第172話 幼い贄(2)

「言うとおりにする気になった?」
しのぶはハア、ハアと息を切らせながら、床に伏すようにしてすすり泣いている昌子と美智恵に念を押す。
「A級奴隷はB級以下の奴隷の調教師でもあるのよ。逆らうことは許さないわ」
「わ、わかりました……もう打たないで」
昌子は弱々しい声で頷くと、美智恵も嗚咽しながら首を縦に振る。
そんな三人の人妻の様子を、小椋裕子は愕然とした表情で眺めている。裕子はこのステージで「C級奴隷」として徹底的な侮辱を受けるということは香織から予め言い渡されていた。香織はその際に、裕子以外の奴隷のほとんどはB級奴隷になると付け加えており、それは仕方がないことと裕子は悲しい諦観をもって裕子は受け止めていた。
もともと加藤しのぶを救うための行為から発したことだったが、裕子自身の軽率さが貴美子、里佳子、そして昌子や奈美たちPTA役員の裕子のシンパを地獄へ引きずり込んだのは事実である。その贖罪の意味でも、裕子が彼女たちよりも上のランクにいるべきではないと思っていたのである。
しかし自分以外のほとんどはB級奴隷というのは、他にもC級がいるという意味で裕子は受け取っており、他に「A級奴隷」が存在するとは思っていなかったのだ。A級奴隷は今後調教の進展次第で、香織が奴隷の何人かに与える格付けだとばかり思っていたのである。
今回のすべての出来事の発端となった加藤しのぶを「A級奴隷」と格付けするところに、裕子は香織の巧妙さ、したたかさを感じる。これによってPTAの役員同士に僅かに残っていた信頼関係は確実に崩壊することだろう。そこに残るのは奴隷の間の憎しみと軽蔑、競争心に嫉妬心といった醜い感情だけである。
しのぶはステージの上に立てられた柱に、下半身裸の健一の縄尻をつなぎ止める。だらりと垂れ下がったままの健一の陰茎をしのぶは指で弾く。
「だ、だらしがないわね、健一。男の子らしくもっと隆々とさせるのよ」
しのぶは頬を薄赤く染めながらそう言うと、息子の性器から目を逸らせて昌子と美智恵に向き直る。
「ドレスを脱ぎなさい」
二人の人妻は恥ずかしげにうなだれ、しのぶに命じられるままチャイナドレスを脱ぐ。41歳の昌子の豊満な裸身、39歳の美智恵のどことなく幼さを残している裸身がステージの上で露わになる。
「かおり」のフロアを埋めた観客たちの中には昌子と美智恵の裸を初めて目にするものたちも多い。新顔奴隷の円熟味を帯びた裸身に、観客からどよめきの声が上がる。
「なかなか見事な裸じゃない」
しのぶは口元にわざと笑みを浮かべながら二人の人妻に命じる。
「手を頭の後ろで組んで、一回りしなさい。お客様に素っ裸をよく見てもらうのよ」
昌子と美智恵は無言で頷くと立ち上がり、命じられたとおり両手を頭の後ろで組む。途端にしのぶの乗馬鞭が2人の柔肌に飛ぶ。
「ああっ」
「言ったでしょう。私はあなたたちの調教師だと。横着して黙っていないで、命令されたことには『はい、調教師様』とか『わかりました、調教師様』と返事をするのよ」
「は、はい……調教師様」
「わかりました……調教師様」
昌子と美智恵がそう返事をすると、しのぶは満足げに頷く。
昌子と美智恵はそろって素っ裸のままステージの上で一回りする。2つの白い裸身がスポットライトに浮かび上がり、観客の男たちはゴクリと唾を飲み込む。
「始めなさい」
「はい、調教師様」
昌子と美智恵は緊縛された健一に近づく。2人の人妻は自然に攻め口を分担し、昌子が健一の腹部に舌を這わせると美智恵は白いカッターシャツのボタンをゆっくり外しながらうなじに唇を当てる。
「も、もっと情熱的に愛撫するのよ。お前達がいつも自分の愛人にやっているみたいにね」
少年に対してぎこちない愛撫を開始した昌子と美智恵に、しのぶは声をかける。2人の人妻は同時に恨めしげな視線を向ける。2人は媚薬を投与されて訳が分からなくなった状態でとはいえ、それぞれ自らの息子と義弟との背徳の関係を告白させられている。そんなおぞましい事実を香織たちに知られたことは、生殺与奪の権を握られたようなものである。
「かおり」という限られた場所で、限られた客に対して恥ずかしい姿を晒すことはまだしも耐えられたが、自分のそんな秘密が不特定多数の人間に広がることや、裕子やしのぶたちのように衆人環視の中で嬲られることだけは避けなければならない。それはすなわち自分の愛する家族の崩壊につながるのだ。
健一からカッターシャツを脱がせた美智恵は、美少年の首筋から胸元、そして乳首にかけてチュッ、チュッと音を立てて接吻の雨を降らす。一方、昌子は健一の引き締まった内腿から足先に至るまでチロチロと舌を這わせる。
「なかなか巧いじゃない。お前達の愛人にはいつもそんな風にしてあげているの?」
平然とした表情を保ちながら昌子と美智恵にからかいの言葉をかけるしのぶだったが、内心はすっかり動揺していた。
(健一、許して、許して頂戴ーー)
加藤家では香奈がお父さんっ子である一方、健一は小さなころからしのぶにべったり懐いていた。思春期を迎えてからは母親の干渉をうとましげに拒むこともあったが、基本的にはしのぶと健一の仲は良好だったと言える。
しのぶが夫の達彦と初めて出会ったのは彼女が中一、達彦が大学一年になった年である。娘の香奈が当時のしのぶの年齢になった訳だが、その香奈と健一を見ていると、しのぶはまるで昔の自分と達彦を見ているような錯覚に陥る。
それほど健一は達彦の若いころの面影を映しているのだ。そんな健一が自分と同様、奴隷の境遇に落とされ、偏執的な同性愛者の餌食になったばかりでなく、露出ジョギングまで強いられ、今晩はここ「かおり」のステージで衆人環視の前で童貞を散らされるのだ。
健一にとってそれは男の誇り、そして人間としての尊厳がずたずたに切り裂かれるようなことだろう。そんな健一の悲惨さを思うとしのぶは胸が潰れるような
痛みを感じる。
しかしその一方でしのぶは、今目の前で昌子や美智恵にねっとりと愛撫されながら、次第に忘我の境地に入り出している健一を見ていると、なんとも奇妙な気持ちになってくるのだ。
健一が喘ぐ顔が昔の達彦のそれと重なり、苦しくなるような興奮を知覚したしのぶは、健一を追い込んでいる昌子や美智恵に対して腹立たしい気分になってくる。それは明らかに嫉妬だったが、血を分けた息子に対してそんな倒錯した感情を覚える自分を否定しようと、しのぶはことさらに昌子と美智恵をけしかけるのだ。
「そんな手緩いやり方じゃいつまで立ってもその気にならないわよ。もっとそのものずばりを攻めなさい」
しのぶが苛立たしげな声をあげると、二人の人妻は再び「はい、調教師様」と答え、健一の股間に身体を寄せる。
昌子が豊満な乳房を健一の肉棒に押し付け、挟み込むようにすると背後に回った美智恵は昌子の動作に呼応するように健一の形のよい尻をぐいと押し開き、臀裂に舌を這わせる。
いよいよ敏感な2つの急所への攻撃を開始された健一の裸身が電流に触れたようにぶるっと痙攣する。眉を切なげにしかめて快感に耐えている健一を見ていると、しのぶの身体はますます嫉妬で熱くなる。

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