第179話 幼い贄(9)

「自分の処女を捧げる相手に、感謝のキッスをしなさい」
里佳子と香奈は「はい……」と頷き、身体を前に傾ける。黒い革製のマスクから口だけが露出した男たちの頭部に、二人の美少女の顔が覆いかぶさっていく。
「ああ……」
美少女の熱い舌先を感じた二人の男は、まるで砂漠で水を与えられた旅人のように、貪欲にその甘い舌先を吸い、蜜のような唾液をすすり上げる。
二組の奇妙なカップルはようやく長い接吻を終える。里佳子と香奈の顔には諦念めいた静かな表情が浮かんでいる。二人の男は中腰になっている美少女たちの腰にゆっくりと手を伸ばす。
「皆さん、いよいよ決定的瞬間です。カメラの用意をどうぞ」
それまで美少女たちの淫靡なショーにすっかり引き込まれていた観客たちは史織の声に慌ててデジタルカメラや携帯電話を取り出す。
「り、里佳子……」
「香奈ちゃん……」
愛する娘がこんな形で無残に処女を奪われるのを間近で見せつけられている裕子としのぶは思わずその名を呼ぶ。しかし二人の少女は損な母親の声も耳に入らぬ風で、男たちの砲身が自らの秘奥に狙いをつけるのに協力するかのごとく、腰部をゆっくりと捩らせているのだ。
「あっ……」
里佳子の柳腰をがっちりと抱え込んだ達彦と思われる男は自らの方へぐいと引き込む。鉄のように硬化した怒張が里佳子の入り口に押し当てられると、いきなり貫いていく。
「ううっ!」
フラッシュの嵐がいっせいに里佳子の肌に浴びせかけられる。あっという間に処女を奪われた里佳子は、さすがに激しい苦痛に呻く。男はそんな里佳子を宥めるようにポン、ポンと丸い尻を叩くと、ゆっくりと抽送運動に入る。
「ああっ!」
同時に香奈の幼い秘奥を道夫とみられる男の肉茎が貫通する。里佳子と同じようにフラッシュの光が香奈の半裸身を覆い尽くす。痛みに悶える香奈を道夫は下からゆっくりと突き上げていく。
二人の男は処女を失った衝撃と痛みに呻く二人の美少女を宥めるように、余裕たっぷりで腰を使う。男たちのそれを初めて受け入れた美少女たちの膣が徐々に潤みを増し、男たちの抽送はさらに滑らかになる。里佳子と香奈は男たちの動きに翻弄されるように身体を小刻みに上下させていたが、やがて自らもその律動に合わせるかのように腰部をゆっくりとくねらせ始める。
「ああ……」
「あ、あはっ……」
二人の男がコリコリとしこった里佳子と香奈の花芯を肉棒ですり上げるようにすると、二人の美少女はたまらずはしたない声を漏らす。熱いため息を競い合うように吐きながらためらいがちに腰を使う里佳子と香奈を見た史織は、ぷっと吹き出す。
「処女を奪われたばかりだというのに、もう腰を使い始めているわ。とんでもない淫乱娘ね」
史織のそんな言葉に、観客たちはどっと笑い声を上げる。そんな嘲笑を浴びながら、素っ裸のまま舞台脇に立たされている小椋裕子は、身体の内側からじりじりと炙られるような苦痛に身を捩らせている。
愛する娘が衆人環視の中、加藤達彦によって無残に純潔を散らされるのと同時に夫である道夫が獣のように加藤香奈の処女を蹂躙するのを見せつけられる凄まじい精神的苦痛。裕子が長い時間をかけて築き上げた夫婦、そして親子の絆がずたずたに引きちぎられ、泥まみれになっていくのだ。
道夫がどうして史織に指示されるまま、あのように積極的に香奈を犯しているのか裕子にはわからない。
道夫との夫婦関係を香織によって事実上解消させられてからかなりの時が経つ。その間道夫は香織のマンションに軟禁させられてしのぶと疑似的な夫婦関係を持たされており、裕子とは一切言葉を交わしていない。
その間に道夫に何が起きたのか。香織と史織の母娘――香織は他の奴隷達の調教に忙しいから、特に史織によって道夫は調教されたのだろうか。
