第164話 蟻地獄の妻たち(2)

昌子がその奇妙な借用書に署名と拇印を施すと、美智恵、奈美も続く。最後までためらっていた摩耶もようやく書名を終えると、香織は満足そうに頷く。
「それじゃあ開店まであまり時間がないから、準備を始めるわよ。まず下着を脱いで素っ裸になりなさい」
香織の言葉に4人の人妻たちはたじろいだ様子を見せる。
「心配しないでもヌードで接客しろなんて言わないわよ。もっともそういうのをご希望なら応じるけれど」
4人はそれでも警戒の色を隠せないが、圭子や春美にもせきたてられ、ようやくブラジャーとパンティを脱いで素っ裸になる。
「改めて見ると4人ともなかなか良い裸をしているじゃないの」
香織は素っ裸のまま乳房や股間を必死で隠し、フロアにうずくまっている4人の役員たちを見て、圭子や春美と笑い合う。
龍が店のバックヤードから衣装を持ってくる。それは派手な色合いのチャイナドレスであった。
「昌子、美智恵、奈美はそれを着るのよ」
美智恵はスリットの深いドレスを手にして顔を赤らめる。
「あ、あの……下着は着けてはいけないのですか?」
「何を馬鹿なことを言っているの。スリットの間からパンティが覗いたら興醒めでしょう」
圭子に決めつけられて美智恵は諦めてドレスを身につける。昌子と奈美も美智恵に倣ってドレスを着る。昌子は緑、美智恵は青、奈美は赤とそれぞれ色違いのドレスを身につけ、お揃いの黒いパンプスを履く。
ひとり素っ裸のまま残された摩耶は戸惑いの表情を浮かべている。香織は3人の女役員の身支度が完了したのを確認すると「立ちなさい」と命じる。
チャイナドレスを身につけた3人の人妻が並んで立つ。ノーパン、ノーブラの上に扇情的な衣装を身につけさせられた3人はなんとも頼りない心地だが、先程の下着姿や裸に比べるとはるかに気持ちが落ち着くのが不思議である。
「あなたも立つのよ」
香織がしゃがんだままの摩耶に命じる。ドレスを身につけた3人の隣りにひとり素っ裸のままの摩耶が立たされる。
摩耶は自分だけが裸のままにされていることがひどく惨めに感じられる。4人とも香織たちによって卑猥な写真で脅迫され、借用書で縛られた奴隷同然の身分であるのだが、他の3人がまがりなりにも服を着ることを許されているのに自分だけが裸であることがたまらない気持ちになるのだ。
「さっきあなたは奴隷契約と言ったわね。確かに労働の対価で直接借金を返させるのは奴隷同然の身分と言えるわ。逆に言うと、あなたたちにそれを十分自覚してもらわないといけないわ」
香織は4人の人妻を見比べながらそんな風に話しかける。
「奴隷のうまい扱い方、って知っているかしら」
突然香織にそんなことを尋ねられた昌子は戸惑いの表情を浮かべる。
「し、知りませんわ……」
「そう、成績の良い息子さんをお持ちだから、それくらいご存じだと思っていたわ」
香織は皮肉っぽい微笑を浮かべる。
「それは、奴隷の間に身分の格差を設けることよ」
香織の言葉に4人はいっせいに訝しげな顔付きになる。
「奴隷の数も随分増えてきたわ。特にあなたたち4人が加入してからは、女はこれまでの5人から9人へと倍近くになった。それで奴隷に等級をつけることにしたの」
(5人……)
摩耶はその数を聞いて愕然とする。昌子たちも衝撃を受けたような顔付きになっている。
小椋裕子と加藤しのぶは、香織や文子たちの奴隷同然になっていることは、自治会集会場での出来事で分かっていたが、それ以外にも既に3人が香織たちの生け贄となっているということか。
(いったい誰が……)
東中のPTAの母親の誰かだろうか……それとも……。
(もしや)
ある可能性に行き着いて摩耶は、その想像の恐ろしさに顔を引きつらせる。
「これは私の経験では結構効果があるのよ。経験者なら分かるでしょう。ねえ、岡部さん」
香織はそう言うと摩耶の方を見て微笑する。
「悪趣味だわ……」
「そう、確かに悪趣味かもしれないわね。でも効き目は満点なの」
摩耶が顔をしかめるのを見ながら、香織はさも楽しそうにクスクス笑う。
「女奴隷はA級、B級、C級の3つのクラスに分ける。A級奴隷は単に女奴隷とも呼ばれ、調教師も兼ね、他の奴隷の指導にあたる。あなたたち4人のなかにはA級はいないわ。B級は通常のクラスで牝犬奴隷と呼ばれる。C級は牝豚奴隷と呼ばれ、A級やB級奴隷に対して奉仕する」
香織はそう言うと改めて4人の人妻を順に見回す。
「そんな格好をさせられていれば誰がB級で誰がC級なのか分かるでしょう? チャイナドレスを着せられた3人はB級奴隷。そして……」
香織はひとり素っ裸の摩耶に視線を留める。
「摩耶、あなただけがC級、牝豚奴隷よ」

その夜の「かおり」の扉には貸切りの札が下げられていた。小椋里佳子と加藤香奈という東中きっての美少女2人が処女を、またホモセクシュアルの快楽をたたき込まれた美少年、加藤健一が童貞を散らすという一大イベントを見逃すまいと名乗り出た関係者や招待客だけでさほど広くない店内は満員になることが分かっていたからだ。
それに中学生を淫らなショーに引きずり出し、肉の交わりを強いることは言うまでもなく犯罪である。たまたま現れた一見客がショーの内容に仰天して警察に通報したら厄介である。
「かおり」の店内には下記のような客が集まっていた。

常連客で以前からの香織の仲間:黒田、沢木
同じく常連客:脇坂、朽木、赤沢
東中教師と関係者:小塚美樹、桑田、村松、羽田、成田、荏原誠一
同じくPTA:中城圭子、福山春美
A工業高校教師:飯島、長岡敦子、酒田順子、浜村、島田
自治会関係者:佐藤文子、瀬尾良江

以上20名である。
このうち東中の体育教師でホモセクシュアルの村松、同じく社会科教師でロリコンの羽田、一見イケメン風だがやはりロリコンの理科教師成田、そしてA工業国語教師の浜村と歴史の島田の5名が新顔だった。
20人の客の接待をするのはチャイナドレスに身を包んだ近藤昌子、長山美智恵、山崎奈美、そして小椋貴美子の4人の「B級奴隷たち」である。
貴美子は黒いチャイナドレスに3人と同じ黒のパンプスを履き、やはりノーパンなのか深いスリットからすらりと伸びた肢を覗かせながら、客たちにビールを注いで回っている。
「チャイナドレスが似合うじゃないか、貴美子」
A工業の教師たちが陣取るボックスで、ぎこちない手つきでお酌をする貴美子の肩を飯島が馴れ馴れしく抱く。

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