第54話 美少女陥落(2)

「え?」
里佳子の胸の鼓動がいきなり高まる。美樹はうろたえた里佳子をなぜか楽しげに見ながらすっと立ち上がると、クロゼットの引き出しからやや大きめの白い封筒を取り出す。
「これをご覧なさい」
差し出された封筒を空けると、中に10枚ほどの写真が入っている。里佳子はそれを見た瞬間、いきなり後頭部を殴られたような衝撃を受けた。
「これは……」
里佳子の眼に飛び込んできたのは、母親の裕子と、その友人で里佳子と同学年の加藤健一の母親であるしのぶの姿だった。
里佳子も良く知っている東公園の前の道路を、虚ろな表情で数人の男たちに取り囲まれて走っている母としのぶ。その姿はなんときわどいビキニパンティ一枚なのだ。
2人の美熟女は男たちの視線を奪い合うようにその豊かな乳房を揺らし、丸出しのヒップを振り立てて走っている。そんなとんでもないジョギング姿の写真が数枚続いた後、さらに里佳子を驚かせる光景が現れた。
公園の中央で素っ裸のまま仁王立ちになった母としのぶが片手に持ったピンク色のカプセルのようなものを股間に当て、空いた手で豊満な乳房を揉み上げているのだ。
(オナニーをしている……)
あの知的で美しい母が、何人もの男たちの目の前で考えられないような淫らな姿を晒すとは――。里佳子は手にした写真に焼き付けられた母の姿が信じられない。
「今朝、この部屋の窓から撮影したものよ」
そんな里佳子の心の中を読んだように美樹が声をかける。
「私も昨日の朝初めて見た時は信じられなかったわ。PTA会長である小椋さんのお母様がこんなことをするなんて。でも、今朝同じような、いえ、もっと淫らなことをなさっているのを見て、これが夢じゃなくて現実におきていることだとわかったの」
里佳子はあまりのショックに呆然と写真を見つめていたが、はっと顔を上げる。
「この写真は……」
「もちろん、誰にも見せていないわ」
美樹は里佳子を安心させるように頷きかける。
「でも……昨日より今朝の方がギャラリーは増えているみたい。このまま行けば、あっと言う間に噂が広まるわ。それに……」
美樹はいったん言葉を切ると、意味ありげな視線を里佳子に注ぐ。
「それに、なんですか? 先生」
「……この男の人をよく見て」
美樹は写真の束から数枚抜き取る。そこにはローターの刺激で絶頂に達した裕子の全身像が連続で写されている。
「……」
里佳子にとっては思わず眼を背けたくなる写真だが、再び美樹に促されてやむなく眼を向ける。明らかに悦楽の表情を浮かべている裕子の隣で哄笑している中年男を認めた里佳子はさっと顔色を変える。
「……この人!」
「そう、東中の父兄の脇坂さんよ」
脇坂は東中に通う1年生の息子がいるが、女生徒の間ではひそかに「盗撮魔」と呼ばれている男である。それは運動会の時に彼女たちの膨らみかけた胸や丸い尻、そしてショートパンツから伸びる太腿をビデオやカメラで執拗に狙い続けたことからつけられたのだ。
特に母親譲りノーブルな美貌と恵まれた体格を有する里佳子は脇坂の格好のターゲットとなり、息がかかるほどの距離から何度も撮影され、怒りと情けなさで泣き出しそうになったものだ。
PTA会長である母の裕子についに現場を押さえられた脇坂は、他の父兄の見守る中こっぴどく注意され
、ビデオやカメラを没収された。しかし、そんな恥辱を味わいながら脇坂はその蛇のような執念深い目を里佳子に注いでいたのだ。
その脇坂が、羞恥の極限と言って良い姿をさらけ出している母の隣でさも楽しげに笑っている。この事実をどう捉えれば良いのか。里佳子はすっかり混乱している。
「里佳子さん……」
美樹から名前を呼ばれ、里佳子は我に返ったように顔を上げる。
「世間では人前で恥ずかしいことをして悦ぶ人がいるのよ」
「えっ?」
急に何を言い出すのか。里佳子はいぶかしげに眉をひそめる。
「露出狂、英語でエギビジョニストというのだけど、あなたのお母様にはその傾向があるのかも知れないわね」
「な、何を言うんですかっ。先生っ」
里佳子は怒りに形の良い眉を吊り上げる。
「母を侮辱しないでくださいっ」
「あら、侮辱している訳じゃないわ」
美樹はわざときょとんとした表情を見せる。
「あなたにはまだ分からないかもしれないけれど、人間の性向は様々よ。パートナーを虐めることで快感を得る人、逆に虐められることを悦ぶ人、自分よりうんと年下のパートナーを求める人、異性でなく同性のパートナーでないとだめな人……」
「やめて下さい!」
里佳子は叫ぶようにそう言うと耳をふさぐ。
「母は、母はそんな変態みたいな人間じゃありません」
「しっかり見なさいっ! 里佳子っ」
美樹は叱り付けるようにそういうと、一枚の写真を里佳子の目の前に突き付ける。
望遠レンズでクローズアップで撮られた母の惚けたような表情が目に飛び込んでくる。
「このお母様の顔をよく見るのよ、里佳子。これが嫌がっているように見える? どう見ても快感に酔いしれている表情だわ」
「嫌……」
里佳子は写真から必死に顔を背け、力なくかぶりを振る。
「これを見ているとあなたのお母様は加藤君のお母様と一緒に、脇坂さんたちと一緒にいわゆる露出プレイを楽しんでいるとしか思えないわ。あの盗撮魔の脇坂さんとこんな破廉恥なことをしているなんてことが学校のみんなに知れたら、一体どうなるかしら?」
「ひっ……」
そんなことになったら里佳子にとって学校生活はたちまち生き地獄に変貌するだろう。
ニュータウンの新設校とはいえ、ご多分に漏れず東中にも生徒間の陰湿な苛めは存在する。特に母親がスナックを経営しているという世良史織は、いまだ中学一年ながら3年生も取り巻きに従えるほどの影響力を持ち、男子、女子に限らず気に入らない生徒を順に標的にしては執拗な苛めを行っていた。
里佳子も一時、史織のグループのターゲットにされかけたが、里佳子が毅然と対応したことと、東中きっての美少女でスポーツも万能である里佳子のシンパともいうべき生徒たちが多数存在していたことから、史織たちの動きは押さえ込まれグループは縮小に追い込まれたのである。
しかしながら史織たちはいまだに里佳子を執念深く狙っているといわれ、里佳子も気の抜けない日々を送っていたのである。
そんな中で母の裕子のスキャンダルが学校のみんな、特に史織たちに知られることになったら、たちまち里佳子を標的にした苛めが本格的に再開されるだろう。
「もちろんそんなことは先生がさせやしないわ。里佳子のお母様のことだもの、きっと何か事情があってのことに違いない。先生は信じているわ」

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