淫らな夢を……香織さんが言ったように、私は本当は淫乱な女だったのかしら……)
浴室に入ったしのぶは熱いシャワーを裸身に浴びせる。まるで夢の中の沢木の舌や、黒田の掌の感触を洗い落とすように、念入りに泡立てた石鹸で身体を洗って行く。
「あ……」
シャボンをたっぷりのせたしのぶの指が、股間の繊毛に触れる。石鹸とは違うぬるりとしたものが熱く火照った肉裂から流れ出し、しのぶはとまどう。
(こんなに……)
拭っても拭っても後からあふれ出るような淫蜜の量。しのぶはいつしか細い指を身体の奥にくぐらせ、その源泉をたどるように淫靡な動きを始めるのだった。
夜の加藤家にシャワーの音がいつまでも響いていた。

「随分鮮明に取れているのね」
開店にはかなり時間がある「かおり」の店内、大型の液晶スクリーンで浴室内でのしのぶの「オナニーショー」を鑑賞し終わった香織は感心するようにいった。
「そりゃうちで使っている防犯カメラよりはるかに高い特注もんや。画像の鮮明さは保証付きやで」
黒田は自慢するように鼻を鳴らした。
「こういったものは、フィルムを回収する必要はないんですか?」
「そや、これはデジタルやから、フィルムはいらん。仕組みはようわからんが、中に小型のPHSが入っとって、一定の量のデータが溜まるとうちのコンピュータに送信して、古いデータはどんどん勝手に消していくらしい」
「ふーん。よくわからないけど便利なものね」
昼間からビールを飲んでいる男たちをよそに、香織はいつものように珈琲を飲みながらいった。
「しかし、しのぶ夫人のオナニーショー、なかなか可愛らしかったやないか。そろそろ生でじっくり見てみたいな」
黒田はグラスの中のビールをぐいと飲み干すと、咳き込むようにいった。
「そういえば、今回はいつになくじっくり攻めているね、ママ。何か理由でもあるの」
「ふふ……」
沢木の問いに香織は含み笑いで答える。
勤務中のしのぶのカバンから家の鍵を抜き取り、黒田の店で合鍵を作らせ、さらに出入りの業者に金を握らせて加藤家の浴室に小型のデジタルビデオカメラを仕掛けるという念の入れよう。
しのぶ一人を落とし、3人の慰みものにするだけなら何もここまでの手間は不要である。
「あの家族、なんとなく癪に障るのよ」
香織がぽつりと呟くように言うと、沢木と黒田は怪訝そうに首をかしげる。
「優しい夫と美しい妻、かわいい子供たち、いかにも幸福な家庭といった感じだけれど、きっとその裏にはどろどろとしたものが隠されているはずだわ」
香織は残りの珈琲をぐいと飲み干す。
「私はそんなどろどろの部分を暴き出して、あの家族の前につきつけてやりたいの」
沢木と黒田は、香織の奇妙なまでの執着に顔を見合わせる。
「例の計画は明日の夜決行するわよ、準備しておいてね、黒田さん、沢木さん」
「おお、いよいよかいな」
黒田は香織の言葉に目を輝かせる。
「しのぶの旦那が出張するらしいのよ」
「そんなことまで香織ママに話すようになったのかい」
「信頼されているもの」
香織はフフッと含み笑いをする。
「奥さんの方は大丈夫ですか、黒田さん」
「なに、アリバイならなんとでもなるわい」
黒田は空になった自分のグラスにビールを注ぐと、沢木にも酌をする。
「沢木はん、乾杯や」
「まだ早いですよ」
沢木は苦笑しながらも黒田とグラスを合わせる。香織はそれを微かな笑みをたたえて眺めているのだ。

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