第100話.崩壊への序曲(8)

「……女が男に対して行う口唇愛撫のことをフェラチオというが、男が女の口を性器に見立てて犯すことを何というか」
「イラマチオ」
貴美子は不敵な笑みさえ浮かべて、はっきりとそんな言葉を口にする。次の瞬間、花芯を引き抜かれるような激痛に喉から「ぐえっ!」という断末魔のような声を迸らせた貴美子は、身体のバランスを崩して膝をつく。
「貴美子っ!」
「姉さんっ!」
裕子と里佳子が思わず貴美子に駆け寄ろうとするが、佐藤と朽木に引き戻される。
「お願いです。もうやめてっ。せ、責めるなら私を責めてっ!」
裕子は必死な目を香織に向ける。香織はそんな裕子をさも楽しそうに眺めている。
「娘を思う母心、ってわけね」
香織は冷たい笑みを貼り付けたまま、興味深げに裕子を見つめている。
「いいわ、そこまで言うなら責めてあげる。後で音を上げてもしらないわよ」
香織はそう言うと朽木と瀬尾に目配せする。2人の男はそれぞれ貴美子と里佳子を背後からがっちりと抱えるようにする。
「ルールは同じだけど問題はユウコ1号に対してだけ出すわ。問題に答えることが出来ればあなたの鎖が引かれ、答えることが出来なかったり間違えたりすると他の2人の鎖が引かれる。わかったわね?」
「わ、わかりました」
裕子は佐藤と脇坂の責めによって朦朧としている頭を必死ではっきりさせようとしながら頷く。
「それじゃあ始めるわよ。あなたが結婚してから夫以外でセックスをした男の人数を答えなさい」
「えっ?」
思いもしなかった質問に裕子は狼狽する。
「どうしたの? ご主人以外に何人抱かれたかと聞いて入るのよ。簡単な質問でしょう」
香織はさも楽しそうに微笑みを浮かべる。
「あ……」
裕子は口ごもる。
いったい何人なんだろう……裕子は焦りながら必死で思い出そうとする。
始めて「かおり」に呼び出された日に裕子は、脇坂やその仲間、そしてスナックの客によって輪姦されている。その後黒田や沢木にも幾度となく犯され、あげくに果てに先週は吉原のソープランドに軟禁され、講習と称して店長や店のスタッフに犯され、3日間で合計30人以上の客をとらされたのだ。
それだけで40人、いや、50人以上か……。
2週間前の自分なら結婚後、夫以外の男と関係したことはないと即答出来ただろう。しかし、わずかの間で自分は並の娼婦さえ及びがつかぬほどの荒淫に身を浸してしまった。
「早く答えないと10秒経ってしまうわよ」
裕子は朽木と瀬尾に抱えられるようにして隣に立たされている2人の娘に眼を向ける。2人の娘は男たちの淫靡ないたぶりに耐えながら、すがりつくような瞳を裕子に向けている。
貴美子と里佳子にとって母親の裕子はいわば理想の母親である。大学講師を務める知性とモデル顔負けの美貌を兼ね備え、多忙な商社マンとして不在がちの道夫に代わり家庭では父親役までこなし、自治会副会長やPTA会長などの仕事にも前向きに取り組んでいた裕子。里佳子が美樹によって、そして貴美子が龍によって落とされた苦境からもいつかは母親の裕子が力を発揮して救ってくれるものと信じていた。
しかし、その裕子は香織の質問に対して明らかに動揺し、答えをためらっている。答えることができなければ再び娘たちの女として最も敏感な箇所に耐え難い苦痛が与えられることがわかっていながら逡巡する裕子を、2人の娘は不安げに見つめる。
(ああ……どうしよう……)
いったい自分は何人の男に抱かれたのだろう。本当に分からないのだ。時間をかけて冷静に思い出せば、ソープでとらされた客の数は分かるかもしれない。しかし、「かおり」で脇坂たちから犯されて失神した自分に何人の男たちがのしかかり、凌辱したのかはとてもではないが覚えていない。
それに、もし分かったとして、ここで答えることができるだろうか。たとえば自分が結婚以来、夫以外に50人の男たちと関係を持ったと答えれば、どんなことになるのか。
「残り時間3秒、2秒……」
(ああ……もう駄目……)
香織は正解を知っているのだろう。あてずっぽうでもいいから何か答えなければ。黙ったままだと不正解とみなされ、娘たちがむごい責めを受けるのだ。
「ご、50人」
時間切れ寸前で裕子は悲痛な声を上げた。それを聞いたギャラリーはどっと沸き上がる。
「何ですって?」
香織はわざとらしく眉を上げる。
「何ていったの? ご主人以外に何人の男に抱かれたって?」
「……50人ですわ」
「声が小さいわよ」
「50人です。主人以外に50人の男の方に抱かれました!」
裕子は自棄になったように大きな声を張り上げる。それを聞いた香織はケラケラと笑い出す。
「これは驚いたわ、というよりも呆れたわ。いかにも上品な奥様って顔をしながら、ご主人以外に50人もの殿方に股を開いたなんて。娼婦顔負けの淫乱女だわ」
裕子はあまりの屈辱に真っ赤に染まった顔を伏せる。取り囲んだギャラリーの好奇と侮蔑の入り交じった視線を裕子は針のように感じていた。
裕子はちらと里佳子と貴美子の方を見る。2人の娘は明らかな困惑の表情を示し、母親を見ている。その視線にわずかながら軽蔑の色を認めた裕子は、いたたまれないような気持ちになる。
「あなたたち、どう思う? 夫が有りながら50人もの男と寝るなんて。同じ女として恥ずかしいと思わない?」
香織は3人の端に立った里佳子に詰め寄る。
「……は、恥ずかしいと思いますわ」
里佳子は小さいがはっきりした声で答える。香織に対して迎合的な答えをしないとまた惨い責めを受けるという恐れもあったが、そもそも里佳子が美樹の罠に落ちたのは、美樹が裕子のビキニ姿の早朝ジョギングと公園でのオナニーを目撃したのがきっかけである。
そのため里佳子には、自分は母親のせいでレズビアン奴隷に堕とされたという釈然としない思いがあったのだ。
「ユウコ2号はどうなの? こんな女のことをどう思う?」
香織は次に中央に立つ貴美子に近寄る。形の良い乳房を香織に揉まれ、勃起した乳首を引っ張られても貴美子は抵抗せず、唇を噛んで顔を伏せていたが、何度か香織にせきたてられてようやく顔を上げる。
「……恥ずかしいと思います」
貴美子はきっぱりとそう答えると、裕子にちらと眼をやり、すぐに顔を背けるようにする。
一瞬貴美子と目が合った裕子は、やはり貴美子の目に明らかな侮蔑が含まれているのを感じて身をすくめる。

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