第92話 3匹の牝馬(5)

「わかったら、お前も同じようにマンズリするんだ」
「はい……」
どうやっても逆らいようがないのだ。今更ためらったところでどうなるだろう。既に黒田、沢木、脇坂、そしてソープランドで飯島他の無数の男たちに汚されたこの身ではないか。裕子は諦めに似た決意とともに、強いられたおぞましいせりふを口にする。
「ああ……達彦さん……裕子のおマンコを犯して」
友人の夫の名を口にしながら自らの身体を慰める。その背徳感がローターの刺激で火をつけられ、露出の快感で燃え上がった裕子の身体を骨の一本も残さぬ勢いで炙り尽くしていく。裕子は自分の心と身体がもはや後戻り出来ぬ段階に至ったことを哀しく自覚しながら、自らの心を裏切った自らの肉体に罰を与えるかのように激しく責め立てる。
「ああっ、達彦さん、もっと、もっと深くよ……」
いつものように目許だけがスポーツサングラスに隠されているのとは違い、頭部全体がマスクに覆われていることが裕子を一層大胆にしていた。乳房を激しく揉み立て、空いた手で陰裂をかき分け、堅くしこった大ぶりのクリトリスをこすり上げる。蜜壷に沈められる指の数は一本から二本、二本から三本と増え、あふれ出す愛液が太腿を伝って流れ落ちる様子は淫靡そのものと言えた。
そんな裕子の色に狂ったような様子を貴美子は、相変わらず香織のレズビアンの技でに甘く愛撫されながら、呆然とした表情で見つめている。
まさか、そんな、違う……青天井の下ギャラリーに取り囲まれて狂ったように自慰行為に浸る女――それが母であるはずがない。
しかし、外人女優を思わせるプロポーション、鍛えられたジョギングのフォーム、そして走っている時は良く分からなかったが、マスクから覗いたエキゾチックな目許、それらはいずれも母の裕子の特徴をあらわすものだった。
そして今、官能を訴える喘ぎ声と共に聞こえた声、それは聞き慣れた母の声に間違いないのではないか。
(そんなはずはない……そんなはずは……)
貴美子は恐怖に似た思いとともにそう頭の中で繰り返す。しかし、最近の母のよそよそしい態度、貴美子の顔を見るのが後ろめたいと言わんばかりに目をそらすような仕草、それらは母が貴美子とともに、いや、むしろ貴美子よりも先に地獄に落とされたと考えれば何もかも合点が行くのだ。
(するともう一人の女は誰なの? あのいやらしい写真に向かって腰を突き出し、「ミチオさん」と呼びかけながら破廉恥な行為に浸っている女は……)
待って、ミチオさん……ミチオ……道夫……。
貴美子は再び目も眩むような激しい衝撃を受ける。あの写真の男性器、それは貴美子の父、小椋道夫のものではないか。
母だけではなく父までもおぞましい罠に落ちたというのか。
貴美子にはこれが現実に起きている出来事とは思えなかった。夢なら醒めてほしいという言葉があるが、その思いをこれ程切実なものと感じたことはない。貴美子は香織の愛撫で官能の縁を彷徨いながら、自らの陥った陥穽が予想していたよりも遥かに大きく深いものだということに戦慄していた。

