第121話 絶望への道程(4)

「あらあら……日頃偉そうなことを言っていても、旦那一人満足させられないようじゃ女としては失格ね」
「そうよ。旦那さんのあの気持ちの良さそうな顔を見てご覧なさい。お偉い大学講師様よりもしのぶの方が女としてはずっと上ということよ」
裕子の新たな弱点を発見した文子と良江は邪悪な笑みを浮かべてそんな侮蔑的なことを言いながら、裕子の内腿を抓ったり、乳首を引っ張ったりする。
「どうなの、みんなが見ている前で愛するご主人を親友に寝取られた感想は?」
「なんとかおっしゃいよ、裕子」
裕子にはこれが現実のこととはとても思えない。衆人環視の中、また愛する娘2人が見守る中で夫を寝取られ、女としての自分を完璧なまでに否定される。裕子がこれまで受けて来た様々な苛酷な責めよりもはるかに酷い拷問である。裕子は想像を絶する汚辱にガクガクと身体を震わせているのだ。
「まあ、少し遅くなったかもしれないけれど、これから私達が女として殿方に対してどのように振る舞ったら気に入られるのかをたっぷり教えて上げるわ」
文子は笑いながらそう言うと裕子の花蕾の先をくすぐるようにする。そんな隠微な悪戯に裕子は自棄になったように身を投げ出していくのだ。
「うっ……ううっ……」
貴美子もステージから必死で目を背けているのだが、そこを嵩にかかって攻め立てるように長岡と酒田がまとわりついている。2人のレズビアン教師たちに交互に接吻を求められる貴美子は、母親同様自棄になったように2人の女に身を任せているのだ。
「ああっ……嫌っ」
隣のボックスの里佳子の絶望は母と姉のそれ以上に深いといえる。最後の頼みの綱であった父親がすでに悪鬼の手に落ちているだけでなく、なんと健一の母親であるしのぶと睦みあっているのだ。それは母の裕子に対する裏切りというだけでなく家族全員への裏切りといえた。
もう何を信じて良いのか、何を頼ったら良いのか分からない。里佳子も姉と同様自暴自棄の中で幼さが残る裸身を桑田に預け、激烈な汚辱に気が遠くなるのを必死でこらえている。
ステージ上では、悩ましく身体をうねらせるしのぶの中で、小椋道夫は自らのものがゆっくりと、しかし確実に回復して行くのを感じている。
しのぶの身体に出会うまで、道夫は「抜かずの二発」など一度も経験したことがなかった。道夫は結婚して以来妻一筋であり、風俗すら行ったことがない。妻の裕子を愛していたからでもあるが、生来の臆病さと自分の持ち物に対するコンプレックスがそうさせたのである。
自分のものは人よりも小さく、また早いのではないか。そんな根拠のない劣等感が道夫をずっと支配していたのだ。妻の裕子は寝室で道夫のものを侮ることは決してなかったが、それはセックスに対して淡泊であるせいで、そもそもそういったことに興味がないからだと道夫は考えていた。サッカーに興味がないものがどのプレイヤーが巧くて、誰がへぼなのか全く関心がないように。
香織の罠に落ちてマンションの物置部屋に軟禁され、少しでも逆らったら香織の娘で里佳子よりも年下の史織によってスタンガンを当てられたり、ペニスを辛子責めにされる日々は極めて屈辱的だった。しかしそんな汚辱の生活の代償として、道夫は次第に蕩けるような快感を得ることが出来るようになったのだ。それは裕子の先輩奴隷であり、里佳子のボーイフレンドである健一の母、しのぶとの背徳のセックスを通じてである。
しのぶとの性交は妻の裕子とのそれでは味わったことのない甘美なものだった。内部構造の素晴らしさや卓越したテクニックもさることながら、しのぶは常に道夫の持ち物を賛美し、愛しさを表し、身体中のあらゆる器官をそれに対して捧げてくれたのである。ノーマルなセックスはもちろん、口を使って愛し、道夫の放出したものをすべて美味しそうに飲み込んでくれる。また、しのぶの狭隘なアヌスを初めて貫いた時の満足感と征服感は表現のしようがない。
妻の裕子に対する罪悪感は不思議なほどなかった。自分がこのような境遇に陥ったのは妻の浅薄な正義感が原因なのだ。道夫がそう思い込むようにしたのは、罪悪感の裏返しだったのかもしれない。しかしながら道夫は最初は香織から強いられてそうしていたのだが、次第にまるで妻に復讐するようにしのぶとの行為にのめり込んで行ったのだ。
貴美子と里佳子に対する申し訳なさはもちろんあった。しかし、収入的には商社マンの道夫が非常勤の大学講師の裕子のそれをかなり上回るものの、小椋家の精神的な大黒柱は裕子であった。2人の娘の尊敬の視線はもっぱら母親に注がれ、父親はずっと軽んじられていた。真実は必ずしもそうではなかったのだが、少なくとも道夫はそう感じていた。
そろって成績優秀で美貌の貴美子と里佳子は道夫にとって自慢の娘ではあったが、2人ともいわば裕子の分身と言って良かった。妻に対する愛情が潜在的な嫌悪感へと変化していく過程で、道夫は貴美子と里佳子に対峙することを避けるようになっていた。貴美子と里佳子が父親に対して抱いていた親愛の情から目を背けたのである。それは道夫がすべての女性に対して抱いていた嫌悪感の故であった。
ステージに上がる前、道夫は香織によって少量の覚醒剤を投与されている。薬の影響と快楽に朦朧とした意識の中で道夫はぼんやりと客席を見回した。観客の中に自分を知るものはいない。仮にいたとしても、道夫の行為はストリップ小屋での実演ショーに客が飛び入り参加するようなもので、特に珍しいものではない。
何も気にすることはないのだ。そもそも一度「かおり」で衆人環視の中しのぶと交わっている。「毒食らわば皿まで」というではないか。
薄い靄がかかったような視界の向こうに、3人の裸女の姿が見える。3人は一様に悲哀と悔しさ、そしてこみあげる被虐の快感に交互に襲われながら、喜悦の声と悲嘆の声を交わし合っている。まるで快楽の天国にいるようだ。脳が融けそうな感覚の中で道夫はかつてないほどの甘美な射精を遂げると、そのまま気を失った。

