『花と蛇』の京子

さて、鬼六作品の強い女の代表、『花と蛇』の京子についてです(以下は、以前に書いたものを少し加筆訂正しています)。

山崎探偵事務所助手で空手二段という強烈なキャラクターを持つ京子は、それだけでも物語の主役を張る資格は十分です。京子は物語開幕間もなく、静子夫人救出のために大活躍し、奮戦空しく森田組に捕らえられますが、花と蛇ファンの中にはこの、京子の登場から前編の終了までが作品中の白眉にあたるとする人達が多いです。

一昔前の大衆小説は勧善懲悪が当たり前で、また今考えると若干信じ難いことです、これはSM小説の世界でもおおむね変らぬ常識でした。花と蛇は一見、正統派の大衆小説の体裁をとっており、また、作者の団氏も大衆小説の手慣れた書き手だったため、連載当時は京子が登場した時点で、静子夫人救出による結末を予感した奇ク読者も多かった筈です。

しかし団氏は見事にそれを裏切ってしまいます。静子夫人を救出する筈だった京子は、捕えられた上で丸裸にむかれ、森田組・葉桜団の卑劣な男女が見守る前でなんと立小便を強制されるという、勝ち気な彼女にとっては最も辛く恥ずかしい責めを受けます。

勧善懲悪的な筋立てに慣れた当時の読者にとって、正義の味方が落花無残の姿を晒しつつ敗北していくというのは、大変なショックであったに違いないと思います(筆者も初めて読んだときには、この様な話の展開があって良いのか、と、非常な衝撃を受けたものです)。

登場時の鮮烈さもあって、京子のこの「鉄火娘」というキャラクターは非常に受けたようです。奇ク誌上でも主人公である静子ファンにも劣らず目につくのは京子ファンの声で、作者である団氏も京子に関しては静子夫人に次ぐ副主人公としての位置づけをしているようです。

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