道夫は考えを巡らせるが、もちろん見当もつかない。意識はすぐに目の前で息づいているようなしのぶの秘所に引き戻される。
「お客様も、よくご覧になれました?」
しのぶは悪戯っぽい笑みを受かべると股間に指を伸ばし、陰裂の上端あたりをゆっくりとさすり上げる。香織に飲まされた媚薬が身体全体に回ったのか、しのぶはそんな淫らな行為にすっかり没入しているのだ。
「いかが……小川さん」
食い入るようにしのぶの行為を見つめている道夫に、香織が声をかける。
「小川さんったら」
「え?」
道夫が慌てて声の方を見ると、いつの間にか香織が隣に座り込んでいた。
「もう……男の人はしょうがないわね。こういうのが目の前にあると、耳まで遠くなっちゃうのかしら」
香織は苦笑しながら緑色の液体と氷の入ったグラスを道夫に手渡す。
「はい、これはお店からのサービスよ」
「ど、どうも……」
道夫はグラスを受け取ると、動揺を隠すように中身を一気に口に含む。
かなり甘みのある、アルコール度数の強い液体が道夫の舌を刺激する。
「少し甘かったかしら?」
「い、いや……美味しいよ。ありがとう」
道夫は残りを飲み干すと、空のグラスを香織に返す。
「どう、驚いたかしら」
「あ、ああ……かなりね」
「そうよね」
香織は小さくクスクス笑う。
「ああ見えても普段は普通の奥様なのよ。ただ、少しばかりお金に困っていて……ほら、住宅ローンや子供の教育費がかかるのはわかるでしょ? このニュータウンの住人なら特に」
道夫は反射的に頷いたが、裕子に見せられた写真の印象では、かなりの美貌であるものの、おとなしそうなごく普通の主婦が、ただ金のためにこのような過激なまでに破廉恥な行為を演じることが出来るものだろうか。
しかも、場所がいつ知り合いが来店するかもしれない駅前のスナックである。実際、しのぶに気づいた人間も現れているのだ。その危険をいったいどう認識しているのだろうか。
「小川さんの奥様はお綺麗な方なんでしょう?」
「えっ」
道夫は驚いて香織の顔を見る。
「どうして……」
「あら、本当にお綺麗な方なのね。どうもご馳走様」
裕子は確かに昔、モデルのバイトをしていたほど端麗な容姿の持ち主だが、このママが知る訳がない。カマをかけられてからかわれたのだと気づくのは随分時間がたってからだ。
(いかん……だいぶ酔っているようだ……これくらいの酒で……)
「あの彩香ちゃんも人妻なのよ。旦那さんとしてはどんな気分でしょうね、自分の奥様が見ず知らずの男たちに大事なところをさらけ出しているなんてことを知ったら……」
香織にそう耳元で囁かれて道夫は急に鼓動が早くなり、体温が高くなったような錯覚に陥る。
「あなただったらどんな気分かしら、お綺麗な奥様があんな風に破廉恥な格好を他の男達にさらけ出したとしたら……」
「な、何を馬鹿な……」
「あら、ちょっと興奮しない?」
香織の声はまるで悪魔の囁きのように、道夫の心の深層にまで届いていくようである。道夫は次第に目の前で起こっていることが、現か夢か定かでなくなってくるような不思議な感覚に襲われる。
(変だ……頭がぼうっとする)
目の前のしのぶはすっかり我を忘れて、素っ裸で大股開きというあられもない姿のまま自慰行為に没頭している。朦朧とした道夫の眼に映る、陶酔しきったしのぶのその顔が、突然裕子のそれに変貌した。
「裕子……」
道夫は思わず口走る。
裕子はちらと道夫の方に目を向けたかと思うと、道夫には決して見せたことのない、性感に痺れ切ったような表情を浮かべ「ああっ」と切羽詰まった声を上げる。
「ああ、もう……イキそう……」
道夫の逸物は充血し、ズボンの生地をはっきりと持ち上げている。血走った目は頂上近くで彷徨っているしのぶの裸身に釘付けになり、ハアハアと息は荒くなっている。
異常に気付いた脇坂たちは道夫にギョッとした目を向けるが、香織が唇に指を当てて頷くと心得たふうに前を向く。
香織がビールとカクテルに仕込んだ抗精神剤と媚薬が完全に回り、道夫はすっかり正気を失いつつあったのである。
「ほら、あんなに奥様が興奮なさっているわ。みんなに裸を見られるのが余程お好きなのね、小椋さんの奥様は……」
香織の囁きがまるで催眠術のように道夫の頭の中に響いていく。香織はすでに道夫のことを偽名である「小川」ではなく「小椋」と呼んでいるが道夫はそれにすら気づく余裕はなかった。
「ああっ、いらしてっ。あなたっ」
「さあ、小椋さん。奥様を抱くのよ、男らしく猛りたったもので、淫らな奥様をお仕置きして上げなさい」
「よし……」
道夫はそう声に出すと、ステージの上のしのぶの喘ぎ声に誘われ、道夫はせかせかと上着をとり、ズボンを脱ぐ。足をもつらせながらステージに上がった道夫に、しのぶが待ち兼ねたように抱きつく。
「ああっ、あなたっ」
「裕子っ」
しのぶがもどかしげに道夫のトランクスを引き下ろすと、豊満な尻を乗せ上げて行く。その様子を黒田と沢木が、デジタルビデオとカメラで冷静に記録していく。
「こんなところで生板ショーまで見られるとはね」
しのぶと道夫の痴態を眺める脇坂が半ば呆れたような声を出す。
限界まで膨張した道夫の肉棒がしのぶの花園を貫いた瞬間、道夫の上着の内ポケットがブルブルと震えた。
香織がポケットから携帯電話を取り出す。液晶には「裕子」という文字が表示されている。着信履歴がいくつかあるところを見ると、連絡のない夫に小椋裕子は相当苛立っているらしい。
香織はニヤリと笑って通話ボタンを押す。
(……もしもし、あなた? そっちはいったいどうなっているの?)
香織は通話口をわざとステージの方に向ける。しのぶと道夫は我を忘れて獣のような咆哮をあげ、互いの身体を貪りあっている。
(あ、あなた?)
異常に気づいた裕子の声が一変する。
(ど、どうしたの? 何が起こっているの?)
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