「あっ、ああっ……」
道夫とタイミングを合わせるようにして崩壊の姿を示したしのぶは、快楽の名残りを味わうように舌足らずの声を上げながら道夫の上で裸身を震わせ、接合された箇所をヒクヒクと震わせている。道夫としのぶの獣のようなまぐあいを見せつけられた小椋家の3人の女たちは、恐怖、屈辱、嫌悪感、そして激烈な被虐的な快楽の中で気が遠くなるのを必死でこらえていた。
「いかがでしたでしょうか、皆様。ではただいま実演ショーを演じました当スナック『かおり』の看板スター、彩香こと加藤しのぶに盛大な拍手をお送りください」
龍のアナウンスが流れると、店内を埋めた客たちはいっせいに手を叩く。拍手と歓声の中、しのぶはまるで悦楽の余韻に浸るようにぐっと身体を反らす。それは観客たちの好奇の視線を全身で受け止めるかのようである。
「それではここで、熱演を披露したしのぶ嬢に対して、本日の特別ゲストからプレゼントの贈呈がございます」
舞台の袖がスポットライトに照らされる。いったい今度は何が起こるのかと観客がざわめき出した時、2つの白い裸身が転がるようにステージ上に登場した。
「しのぶ嬢の2人のお子様、加藤健一君と香奈ちゃん、全裸での登場です。皆様、盛大な拍手をお送りください」
これまでの淫靡極まりないショーの連続に、少々の刺激には麻痺していた観客たちから、あまりのことにどっとざわめきの声が起こる。健一と香奈の兄妹は一糸まとわぬ素っ裸であるだけでなく、幼い裸身に厳しく縄を打たれ、なおかつ香奈の陰部を締め上げた両肢の間をくぐり、健一のペニスの根元を縛っているのだ。
健一のペニスには花のブーケがひっかけられており、少しでも落としそうになると史織が手に持った鞭で健一の引き締まった尻をピシリッとしばくのだ。
まるで陰部と陰部で接合されたような哀れな兄妹は、極限の羞恥と屈辱に気が遠くなるのを必死でこらえながらステージに進み出る。2人を引き立てているのは小悪魔のようなボンデージ風の衣装に身を固めた史織と、ホモセクシュアルの美青年、荏原誠一である。

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