第76話 奴隷マネージャー(3)

飯島が指定した「制服」を身に着けた貴美子の姿は、先程の下着姿の清楚さとは一変して、挑発的かつ扇情的に見えた。
Tシャツの胸元は大きく切れ込んで、胸の谷間をはっきりと晒しており、ノーブラのため薄い生地から乳首の形が浮かび出している。ローライズのカットジーンズからは白い腹部も丸出しであり、可愛い縦長の臍が恥ずかしげに顔を出している。
「後ろを向け」
飯島の指示で貴美子はくるりと身体を半回転させる。貴美子の滑らかな背中から腰骨の当たりまでが露わになっており、また、ジーンズからは尻が三分の一ほども露出している。貴美子は背中や尻に飯島の熱い視線を感じ、ブルッと身体を震わせる。
飯島の前で色情狂のような格好を晒している貴美子は、先程一瞬とは言え飯島の前で全裸になったことよりもはるかに痛切な恥辱を感じていた。
「よし、それじゃあ挨拶回りだ。付いて来い」
「はいっ、飯島先生」
貴美子は自棄になったように飯島に従い、部室を出る。
部室の外はグラウンドになっており、練習中の野球部員たちがいっせいに貴美子に注目する。その中に意味ありげにニヤニヤ笑っている新也と正明、そして彼らとともに自分を襲った不良少年の姿を認めた貴美子は、おぞましさに背筋をブルッと震わせる。
「よそ見をしていないでしっかり練習するんだ」
「はーい」
少年たちは間延びした声を出すと練習を再開する。しかしその間もちらちらと貴美子の姿に視線を送り、何やらひそひそと囁き、笑い合っているのだ。
自分を集団で暴行しようとした不良少年たちの前で、露出狂のような姿を晒さなければならない恥辱。貴美子は一刻も早くその場から立ち去りたく、速足で歩く飯島に必死で続く。
「まず校長室からだ」
校舎の中に入った飯島は、廊下を歩いて校長室の扉の前に立つ。分厚い木の扉をノックすると「どうぞ」という野太い声がする。
「失礼します、飯島です」
「おう、なんだね」
大きな机の向こうにすわっていた恰幅の良い男が書類から目を上げる。その男がA工業高校の校長らしいが、口ひげに薄いサングラスをかけたその顔はどう見ても田舎の暴力団の組長と言った感じである。
「新しい野球部のマネージャー兼臨時職員を連れて来ました」
「野球部のマネージャーだって?」
校長は度付きらしいサングラスを鼻の上に乗せ直すと、貴美子をしげしげと見る。
飯島に尻を叩かれた貴美子は一歩進み出ると、頭を下げる。
「小椋貴美子と申します。よろしくお願い致します」
貴美子の露出的な姿を見た校長は驚きに目を白黒させる。
「校長の佐倉です」
佐倉と名乗った校長は貴美子の全身をなめ回すように眺めると、わざとらしくため息を付く。
「飯島君、困るよ。我が校の生徒の9割は男子。そんな中にこんな裸同然の若い娘がうろつくなんて、危険でしょうがない」
「はあ、すみません」
飯島はたいしてすまながっていない調子で答える。
「君もいったいどういうつもりだね。最近の若い子はこんな格好が当たり前なのかね」
「あ……いえ……そういう訳では」
「それじゃあいったいどういう気なんだ?」
「校長、実は……」
飯島は佐倉の耳元に口を寄せると何事か囁く。佐倉はしばらく顔をしかめて飯島の話を聞いていたが、やがてにやりと笑みを浮かべてうなずく。
「そういうことなら仕方がない……」
飯島と佐倉と間でどういう話が成立したのか、佐倉は納得した様子でニヤニヤ笑いながら貴美子を見つめている。
「まあ、しっかり頑張りたまえ」
「きゃっ」
佐倉にいきなり太腿をそろりと撫で上げられ、貴美子は小さな悲鳴を上げる。飯島は佐倉に一礼すると、貴美子を引きずるように部屋の外へ出る。
「大根足を触られたくらいで一々おおげさな悲鳴を上げるんじゃない」
「でも、あんな……セクハラですっ」
「何がセクハラだ。いかにも触ってくれというような格好をしていて。そんな理屈が通るか」
飯島にそう決めつけられて貴美子はぐっと黙り込む。
「……校長先生になんとおっしゃったんですか」
貴美子は恨めしげに飯島を睨みつける。
「別に、何も言っていない」
「嘘です。飯島先生の話を聞いて急に態度が変わりました」
「本当のことを言っただけだ。小椋貴美子という娘は生まれつき羞恥心というものが人並み外れて不足しており、どこでもすぐに裸同然の格好になりたがるので両親も困っている。多くの若い男の目に晒されれば多少は羞恥心も生まれるのではないかという親御さんからの立っての望みで預かることになった。男子生徒と間違いを起こさないよう自分が責任をもって、しっかり見張っているから安心してくれ、とな」
「何ですって?」
「他の教員にも校長がその旨説明してくれるってさ。こちらとしては説明の手間が省けた訳だ」
飯島は広い職員室の扉の前に立つ。教師たちはまだだいぶ残っているのか話し声が聞こえる。
「全員に対しては明日の朝挨拶するとして、居残っている連中だけでも顔見せしていこう」
貴美子は思わず足が震えるのを感じる。飯島や佐倉など、一対一で向かい合うのならまだしも、複数の人間の前に立たされ、屈辱的な姿を晒すのは初めてなのだ。
これでいよいよ取り返しが付かない烙印を押されるような恐怖に、貴美子は足がすくむのだ。
「何をぼんやりしている。いくぞ」
飯島はガラリと木製の引き戸を開け、貴美子の背中をどんと押して職員室の中へ突き入れる。
部屋の中で談笑していた4、5人の教師がいっせいに貴美子の方を向き、驚きの表情を浮かべる。
「飯島ちゃん、誰だい、その別嬪さんは」
ひょろりと細い、縁無しのキザっぽい眼鏡をかけた中年の教師が興味津々と言った様子で声を上げる。
「今度野球部のマネージャー兼用務員補助として雇った学生バイトですよ、浜村先生。ほら、早く挨拶をしないか」
職員室に残っていた教師たちは男3人と女2人である。男たちは露出度の高い若い女性の突然の出現は大歓迎といった風で、一様に好色そうな笑みを浮かべながら貴美子を見ている。一方1人は30代、もう1人は40代と思われる女教師は対称的に、苦々しげな視線を貴美子に送っている。
「お、小椋貴美子と申します。よろしくお願い致します」
直立不動の姿勢で挨拶する貴美子の尻を、飯島はパシンと平手打ちする。
「ちゃんと所属する大学の名前や、学部を言わないか」

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