特に道夫と関係をもち、それを裕子に対して隠していたことは許せない。百歩譲って道夫とのことは香織に強いられたことだから仕方がなかったとしても、吉原のソープ「プシキャット」で働かされていた時もずっと行動を共にしていた裕子に対して告白する機会はいくらでもあったはずだ。
(あの泥棒猫はあの人と一緒になって私を馬鹿にしていたんだわ)
暗い怒りにとらわれた裕子は、昨夜「かおり」のショーのフィナーレとしてしのぶに対して行った責めを思い出す。小椋家と加藤家の対抗戦と銘打たれたそのショーでは、裕子がしのぶを、貴美子が健一を、そして里佳子が香奈を責め、制限時間以内に全員をいかせることで裕子たちが勝利を得たのである。
その結果今朝のジョギングは加藤家の3人だけで、しかも始めから全裸で行われることになったのだ。
(しのぶさんったら、どんな顔をして走ったのかしら)
裕子はしのぶが息子の健一、娘の香奈と一緒に素っ裸で、たくさんの伴走者に囲まれながら朝のニュータウンを走り抜ける光景を想像する。
里佳子のボーイフレンドの健一やいまだ中学1年生の香奈が、いくら早朝で人通りが少ないとはいえ、素っ裸で町中を走らされる羞恥と恐怖、そして絶望と屈辱を思うと裕子も胸の奥に針で刺されたような痛みを覚える。しかしそれは、そのペナルティを受けたのが自分達でなくてよかったという利己的な安堵によってすぐに癒されていく。
裕子はこれまでこのような自己中心な人間ではなかった。いや、少なくとも自分ではそうでないと考えていた。しかし、人間の高潔さや誇りといったものは、与えられた環境で容易に変化する。かつて周囲の尊敬を集めていた大学講師でPTA会長、そして良妻賢母でもあった小椋裕子は、卑屈なまでの変貌を遂げていたのである。
「準備完了よ、いきなさい」
メイクを終えた良江は裕子の尻をパシンと叩く。脇坂が無言でドアのロックを開く、裕子ははっと我に返り、覚悟を決めて車から出ようとする。
「待ちなさい」
助手席から文子に声をかけられ、裕子はドアに手をかけたまま不安げな目を向ける。
「コートは脱いでいくのよ」
「えっ……」
裕子は衝撃に目を見開く。
「で、でも……この下は何も……」
「何をいまさらためらっているの。これまで堂々とトップレスで街中や、素っ裸で公園の中を走って来たんだから、もう慣れたでしょう。いまさらためらうことはないでしょう」
「そんな……」
「心配しなくても夜の『かおり』でのショーに間に合うように、迎えに来て上げるわよ。飯島先生は他の教師連中を誘わなきゃならないみたいだから」
さあ、愚図愚図しないで降りるのよ、と良江が馬鹿力を発揮し、無理やり裕子を車から押し出す。
素っ裸のままの裕子をおいたまま、飯島の車は無情にも発進する。一人残された裕子にはもはや他の選択肢はない。裕子は死んだ気になって整列している野球部員たちに向かって裸足のまま駆け出すのだった。
いきなり素っ裸の女が野球場に駆け込んで来たのを見た野球部員たちは驚きに目を丸くする。大きな乳房を弾ませ、形の良いヒップを振り立ててくるその美しい裸女が貴美子によく似ていることに気づいた部員たちはいっせいに喚声をあげる。
「素っ裸だ、素っ裸で走って来たぜ」
「さすがは貴美子のおふくろだ。娘顔負けの露出狂だぜ」
「娘の方が母親譲りっていうべきじゃないか」
「そんなことどっちでもいいや、貴美子よりもデカパイじゃないか。俺はこっちの方が良いぜ」
裕子はハアハア荒い息を弾ませながらようやく部員たちの前にたどり着く。裕子は若い欲望に満ちた視線を前身に浴びながら、羞恥や汚辱といった感情と共に、堪え切れない露出の快感に浸っている。そんな裕子に対して貴美子は氷のように冷静な表情を向けているのだった。
白軍で戦った野球部員たちは特別慰安室の前で列を成して待ち、扉が開かれるのを今か今かと待っている。
「おい、政和、お前はどっちにするんだ」
「どっちって……」
ショートの荒木満に聞かれたサードの内藤政和は怪訝な顔で聞き返す。
「貴美子の方に決まっているだろう」
「そうか、そうだよな……」
満は落ち着かない表情で今度はセカンドの大樹に顔を向ける。
「大樹はどっちだ」
「貴美子だ」
「ふん……そうだよな」
満はますます落ち着かない顔付きになる。
「俺は裕子にしゃぶらせるぜ」
逆転ホームランを放ったチームの主砲でレフトを守る坂東勇一がそう言ったので、他のメンバーは驚きの声を上げる。
「勇一、本気か」
「いくら美人っていったって、齢は42だ。俺のおふくろと同い年だぜ」
政和や大樹が口々に言い立てるのを勇一は「関係ねえ」とぴしゃりとはねつける。
「いや、関係ねえことはねえな。俺はあれくらいの齢の女が好きなんだ」
「勇一がマザコンだったとはな」
からかうように言う政和を勇一は「馬鹿野郎」と一喝する。
「別におふくろとやりたいとは思わねえ。ただ、ああいった大人の女が好みなんだ。それにあんな美人、芸能人でもなかなかいないぜ」
日頃無口な勇一が饒舌に話すのを、他の部員たちは珍しそうに聞いている。
「それに貴美子の母親ってところがいい。娘が他の男のチンポをしゃぶっているのをちらちら横目で見ながら俺のチンポをしゃぶらせるって考えただけで興奮するぜ」
「そんなもんかな」
大樹が首をひねっていると、突然満が「そうか、そうだよな」と大きな声を上げる。
「どうした、満」
政和に聞かれた満は「俺も裕子にするぜ」と声を弾ませる。
「お前、試合が始まる前に40のババアはいやだ、絶対貴美子にしてくれと言ってなかったか?」
「あれは取り消す」
「適当なやつだな」
大樹が呆れたような声を出すと、佐藤新也が「だからガタガタ言うのは女を見てからにしろと言ったんだ」と口を挟む。
「そういう新也はどっちにするんだ」
「俺は裕子にするぜ」
「正明は?」
政和に尋ねられた瀬尾正明は「俺も裕子だ」と答える。
熟女好みの勇一や満とは違い新也と正明が裕子を選んだのは、奴隷マネジャーに落ちた貴美子ならこれからもしゃぶらせる機会があるが、香織が直接管理している裕子の場合は今後いつチャンスが巡って来るか分からないからだった。また、母親が男をしゃぶっている時の貴美子の反応を見たいという理由もあった。
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