第22話 屈服(3)

「変態……」
香織はしのぶの耳元でぽつりと囁く。
「な、何を……」
しのぶは表情をこわばらせて香織を見つめる。
「おつに澄ましているけど、あなたの正体はマゾの淫乱症よ」
「そんな……違います」
しのぶは激しく首を振って否定する。
「夫以外の男性……黒田さんに抱かれながら、ヒイヒイよがり声をあげていたのはいったい誰なの?」
「そ、それは……」
「浣腸されながらあそこで思い切り責め具を食い締めて、派手に気をやったのは誰なの?」
「ああ……」
「沢木さんのモノを咥えながらウンチを盛大に垂れ流し、失神したのを忘れたっていうの?」
「い、いわないでっ!……お願いっ」
もう取り返しのつかないことをしてしまった、いや、取り返しのつかない姿を見せてしまった。淫らで、虐められることを悦ぶ変態女──それが私の正体だというのか。しのぶをどことなく甘さを伴った敗北感が支配していく。
香織は指先でしのぶの肉襞を一枚一枚数えるような繊細な愛撫を施す。しのぶの肉壷からあふれ出した大量の淫蜜は内腿を伝って流れ落ちていく。
「あらあら、このはしたない流しようはどういうことなの。まったく、見ているほうが恥ずかしくなるわよ」
「うっ……ううっ……」
香織の言葉のいたぶりに、しのぶはもはや反論する気力もなく、気弱にすすり泣くだけだった。
「どう、認めるわね。自分がマゾの淫乱症だということを」
「み、認めますわ……ああ……」
香織がしのぶの秘園を愛撫しながら問い詰めると、しのぶはまるで催眠術にかかったように小さく頷く。
「ようやく素直になったようね」
香織は喉の奥でくっ、くっと楽しげに笑う。
「それじゃ、剃ってあげるわ。傷なんかつけないように優しく剃ってあげるから、心配しないでもいいわよ」
「ハイ……」
しのぶは陶然とした表情で再びこっくりと頷いた。

悪夢のような淫虐の一夜が明け、昼近くになってようやくしのぶは解放された。
香織の車で自宅に送られ、2人の男に腕を抱えられるように家の中に連れ込まれたしのぶは、一人になってからもしばらくの間魂を抜かれたようになり、何も手がつかなかった。
(ああ……)
リビングのソファに腰を降ろしたしのぶの脳裡に昨夜の記憶が蘇り、両手で顔を覆うとシクシクと泣き出す。
香織に脅迫されて切羽詰まって口にした服従の言葉には、奴隷としての奉仕の期間は2カ月とあった。
もともと香織の店で働くのは3カ月間の約束であり、それは現在までで1カ月経過している。いずれにしてもあと2カ月で香織たちとは縁が切れると考えることもできたが、その内容は当初とは一変している。
自分はこれからいったいどうなるのだろう。
昨夜のように沢木と黒田を交えて連日のように嬲られるのだろうか。香織は恐怖のあまり身体をぶるっと痙攣させる。
そしてしのぶを一層不安に陥れているのは、夫の達彦とのセックスを禁じられ、その担保として香織によって剃毛されたことである。
すでに達彦との夫婦としての営みが絶えて1カ月になる。下半身がまるで幼女のような趣きに変貌させられたしのぶは、達彦の前で裸身を晒すことなどできない。かといってこれから2カ月の間、達彦の求めを拒み続けることができるのだろうか。
(ああ、どうしたらいいの……)
悪魔のような男女から解放されているようだが、しのぶはまるで見えない鎖にしっかりと縛り付けられているようだった。懊悩にさいなまれるしのぶの脳裏に、再び昨夜の記憶が生々しく蘇る。
黒田の剛直に何度も貫かれ、沢木に浣腸されながら前門を責め立てられ、そして何よりも素っ裸で奴隷の姿勢を取りながら服従の言葉を口にしたその時、自分の身体は何か、妖しい快感を知覚しなかったか。
(……違う、そ、そんなことはないわっ)
しのぶは頭に浮かんだそんな思いを振り払うように目を閉じ、激しく首を振る。
ふと目を開けたしのぶの前には、いつもと変わらぬ自宅の風景が広がっていた。
しのぶが帰ってこなかったため朝食は香奈と健一が自分たちで用意し、食べて行ったのだろう。出張に出た達彦の戻りは今夜だから、昨夜も2人は子供だけで食事をとったことになる。
父親の達彦に対しては甘えん坊の姿を見せる反面、12歳という年齢の割りにはしっかりしたところもある香奈はきちんと後片付けもし、テーブルの上には母親のために作ったサラダをラップをかけて冷蔵庫に入れてあるというメモまで置いてあった。
それを見たしのぶの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
(ああ、香奈……)
しのぶには、見慣れた室内の眺めが薄暗く、妙に色あせて見えた。その中で香奈の手書きのメモだけが微かな輝きを保っているような気がした。

その日の夕方「かおり」への出勤時刻が迫って来ても、しのぶは支度も出来ないでいた。行かなければ昨夜しのぶがカメラやビデオで撮られたとんでもない痴態が家族のもとに送られる。香織がしのぶに告げた時の表情は微かな狂気を帯びており、それは決して単なる脅しや冗談とも思えない節があった。
その時、静かな部屋に突然電話のベルがなった。しのぶは座っていたソファから飛び上がるほど驚いた。
「はい、加藤です……」
受話器の向こうから香織の低い声が響いてくる。
「今日はちゃんと来るのよ。休むとどうなるかはわかっているわね」
「は、はい……」
答えるしのぶの語尾が思わず震える。
「どうしたの、頼りないわね」
「い、いえ……必ず参りますわ」
「そうそう、今日はパンツルックは駄目。ミニスカートで来るのよ。そして、その下にパンティははいて来ないこと」
「え、えっ?」
香織の突飛な命令にしのぶは目を丸くする。
「ど、どうしてそんなことを……」
「あら、昨日の誓いをもう忘れたの。ご主人様の命令にはどんなことでも悦んで従うんじゃなかったの」
香織は冷たく言い放つ。
「それと昨夜、じゃなくてあれはもう今朝だったかしら。奇麗に剃ったところを丁寧に剃り直して来るのよ。赤ちゃんみたいにツルツルになるまでね。これをあなたの出勤前の日課にするわ」
「ああ……そんな」
「どうなの、やるの、やらないの?」

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