舞台上の史織の、道夫と達彦を扱う際の慣れた様子はそんな裕子の恐ろしい仮説を十分に裏付けている。自分の娘のような年齢の少女に責められ続けた道夫はついに幼いサディスティンの前に屈服したのか。
(いや、そればかりではない)
獣のように香奈の身体を貪る夫の姿を見つめる裕子は、道夫が単に史織の命令に従っているだけだとは思えない。道夫は少女を犯す妖しい淫楽に取り付かれているのではないか。そしてそれは、史織の身体によって教え込まれたものではないか。そして、しのぶの夫である加藤達彦に対しても同じようなことが行われたのでは。
そこまで考えを巡らせた裕子は、足元の大地が割れ、底なしの地の裂け目に落ちて行くような錯覚に、すっと気が遠くなる。ああ、ここまで堕とされた家族にはこの先何が待っているのだろう。禁断の快楽を味わった道夫は、いずれ里佳子や貴美子を犯すことも厭わなくなるのではないか。そして加藤家でも同じようなことが……。
裕子の隣に立つ加藤しのぶも、同様の感情に裸身を小刻みに震わせている。
しのぶの場合、裕子と違って夫の達彦がショーの舞台に引き出されてきたことへの純粋な驚きがある。達彦は小椋道夫とは違い、当初の史織への悪戯事件以来香織たちとは接触していないとしのぶは思っていた。したがってしのぶは裕子に対して、道夫を含む家族全員が奴隷に落とされた小椋家と自分たちとは違うというやや屈折した感情さえ抱いていたのである。
しかしそんなしのぶのささやかな優越感は吹き飛ばされた。いつの間に達彦は香織の手に落ちたのか。しのぶは混乱した頭で思い返す。
(あの時……)
しのぶはいつか裕子とともに中央公園までビキニでジョギングをさせられ、その後自治会の集会所裏で、掲示板に張り出された「達彦の性器のクローズアップ写真」を見ながら自慰行為を強いられたことを思い出す。
そもそもどうやって香織たちは達彦のそんな写真が入手できたのか。その時黒田は「香織に店に呼び出されて手コキをされたときに撮られた」と説明したが、しのぶとの約束で「かおり」に出入禁止になっているはずの達彦がどうして呼び出しに応じたのか、しのぶはその時不審に思ったものである。
(達彦さん……いったい何を考えているの?)
耳栓と目隠しをされた舞台上の達彦は、しのぶに見られていることなどまったく知らないといった風に、身体の上に乗せ上げた里佳子を時に激しく苛み、優しく慰め、そして甘く焦らしていく。里佳子はそんな達彦の手管にすっかり翻弄され、つい今し方まで処女だったと思えないような切なげなすすり泣きさえ上げているのだ。達彦が里佳子の背中に手を回すと里佳子は自らすすんで達彦の胸の上に崩れ落ち、甘い接吻を交わし合う。
(達彦さん……)
しっかりと腰部はつながったまま、まるで恋人同士のような、夫婦のような接吻を交わし合う 達彦と里佳子を、しのぶは呆然と見つめている。しのぶの胸の中に暗い嫉妬の炎が燃え上がり、その激烈さは娘の香奈が衆人環視の中で処女を散らしていくことへの気遣いさえ一瞬忘れさせるほどだった。しかし、そんなしのぶの懊悩も、香奈の悲鳴のような声で中断される。
「ううっ!」
香奈を乗せ上げている道夫が絶息するような声を上げ、腰をブルブル震わせる。生まれて初めて男の射精を体内に注ぎ込まれた香奈は、これで何もかも終わったという暗い思いとともに、何か癒されたような不思議な感覚を味わっていた。誰かは分からないが処女を奪った男が、自分の身体で満足感を得たことが何か香奈を充足させるような思いにさせていたのだ。

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