貴美子と同様、いや、それ以上に深い絶望と甘い被虐の間を行きつ戻りつしていたのが小椋里佳子と加藤健一である。
里佳子と健一は素っ裸を後ろ手に縛られた姿で、東公園の脇に停められた荏原誠一の車の中で、美樹と誠一にいたぶられながらそれぞれの母親の痴態を見せつけられていた。
誠一の車にはスモークが貼られており、外からは中の様子が見えなくなっている。しかし、ドアを開ければそこはすぐ往来という場所で全裸のまま淫靡な責めを受けさせられる羞恥と屈辱は、少し前まで純真な処女と童貞であった里佳子と健一には特に耐えられないものだった。
「どう、里佳子のママの張り切りよう。新人の女の子が加入したから負けられないと思っているのかしら。いつもよりも激しいマンズリだとは思わない?」
美樹は里佳子の口元に耳を寄せてそう囁きながら、少女の堅さの残る乳房を甘く揉みほぐし、大きめのクリトリスを指でリズミカルに押す。
「あんなエッチなママをもった感想はどう? 恥ずかしい? 嬉しい? ねえ、どちらかしら」
「お願い、ママを……ママを侮辱しないで」
「あら、侮辱なんかしていないわよ。むしろ頼もしいと思っているのよ」
美樹はくすくす笑いながら答える。
「あんなにたくさんの人の前で堂々とオナニー姿をさらすほどの開放的なママだから、きっと私と里佳子の関係にも理解を示してくれると思うわ。いえ、この際だから里佳子と一緒にママを愛してあげたいわ。3人で素っ裸になって、お互いのラブジュースをすすり合うほど愛し合わない? ああ、考えただけでもゾクゾクしてきちゃうわ」
「ああ……そんな……」
「それとママは大学講師までやっているほど頭が良いそうだけれど、エッチな英語はあまりご存じないかもしれないわね。里佳子といっしょに私がじっくり教え込んで、外国のポルノ映画にも出演出来るほどにして上げるわ」
「そんな……やめてください……」
里佳子は悲鳴のような声を出して身悶えする。
「あらあら、車の中は狭いんだから暴れちゃ駄目よ。健一君達の邪魔になるわよ。それにあまり大きな声を出すと不審に思われて、外から覗かれちゃうわよ」
里佳子は恐怖に駆られて車のウィンドウを見る。スモークを貼られているとは行っても中から外の風景は丸見えである。外からは見えなくなっているとはいっても四面がウィンドウになっている車は野外同然である。
恐怖のあまり目を閉じた里佳子は、多くのギャラリーに囲まれて官能の海を泳いでいる母の裕子と、いつしか一体になったような不思議な感覚に襲われていく。いつしか東公園は人で埋め尽くされ、裕子やしのぶの周りだけでなく、この車の周囲にも無数のギャラリーが集まり出す。その中には欲情に目を血走らせた男たちだけではなく、里佳子の同級生、東中の教師、里佳子の近所の主婦たちの姿までがあるのだ。
「あれ、小椋さんのお宅の里佳子ちゃんじゃない。見て、真っ裸よ」
「人前でこんな……なんて破廉恥なのかしら。末恐ろしいわ」
「里佳子があんなエッチな女の子だったなんて、信じられないわ。もう私達には声をかけないで」
「東中の恥だわ。口もききたくない」
里佳子を様々な侮辱する声が聞こえてくる。そんな幻聴を振り払うように、裸の美少女はなよなよと首を振り続けているのだ。
「どうだい、健一君。ビデオで見るよりもこうやって近くで、しかも生で見たほうが迫力があるだろう、愛するママの裸は……」
健一も素っ裸を誠一にしっかりと抱きすくめられながら片手で若茎をしごき上げられ、同時に双臀の狭間に秘められた菊花を指先でほじられながら、妖しい快美感にすすり泣いていた。
健一の視線は母親のしのぶのあられもない姿態に引き付けられている。はじめは誠一によって無理やり頭を押さえつけられるようにされて、しのぶを見ることを強制されていた健一だったが、いまや明らかな情欲が浮かんだその視線を、母親の豊満な裸身から逸らすことが出来なくなっているのだ。
「実に気持ちよさそうな表情をしているじゃないか、君のママは。しのぶ、っていったよね。ゲイの僕から見てもとても官能的だ」
誠一はそんな風に健一に囁きかけながら、たけりたった肉棒を優しく愛撫する。新鮮な肉の先端からは先走りの樹液が滴り、誠一の指先を濡らしていく。
「気持ちよさそうだね、健一君。ママの裸を見て感じてきたんじゃないのかい? 僕としては少々妬けるね」

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