第65話 小椋家の崩壊(1)

脇坂と赤沢が中年男としては驚くほどの精力をしのぶと裕子に対して発揮している頃、香織、黒田、沢木の3人は開店前で客のいない「かおり」で顔を突き合わせ、密談にふけっていた。
「裕子の娘の里佳子の様子がおかしいらしいわ」
香織の声に、日の落ちる前からビールを飲んでいた黒田と沢木が眉を上げる。
「母親のことに気が付いたかな」
またしても会社を直帰と称して実質早退して来た沢木が首をひねる。
「それとも……」
「香織ママが蒔いた種が見事に花を咲かせたか、やが」
店を雇われ店長に任せて抜け出して来た黒田がニヤリと口元を歪ませると、香織はにっこり笑って頷く。
「早朝の露出ジョギングは責めとしては効果的だがリスクが高い。それをどうして毎日続けるのかと思ってたんだが――」
「あの時間に東公園の近くを通る可能性がある人がいる――その人物に裕子としのぶの破廉恥な姿を見せつけること、これが狙いだったとはね」
沢木が感心したようにいう。
「ママは小塚美樹って教師のこと、どうやって知ったんや?」
「『かおり』には東中教師の客もいるわ。教師っていうのは世間が狭いせいか噂話が大好きで、案外口が軽いのよ。R学園付属でなにか問題を起こしたことはすぐにわかったわ。その先は龍に探らせたのよ」
「龍……」
久々に聞く名前に、黒田は少々驚きの顔を見せる。
「以前店にいたバーテンの男か。身体を壊したんじゃなかったんかいな」
「元気よ」
香織は平然と答える。
「色々と裏のことが忙しくなったので、そっちを専門にやってもらってるわ」
「ママと龍はいったいどういう関係なんや」
「……それは知らない方がいいわよ、黒田さん」
香織は釘を刺す。
「いずれにしても龍にR学園付属中の関係者に探らせたら、小塚美樹が起こした不祥事の内容はすぐに分かったわ。相手の女生徒の名前や顔もね。いつか使える材料だと思ってとっておいたのよ」
「そのネタを使って美樹を女奴隷にしようとは思わなかったの? なかなかの美形っていうじゃないか」
沢木がビールを一口を飲みながら香織にたずねる。
「全然使い道がなければそうしたかも知れないけど、若い女の真性サド、しかも少女好みの同性愛者っていうのは貴重なのよ。ましてあれほどの美女とくればね。Sの女王様として使った方が商品価値があるわ」
「それにしてもママの思惑どおり、裕子の娘の里佳子に手を出すとはな」
「蛇の道は蛇っていうじゃない。美樹は2年半も禁欲生活を強いられた。もう限界が来ているはずよ」
香織はひとり美味しそうに珈琲をすする。
黒田と沢木は香織の遠望深慮に、感嘆の声を上げる。
一方で2人の男は、香織をそこまで突き動かすものは何なのかと訝るとともに、龍を通じて何やら得体の知れない世界ともつながりのありそうな香織に、不気味なものも感じるのだ。
「里佳子の調教はどこまで進んでいるのかな」
「東公園に仕掛けた集音マイクから探った範囲では、香織からレズの技巧でこってり責められたり、香織の仲間と一緒に浣腸されて裏門を広げられたりしているようだわ。さすがに処女を散らすのはためらっているみたい」
「香織の仲間って?」
「荏原誠一っていうカメラマンの卵よ」
「男が一緒か? 美樹はレズじゃなかったんか?」
「誠一って男も同性愛者よ。凄い美男子だけれど、女には興味がないわ。年下趣味って話だから、美樹とウマが合うのかもね」
「それで里佳子は処女のままか……しかし、どうしてゲイの男が美樹に手を貸すんだい?」
「それは当然、見返りがないと危ない橋は渡らないわね」
「しのぶの息子か……母親似の美少年というからな」
黒田は納得したように頷く。
「いずれにしても、処女を散らすとなると下手をすれば傷害罪やからな」
「これで小椋家は一人を残して崩壊……加藤家も風前の灯火といったところか」
「そういうこと」
香織はそういうとちらと上方を見る。
「かおり」のあるマンション、その上階にある香織の住居には木曜の夜以来、裕子の夫の道夫が同居している。香織たちによって小椋家に帰ることを禁じられているのだ。
いや、正確には同居人はもう一人増えている。もっともこちらは夜中の短い時間以外はほとんど外に出ているのだが。
そのもう一人の同居人は加藤しのぶである。しのぶは家族が待つ自宅に帰ることは最低限に制限されており、なんと毎晩、小椋道夫と夫婦生活を営むことを強いられているのだ。
道夫としのぶは納戸として作られた窓もない4畳ほどの部屋に軟禁されており、夜は必ず一度はセックスをするように義務づけられている。部屋は監視カメラとマイクでモニターされており、また、翌朝には精液の入ったコンドームの提出を義務づけられているため、胡麻化すことはできない。
香織が不在時の道夫としのぶの管理者は、香織の娘でいまだ中学1年の史織である。しのぶは道夫のことをまるで夫か愛人のように「あなた」と呼ばされており、同様に道夫はしのぶを「しのぶ」と呼び捨てにすることを命じられている。これに違反すると2人は史織から尻打ちの折檻を受けることになるのだ。
さすがに当初道夫は、妻や家族への裏切りとなる行為を拒み激しく抵抗したが、香織の指示によって控えていた龍によってたちまち制圧され、全身を縛り上げられた。
史織は父親と同年代の男をいたぶる残酷な悦びに微笑みながら、道夫の肌にスタンガンを圧して、ペニスと肛門を辛子責めにするなどの凄絶な拷問を施し、ついに道夫を屈服させた。
もちろんしのぶも黒田や沢木たちに犯されるのとは違い、親友である小椋裕子の夫と交接を強いられることに、夫の達彦や裕子に対する罪悪感から激しくためらったが、達彦や娘の香奈も同じような運命に突き落とすと香織に脅されると、拒み通すことはできなかった。
それでも初日の、木曜日の夜の交合は香織や龍に手取り足取りされてのものだったが、一度結ばれたら開き直ったのか、それとも強いられた不倫の背徳の快感に酔いしれたのか、翌日からは道夫もしのぶも積極的に腰を使いだした。そしてついに昨夜は甘い声で互いの名を呼びながら、香織と史織の目の前で同時に絶頂に達するまでになったのだ。

「あの2人、『かおり』で絡み合っていた時から息が合ってたからな」
「案外、夫婦としてうまく行くんじゃないですか」
黒田と沢木はそういうと楽しげに笑い合う。
「それで、どうするんや。小塚美樹と取引をして里佳子をこちらで手に入れるのか?」
黒田の問いに香織は首を振る。
「折角だから里佳子はしばらく美樹に任せておいた方が良いわ。しのぶの息子の健一もうまく罠にかけてくれそうだしね」

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