第130話 砂の城(4)

「これはなかなか傑作ね」
里佳子の成熟し始めた乳房を揉み上げていた香織が、野菜スティックを飲み込んだ貴美子の秘奥をのぞき込むようにして笑い出す。
「今夜の『かおり』で『貴美子スティック』という名前で売り出そうかしら。『しのぶエッグ』以来のヒットになるかもしれないわ」
そう言うと香織はセロリを一本つまみ上げ、貴美子に無理やり銜えさせる。
「あ、あっ……」
とんでもないものを口にさせられた貴美子は反射的に吐き出そうとするが、文子と良江に無理やり顎を持たれ、咀嚼させられる。
「ちゃんと食べるのよ」
「塩加減はどう? 薄い? 濃い? 何とか言いなさい」
ようやくセロリを飲み込んだ貴美子の口に、今度は人参が詰め込まれる。酒の酔いによる吐き気を懸命にこらえている貴美子にとってこの行為は拷問に等しい。貴美子は口内に押し込まれる野菜を目を白黒させながら嚥下して行くのだ。
一方、すっかり自分を失った裕子は娘の前で堂々とばかりに股を開き、敦子に吹き込まれるまま里佳子に「性教育」を施している。
「こ、これがクリトリス……女の一番感じる箇所よ……」
「気持ちよくなると、こ、ここの○○線から愛液が出て、スムーズな性交ができるようになるの」
「ここが膣口、ここに男の人のオチンチンを受け入れるの……わかる? 里佳ちゃん」
酔いに濁った目でそんなことを口走る裕子の姿を、香織の構えるビデオカメラと、順子のデジタルカメラが冷酷に記録して行く。
野菜スティックを下の口一杯にくわえ込んでは、自らの愛液で濡れたセロリやキュウリを次々に食べさせられて行く貴美子の様子も、文子と良江が交互に撮影している。
平和な家族の団欒の場所であった小椋家のリビングルームは一変して淫鬼の跳梁する性の地獄と化し、裕子、貴美子、里佳子の三人は終わることのない淫獄の中で呻き、悶え苦しみ続けるのだった。

翌日、東中へ向かう少年少女の中に、そうろうとした足取りで登校する香奈の姿があった。
前日、小椋家との勝負に負けたしのぶ、健一、香奈の三人は約束どおり全裸でのストリーキングをさせられた。健一と香奈だけは許してと狂ったように泣きわめくしのぶを持て余した黒田と沢木は、しのぶだけは素顔をさらし、さらにローターを膣内に装填したまま走ることを条件に、健一と香奈についてはマスクの着用を許可したのである。
しかし、顔を覆うマスクを許されたとはいえ、何もかも丸出しにした素っ裸で早朝の街を走らなければならない恐怖と羞恥は、わずか中学3年と1年の少年少女にとって到底耐えられるものではない。嫌らしい目付きをした中年男たちに囲まれ、獣のような視線を素肌に感じながら走るのもたまらない屈辱だが、家族全員で犯している「猥褻物陳列罪」のせいで、香奈たちが時々出会う巡回中の警察官にいつ呼び止められるかと思うと、気が気ではないのだ。
健一と香奈は気を失いそうな汚辱感の中、まるで雲の上を走るような頼りない足取りでようやくゴールの東中央公園までたどり着いたのである。
そこで香奈は健一とともにマスクを剥ぎ取られ、しのぶと3人並んでオナニーをすることを強いられたのだ。
しかし、ローターを装填して走っていたため既に身体に火がついたようになっているしのぶや、マゾヒスティックな露出の感覚を身につけつつある健一はともかく、いまだ身体に幼さの残る香奈がそのような場面で容易に快感を得られるはずがない。結局香奈は一足先に頂上を極めたしのぶの手を借りて、ようやく羞恥のクライマックスへとたどり着いたのである。
昨夜から今朝にかけてのおぞましい体験――清々しい朝の光の中を歩いていると、まるで悪い夢を見ていたとしか思えない。前後を歩く生徒たちも特段香奈に対して好奇の目を向ける訳でもない。
(まだみんなには知られていないのだ)
香奈は小さく安堵のため息をつく。考えて見れば自分自身、昨夜までは母のしのぶと兄の健一が、おぞましい淫獄の中でのたうっていることなどまったく気づかなかった。東中の他の生徒が気づいていないのも無理はない。
しかしこの時、香奈はまだ知らない。ニュータウンの中で加藤家と小椋家の性奴隷に関する噂が、さざ波が立つように広まりつつあることを。駅前でバニーガールの格好でティッシュを配っていたしのぶと裕子を目撃したもの、「かおり」のステージの性奴たちによる狂宴に参加したもの、そして早朝の半裸ジョギングと終点の東公園での全裸オナニーショーを楽しんだもの、それらの数は当然日を追うごとに増加しているのだ。
噂は噂を呼び、合体し、増幅され、伝播のエネルギーを日に日に増している。そのスピードはしのぶや裕子たちを地獄へとたたき込んだ当の本人である香織の予想を上回るほどであった。その一端を香奈はやがて知ることになる。
突然後ろから肩を叩かれて香奈は振り返る。そこには親友――「昨日までは」という但し書きをつけた方が良いかもしれないが――の山崎留美の姿があった。
「香奈、おはよう」
「お、おはよう……」
香奈は挨拶を返すが、その表情は強ばり、口元に笑みはない。
香奈が昨夜「かおり」で全裸を晒し、さらに小椋里佳子の手によって、しのぶや健一とともに恥ずかしい絶頂を極める姿を晒すことになったのは、もとはといえば留美による深夜の呼び出しが原因である。
当然香奈は信頼する友人に裏切られたと感じており、留美に対する視線は冷たい。
「香奈ったら冷たいじゃない。いつもの待ち合わせの場所に行ったのに、すっぽかして先に行っちゃうなんて」
留美は香奈の硬い表情にも気づかないかのように話しかける。
「……一人で行きたい気分だったから」
「そう、折角感想を聞きたかったのに。町中を素っ裸で走ったことの」
留美が急にそんなことを言い出したので香奈は慌てて遮る。
「る、留美っ、一体何を言うのっ」
「だって、香奈ったら今朝、駅前から東公園まで裸でジョギングしたんでしょう? お母様や健一さんと一緒に」
留美がことさらに大きな声でそう言うと、前を歩く上級生らしい男子生徒が何事かと振り向く。
「留美……お願い……」
香奈はすがるような目を留美に向ける。留美は香奈がまるでその場に裸で立っているかのように、頭のてっぺんから足の先までしげしげと見つめるとやがて口を開く。
「香奈のスカート、少し長くない?」
「えっ?」
急に何を言い出すのかと香奈は聞き返す。
「香奈は足が奇麗なんだから、もっとスカートは短くした方がいいかもしれないわ」
「そ、そうかしら……」
香奈は戸惑いながら留美の表情を伺うが、留美の視線は依然として香奈のスカートの裾当たりに注がれている。
「ひょっとして……ここで直せというの?」
「何もそこまでは言ってないわ」
留美は笑みを浮かべるが、その視線は冷たい。香奈は急いで周囲を見回す。幸い少し登校の列が途切れたため、前後に人の姿は見えない。
香奈は素早くスカートのホックを外し、腰の部分を折り畳む。東中の生徒の中には人前で恥ずかしくもなくスカートの裾を調整するものもいるが、しのぶに厳しく躾けられた香奈には考えられないことである。

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