第165話 蟻地獄の妻たち(3)

「あ、ありがとうございます」
貴美子は強ばった愛想笑いを浮かべる。どことなく座り方が不自然な貴美子を見て、飯島が残酷そうにニヤリと笑う。
「ちょっとキスさせろ」
飯島はいきなり貴美子を抱き寄せ、唇を奪う。貴美子は「うっ、ううっ……」と苦しげに呻きながらも逆らうこともできず、野卑な体育教師の玩弄に身を任せている。
はじめて「かおり」に足を踏み入れた浜村と島田は、同僚の飯島が美しい女子大生を思うがままに弄んでいるのを呆気に取られたように見つめている。
「どうだ、まだケツが痛いか」
「えっ……」
飯島の遠慮のない声に貴美子は表情を引きつらせ、顔を逸らせる。
「20発もケツバットを食らったんだ。尻が猿みたいに腫れ上がったじゃないか」
「だ、大丈夫です」
貴美子は力無く顔を振る。飯島はそんな貴美子に残酷そうな視線を向けていたが、やがて「見せてみろ」と告げる。
「えっ……」
「見せろと言っているんだ」
「許して……」
あまりのことに貴美子は飯島に哀願する。
「飯島先生、2人で何をひそひそやっているの」
ボックス席で生ビールを美味しそうに飲んでいる保健担当教師の長岡敦子が口を開く。
「そうよ、怪しいわね」
隣でやはり最初のジョッキをほとんど飲み干している生物担当の酒田順子がニヤリと笑う。
「いや、貴美子が今日遅刻をしたお仕置きにケツバットを20発ばかし食らわせたんですよ。さすがに効いたのか、座りにくそうにしているもんだから、様子を聞いていたのですよ」
「ケツバット……」
事なかれ主義で有名な国語担当教師の浜村が、驚きに目を見張る。
「飯島先生はこの娘に体罰を与えたのかね」
「体罰って……貴美子は生徒じゃありませんよ。浜村先生」
「しかし……」
「ちょっと気合を入れただけです。野球部では普通にやっていることですよ」
目を丸くしている浜村をよそに、敦子が手に持ったビールのジョッキを置いて話し出す。
「女の子にケツバットなんてひどいわね、飯島先生ったら。赤ちゃんが出来ない身体になったらどうするの」
「大袈裟ですよ、長岡先生」
「大袈裟なもんですか。どうにかなっていないかちょっと見て上げるわ。お尻を出しなさい、貴美子」
そこで敦子の意図に気づいた順子はケラケラ笑い出すが、貴美子はそれどころではない。
「そ、そんな……」
「何をもったいぶっているの。昨夜はステージであんな破廉恥な姿を晒したんだから、お尻を見せるくらいどうってことはないでしょう」
「そうよ、そうよ。あんたの妹なんか、今夜はここのステージで、処女を喪失する決定的瞬間を観客の前に晒すのよ。それに比べたらお尻を出すくらいなんてことはないわよ」
唖然としている貴美子に敦子と順子は追い打ちをかけるように言い放つ。
あまりの屈辱に肩先を震わせていた貴美子だったが、2人の女教師に囃し立てられ、立ち上がるとボックス席の方へ尻を向け、ゆっくりとドレスの裾を持ち上げる。
浜村とともに「かおり」の新顔である歴史教師の島田が、呆気に取られたような視線を徐々に姿を現していく貴美子の尻に向けている。
貴美子の形の良い尻がすっかりあらわになる。それは飯島の言う通り合計20発の「ケツバット」の洗礼を受けたせいか、心持ち赤みを帯びているように見える。
「照明が暗いせいか、よく分からないわね」
敦子は小刻みに震える貴美子の尻に顔を寄せるようにして、尻肉を軽く叩いたり、揉んだりしていたがやがて「まあ、よく分からないけれど、大丈夫みたいだわ」と言いながら弾力のある尻をぴしゃぴしゃと平手打ちする。
「そんないい加減なことでいいの? 敦子」
「女のお尻は丈夫にできているのよ。少々のことで壊れたりするもんですか」
「さっきと言っていることが全然違うじゃない」
順子はさすがに苦笑する。
チャイナドレスの裾を大きく持ち上げている貴美子は、裸の尻に教師たちの淫らな視線を感じ、羞恥と屈辱に小刻みに体を震わせているのだ。

隣のボックスでは緑色のチャイナドレスに豊満な身体を包んだPTA副会長の池谷昌子が、東中教師たちのグラスに順にビールを注いでいた。
「く、桑田先生……どうぞ」
昌子がぎこちない手つきで桑田に酌をする。桑田はそんな昌子の胸元に遠慮のない視線を向けている。
「いやあ、いつもPTAの役員会でお目にかかるのとは違い、実に色っぽいですなあ」
「そ、そうですか……有り難うございます」
桑田のギラギラした視線を感じた昌子は思わず顔を逸らす。
桑田以外の教師達は「かおり」に来るのは初めてであったため、最初のうちはその異様な雰囲気に呑まれていたが、アルコールが回ったせいか次第にほぐれ、昌子に遠慮のない視線を投げかけながら互いに言葉を交わすようになる。
「しかし今日は楽しみのような残念なような複雑な気分ですよ」
社会科教師の羽田がそうこぼしながらぐいとビールを飲む。
「ほう、どうしてですか。羽田先生」
羽田とほぼ同年齢だが、風采の上がらない羽田とは違ってなかなかの男前であり、女生徒からも人気のある理科教師の成田が応じる。
「だって、わが東中で一、二を争う美少女である小椋里佳子と加藤香奈がそろって処女を散らすのでしょう? 最高の見物とも言えますが、その相手が自分でないことが実に残念です」
「なるほど、そういうことですか」
成田がニヤリと笑う。
「自分でないって、まだ諦めない方がいいんじゃないの? 羽田先生」
英語教師の小塚美樹が口を挟んだので、羽田が「えっ?」という顔付きになる。
「それはどういうことですか?」
「いきなりご指名があるかもしれない、ってことよ」
羽田と成田が不安と好奇心が入り交じった顔を美樹に向ける。
「里佳子と香奈が誰を相手に処女を捨てるのか、まだ私も聞かされていないわ。ステージにあがった里佳子から『羽田先生、お願いします』って呼ばれるかも知れない、ってことよ」
「そ、それは……」
羽田が急にそわそわした顔付きになり、グラスのビールを一気に飲み干す。
「何をぼんやりしているの。羽田先生のグラスが空いているわよ、昌子」
教師達の恐ろしい会話を呆然とした表情で聞いていた昌子に、美樹が叱咤するような声をかける。昌子が慌てて酌をするが、羽田は上の空と言った風情である。

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