第123話 絶望への道程(6)

いよいよ今夜の淫虐なショーも最後の演目となる。ステージの上に即席の磔台が立てられ、加藤家の3人の男女が素っ裸のまま大の字で固定されている。左端が健一、中央がしのぶ、右端が香奈である。
そして健一には貴美子、しのぶには裕子、香奈には里佳子がそれぞれやはり素っ裸で磔台上の生贄にそれぞれ取り付き、ねっとりと責め立てているのだ。
明日に予定されている処女喪失ショーには、里佳子だけでなく香奈と健一も出演することになったのだ。健一もそこで童貞を喪失することになる。後ろの方はいち早く誠一によって「女にされて」いた健一だったが、童貞については香織の意向で大事に保持されていたのだ。
その準備運動として健一と香奈の兄妹は、このステージで恥ずかしいエクスタシーに達することを強制されているのだ。
「もっと色っぽく悶えなさい、彩香。左右の若い2人にお色気のふりまき方の見本を示すのよ」
香織の叱咤が飛び、「彩香」という源氏名で呼ばれたしのぶは自ら淫らな気持ちを奮い立たせるように「ああっ」と声を上げ、大の字に固定された裸身をもどかしげにくねらせる。
母親のそんな声に煽られたように美しい姉妹に責め立てられている健一と香奈も「うっ、うっ」と切なげな声を上げる。
「加藤家と小椋家の対抗戦、というところね。20分以内に3人に気をやらせたら小椋家の勝ち、誰か一人でも我慢し通せたら加藤家の勝ちということでどうかしら」
香織の声に店を埋め尽くした客からわっと歓声が湧き起こる。俺は小椋家に賭ける、俺は彩香のほうだ、と早くも客たちは各テーブルで賭けを始める。
「負けた家族は明朝素っ裸でジョギング、もちろんマスクも許さないでというのはどう?」
すっかり盛り上がった客たちは再び歓声を上げる。
ステージの奥の、客席から死角になっている場所では香奈の親友の山崎留美が、世良史織にぴったりと身体を寄り添われながら、この淫靡極まりない出し物から目を離せないでいた。
「どう、留美。なかなか素敵なショーだとは思わない?」
史織は香奈の耳元でそんな風に妖しく囁く。
「こ、こんなこと……酷いわ。香奈が可哀そう……」
「あら、そんなこと言って。さっき香奈の目の前でお兄さんのオチンチンを悦んで扱いていたのは誰だったかしら」
史織はクスクス笑いながらそう言うと、留美の腰に手を回して抱き寄せる。
「あっ……史織っ、もう、変なことはやめて……」
「私の言うことに逆らっちゃ駄目」
史織は留美の丸い尻をパシリと叩く。
「奇麗なお母さんやお姉さんたちと一緒に、あのステージの上で素っ裸で並びたくはないでしょう」
史織は含み笑いをしながらそう言うと、留美のパンティの中に手を滑り込ませるのだ。

しのぶの足元に跪いた裕子は、さっきまで自分の夫である道夫のペニスを呑み込んでいた秘奥を、舌や指を使ってねちっこく愛撫している。包皮を弾かせてルビー色の先端をはっきりと覗かせているクリトリスを強く吸い上げ、幾重にも畳まれた弾力のあるラビアを甘噛みすると、しのぶは「あ、あっ、裕子さんっ、そ、そんなところっ」と切羽詰まったような声を上げるのだ。
夫の道夫を自分から寝取ったしのぶに対して裕子は嫉妬と憎悪の念が沸き上がってくるのを禁じることができなかった。無論そのきっかけは香織に強制されてのことと分かっている。
しかし、家に寄り付かなくなった道夫が香織のマンションで、しのぶと半同棲生活を送っていることなど裕子はさすがに想像すらしていなかった。吉原でのソープ修行の時でも、朝のジョギングでもしのぶと裕子は嗜虐者の目を盗んで短い会話を交わすことはしていた。しかし、そんな時でもしのぶは道夫とのことなどおくびにも出さなかったのだ。
しのぶはもちろん道夫との関係を香織から堅く口止めをされていたのだが、裕子にとって自分が身を呈して救おうとしたしのぶから裏切られた衝撃は大きかった。
(なんて馬鹿だったのかしら……こんな女のために家族を崩壊させてしまうなんて……)
激しい自嘲と後悔に苛まれた裕子は、鬱憤をぶつけるかのように指先でしのぶの膣口をぐいと開く。
「そ、そんなっ……恥ずかしいっ」
「はっきり見せなさい、しのぶさん」
同性のそのようなものを間近で見るのは初めてである。しのぶのそれはまるでそれ自身が一つの生き物、いわば餌となる昆虫を飲み込み、跡形もなく消化してしまう食虫植物のような妖しさを醸し出している。
(これが道夫さんのものを……)
呑み込んで、夫婦の絆を溶かしてしまったのだ。荒々しい怒りに駆り立てられた裕子は、いきなりその部分に唇を押し当てる。
「あっ、ああっ!」
しのぶの喉から悲鳴のような声が迸り出ると同時に、その部分から粘っこい愛液がどっと溢れ出る。生臭い匂いを持つそれに裕子の舌先は、道夫がしのぶの中に吐き出したものの残滓を感じ取る。
(生で出したんだわ……)
裕子はそこでまた堪らない思いになり、しのぶを責める舌先に力を加える。
裕子は、貴美子と里佳子が生まれてからは道夫とのセックスは常にコンドーム着用だった。「安全日くらいは」と、遠慮がちに生を要求する道夫を裕子が頑として拒んでいたのは、一時生理が不順勝ちということもあったのだが、いったんたがを緩めることで夫婦生活がなし崩しになるのを嫌ったのである。
なにせ道夫のそれはよほど敏感なのか、裕子が生で受け入れたらそれこそあっと言う間に射精してしまうことがあったのだ。裕子はそんな夫を侮辱することはなかったものの、夫のコンプレックス解消に積極的に協力することもなかった。裕子と道夫がいつしかセックスレスになったのもそんな互いの不満の積み重ねからであった。
(道夫さん……しのぶさんとのセックスを心から楽しんでいるように見えた)
ステージ上で失心した道夫は黒田と沢木に抱えられるように店内から姿を消していた。おそらくまた香織のマンションに戻されたに違いない。
(しのぶさんもピルを飲まされているんだろうか)
裕子はしのぶの濃厚な果汁を舌先で味わいながらぼんやり考える。
香織の手に落ちて以来ずっと裕子はピルを飲まされている。また、吉原のソープで働かされていた時は裕子もしのぶもスキンを着用させられていた。香織も原則、女奴隷を犯す際はスキン着用を義務づけているようである。これは妊娠防止とともに性病予防の意味もあるようだ。もちろん、香織は奴隷の身体を気遣っているのではなく、病気をした時の調教計画や商売への悪影響を懸念しているに過ぎない。
(もしそうでなければ……)
裕子の頭に突然最悪の想像が浮かぶ。道夫の子を孕んだ大きなお腹を抱え、はにかむように微笑むしのぶ、隣には道夫が寄り添い、貴美子、里佳子、健一、そして香奈の四人が祝福するように二人を取り囲む。
香織の残酷な家族シャッフルの結果には、二家族崩壊のそもそもの切っ掛けを作った加藤達彦と、自分の力を過信して香織に無謀な戦いを挑み、小椋家を泥沼に引きずり込んだ裕子の姿はない。

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