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第42話 悪夢(2)

(あなたたち家族もこれで私達の奴隷よ。あの家族と同じようにね)
はっとして裕子は目を上げる。裕子たち小椋家3人の女の前には、加藤しのぶとその娘の香奈、そして里佳子と同学年の健一までがおぞましい触手に全裸の肉体を搦め捕られ、妖しく身悶えしていた。
(しのぶさんっ!)
悲痛な声を上げる裕子の視線に、しのぶの視線が絡み合う。しかし、しのぶの瞳は光を失い、裕子を見てもまるで変化が見られない。
(あなたっ、道夫さんっ、助けてっ)
裕子は恐怖に駆られ、思わず夫の名を呼ぶ。
(あらあら、ご主人に助けを求めても無理よ)
香織がケラケラとけたたましい笑い声を上げる。
(ご覧なさい)
香織が指差す先、夫の道夫がやはり素っ裸で緑色の触手に絡め取られている。隣にやはり触手にまとわりつかれた裸の顔の見えない男がいるが、これはしのぶの夫の達彦だろうか──。
(あ、あなたっ)
裕子が驚いたのはそれだけではない。なんと道夫と達彦のペニスの先端がやはり気味の悪い触手と化して、貴美子、里佳子、そして香奈の大きく開かれた股間へスルスルと伸びていくのだ。
香織、黒田、沢木、そして脇坂の狂ったような笑い声が響き渡る。
「ひいっ!」
裕子は心の底から恐怖を感じて絶叫した。

アラームの電子音とともに裕子は目覚めた。
夜間はかなり涼しくなってきているのにかかわらず、裕子は全身にびっしょり汗をかいている。
時計のデジタル表示は、午前4時を示していた。10時間近くも、途中一度も目を覚まさずに眠っていたことになる。
裕子は身体を半分起こし、隣のベッドを見る。そこに眠っているはずの道夫の姿はなかった。
たちまち脳裏に、昨夜の道夫としのぶの痴態が蘇り、裕子はたまらなく不快な気分に襲われる。
もちろん道夫にせよしのぶにせよ、何か香織たちに仕組まれてああいった行為を犯したたことは想像出来る。しかしながら妻である自分の目の前で素っ裸のままつながり合い、甘い言葉を交わしながらともに絶頂を極めた道夫としのぶの姿を思い出すと、香織の胸の中は怒りと困惑、そして嫉妬で焼け付くようになる。
(あの人、いったいどこへいったのだろう)
裕子は不安に塞がれそうな胸を抑えつつ、パジャマを脱いでさっと熱いシャワーを浴びる。汗を流した裕子はいつも通り控えめな化粧を施し、高級ではあるが落ち着いたパンツスーツを身につける。今日は午後から大学の講義があるため、場合によっては「かおり」から直行しなければならないかもしれない。
昨夜以来の異常事態に翻弄されながら、そんな風にある意味冷静に今日のスケジュールを考えている自分に気づき、裕子は奇妙な気分になる。人は異常な事象に直面すると、日常に逃げ場を求めようとするのかも知れない。
まだ娘達2人は眠っているだろうか。自分たちが帰宅したことにも気づかずに眠りこけている母のことをどう思っただろうか。そんなことを考えながら裕子は娘達に気づかれぬよう音を立てずに玄関の扉を開け、外へ出た。
黒っぽい車がいきなり門扉の陰から滑り出てきたので、裕子は心臓が止まるほど驚いた。
「このままじゃあ遅刻ですよ、小椋夫人」
車の窓が空き、サラリーマン風だがどこか崩れた印象の男が顔を出す。
「あ、あなたは……」
しのぶはそれが、昨夜香織たちとともに自分をいたぶり、その後車で送った男であることに気づく。
「まだ名前を覚えてくれちゃあいませんかね。まあ、それも無理もない。今回はずっと黒子でいましたからね」
男はニヤリと笑うと後部ドアを開け、「乗りなさい」と裕子を促す。
ためらっている裕子は、車の中にしのぶの姿があるのを見て再び驚く。
裕子は沢木にせきたてられて車に乗り込むが、しのぶは消え入るような声で「おはようございます」というなり、裕子の視線を避けるように下を向く。
「僕は沢木といいます。香織ママや黒田さん――昨日奥さんのデカパイを揉み上げていた、中年太りの男です――たちと同様、加藤夫人とは最近親密なお付き合いをさせていただいているんですよ」
沢木は車を発進させると、軽薄な口調でしゃべり出す。
「ゆうべはよく眠れたようですね。睡眠不足は美容の敵だから気をつけないとね」
「そのパンツスーツ、品は良いですがちょっと地味ですね。奥さんくらいの年齢になるともう少し派手なものの方が良い」
そんなことを話し掛ける沢木を、バックミラー越しに裕子は睨みつける。
「そんな風に怒った顔をしたところも色っぽいですね。あの時の顔の落差がなんともいえないね」
沢木はそう言うとヘラヘラと笑い出す。
一瞬頭に血が上り、かっとして口を開きかける裕子を沢木が遮る。
「奥さん、なかなか良いアヌスをしていますね」
「えっ」
裕子の表情が口を開きかけたまま凍りつく。
「形もまったく崩れていないし、色素の沈着も少ない。調教しがいのあるお尻の穴ですよ。いずれそこにいるしのぶ夫人のように、アナルセックスが出来る身体にしてあげますから、楽しみにしていてください」
なんということを言うのか。裕子は怒りのあまり我を忘れそうになるが、ふと隣に座っているしのぶが、気弱げに頬を染めて俯いていることに気づく。
(……どうして……こんな侮辱をされて黙っているの)
裕子は女をまるで人間扱いしないような沢木の言い方に憤慨しながらも、しのぶがそれに対して抗いもせずを受け入れているのを見て、慄然とする。
「しかし、僕の指でお尻の穴をほじられながら、ヒイヒイ良い声を上げて泣いていた奥さんを思い出すと、朝っぱらからナニがやたら元気になってたまりませんよ」
「い、いい加減にしてくださいっ」
「おや、また怒りましたね。いや、やっぱり怒った顔も最高だなあ」
この男には何を言ってもダメだ。そう思った裕子は石になったように口をつぐむ。それから「かおり」に到着する短い間、沢木はとめどもなく卑猥な言葉を吐きつづけたが、裕子は怒りで頭が沸騰しそうになるのを必死でこらえながら、汚辱に耐えるのだった。

「着きましたよ」
「かおり」が入居している駅前の複合ビル、その1階にあるコンビニの駐車スペースに沢木の車が停まり、裕子としのぶはおずおずと降り立つ。
間もなく日の出の時間なのか、東の空がほのかに明るくなっている。
「やっとご到着か。待ちかねたよ」
コンビニの中から4、5人の男たちが出てきたのを見て、裕子は息を呑む。
それは一昨日の夜、裕子を犯した脇坂とその仲間、そして沢木や香織とともに昨日の朝裕子を徹底的に責め上げた黒田だった。

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